守りたい理由・・・前編
魔族と人間との争いが絶えない時代、戦争を嫌い平和を願う者は心痛めていた時代の事だった・・・・・
「子分その1〜(怒)何をぼさっとしておるか!?鉄拳喰らわすぞ、くらぁ!!」
「はいぃっ!自分はきびきびと速やかに訓練行うのでどうか鉄拳はご勘弁ください、ジュリア軍曹殿!」
誰よりも平和を願う筈の女性、スザナ・ジュリアが同じ願いを共有する筈の同志であるコンラッドにスパルタ訓練を行っていた。
たまたまその場にいたコンラッド幼馴染みのグリエ・ヨザックは、滅多に見れない幼馴染みのへたれた姿に笑いを抑えられなかった。
「ぶははは、コンラッドの奴すっかりジュリア嬢の尻に敷かれてるぜ。こいつあ傑作だ!」
・・・・ヨザック、後で覚えてろよ(怒)
コンラッドは笑い転げてるヨザックを訓練しつつ無言で睨みつけていた。
「そこで呑気に突っ立てる子分その2〜!突っ立てる暇がるなら貴様も訓練に参加せぬか!!」
ジュリアの矛先がヨザックにも行った様だ。
「へっ?子分その2って俺の事っすか?」
「当たり前だ、馬鹿者!貴様の自慢の筋肉を挽肉にされたくなければ、さっさと訓練を行わぬか!!」
「へ・・・へ〜い・・・(汗)」
「声が小さーい!(怒)」
「は、はいぃっ!自分も今から訓練に参加するであります、ジュリア軍曹殿!」
こ・・・恐えぇ〜・・・
ヨザックはコンラッドの元に行き、大人しくスパルタ訓練に参加し始めた。
「なぁ、コンラッド。一部の兵士から噂を聞いてたけど予想以上におっかねぇな、ジュリア軍曹殿・・・(ぼそぼそ・・・)」
「ふっ・・・人を笑い者にした報いだな、ヨザック(ぼそぼそ・・・)」
「無駄口叩くなぁ〜!(怒)貴様等のぶしなめしめじちょん切られたいかぁ〜!?」
「「はいぃっ!申し訳ありませんでした、ジュリア軍曹殿!」」
コンラッドとヨザックは大人しくジュリアのスパルタ訓練に励んだのでした。
スパルタ訓練後、コンラッドとヨザックは疲労によってへろへろとなって地べたに座り込んでいた。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・、ジュ・・・ジュリア軍曹殿の訓練、マジでキツかったな〜・・・」
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・、ふっ・・・甘いな、ヨザック。俺はここんとこ、毎日こんな訓練を受けてるぞ・・・」
「ゲッ・・・(汗)マジで!?そういやぁ、ウィンコット城に剣術指南の為に入り浸ってるんだっけか?ジュリア軍曹殿は毎度こんな感じかよ・・・」
「まぁな、軍曹モードになると誰も手を付けられなくてほとほと困ってる所だ・・・」
ヨザックはジュリアの方をちらりと見た。
そこには先程の鬼神の様な面相したジュリア軍曹殿とは裏腹に、にっこりと微笑みながらスパルタ訓練を終えた兵士達に労いの言葉を掛けているジュリアの姿があった。
「なぁ、コンラッド。お前さんにとってはジュリア嬢は大切な人であり、何に変えても守るべき対象なんだろう?あのジュリア嬢が大人しく守られる側なのか?」
「どちらかと言うと、ジュリアは守られる側より自分の力で守る側だろう。最近、俺も疑問に思ってきた。何で俺はそこまであの強者なジュリアを守りたいと思うんだろうな?」
「そんな事俺が知るかよ。同じ願いを共有する唯一の同志だからじゃないのか?それとも他の奴等の噂通り、やっぱりジュリア嬢に対して秘めたる恋心でもあるってのか?」
「それは無い(キッパリ)」
「本当か?」
「あぁ、断言しても良い。俺はジュリアは早くアーダルベルトと一緒になって少しは落ち着きという物を持ってもらえないかと思ってるくらいだぞ?」
「でもジュリア嬢はコンラッドの好みのタイプなんだろう?良く言えばさっぱり、悪く言えばがさつ・・・」
「あのジュリアが、がさつの一言で済ませられる性格だと思うか?」
「いや・・・、明らかにがさつレベルを遥かに上回ってるな・・・(汗)」
「だろう?俺はさっぱりしてもう少し可憐で可愛らしい人の方が好みだ」
「確かに、あのジュリア嬢はグランツの旦那みたいに懐が大きい奴じゃないと手に負えそうにないっすね」
コンラッドとヨザックがふと気が付くと、2人の元にミレーユが駆け寄って来た。
「2人共、訓練お疲れ様。今日もジュリアにこってりと扱かれた様ね」
「まぁな、今日もジュリアの軍曹モードが絶好調に炸裂してたよ」
「なぁ、ミレーユ嬢。時々思うんっすけど、本当にジュリア嬢は目が見えないんっすか?軍曹モード時の迷いも無く真っ直ぐにこっちを見据える恐ろしいほどの眼光、本当は見えてるんじゃないかって思えるくらいですぜ?」
「ジュリア本人が見えないって言ってるんだから、そうなんでしょう。ただ、光と影の判別くらいはできるみたいだけどね」
「それじゃあ、ほとんど見えないって事に変わり無いって事っすよね?」
「そういう事になるわね。実を言うと、私もジュリアの視力に関して一時期疑問に思った事があるのよ。それで・・・」
「それで・・・試しにジュリアに向かって石でも投げて見たって事は無いよな?」
「よく分かったわね、コンラート。その通り、それもかなり大きい石をジュリアに向けて投げてみたわ。まぁ、当てるつもりは無かったから、ジュリアの前をすれすれで通って落ちる様に投げてみたけどね」
随分と肝の据わったチャレンジャーなミレーユに、ピシっと固まりながらコンラッドとヨザックは信じられない様な顔を向けた。
さ・・・流石ジュリアの義妹、とんだ恐い者知らずだ・・・(汗)
「そ・・・それで、当たらない様にしたとしてもジュリアに向けて投げた石はどうなったんだ?」
「え〜と、確か・・・・」
当時のジュリアとミレーユ・・・
「ジュリア、ちょっとその場から動かないで」
「あら、どうして?」
「良いから、絶対に動かないでね!」
「はいはい、分かったわ」
「そのままでいてね・・・・えいっ!」
ミレーユは当たらない様に、ジュリアに向けてかなり大きな石を投げてみた。
すると、ジュリアは何かを察した様で身構えて・・・・
「チェストォー!」
ドコォ!!
自分の目の前を落ちかけてたかなり大きな石を鉄拳で粉砕したのだった。
「・・・ってな事になったわ」
((な・・・何て恐ろしい義姉妹だ・・・))
「当てる気は無かったとは言え、いきなりジュリアに向けて石を投げたのはどう考えても私が悪いじゃない?正直に訳を言って、当然ジュリアに謝ったわよ」
「よくあのジュリアには許してもらえたな」
「まぁね、代わりにジュリアの気の済むまで拳闘の組み手に付き合わされたけどね。それくらいは文句も言わずに、素直に付き合ったわよ」
「ジュリア嬢の鉄拳は石をも粉砕する威力があるとはねぇ・・・。コンラッドがジュリア嬢の鉄拳を喰らいたらが無い理由がよく分かった気がするぜ・・・」
「さすがの俺でも鉄拳の威力がそこまであるとは思わなかったよ。今までは、ミレーユがたまに治癒術を掛けてくれたからまだマシだったんだとつくづく思う」
「ミレーユ嬢は医療部隊であり、ジュリア嬢の右腕を勤めるお方ですからね。これからも期待してますぜ?ミレーユ嬢」
「無理よ。今度私は医療部隊から眞王廟の警備部隊に転属にするから、あんた達ばかりに構ってられないわ」
「じゃあ、ジュリアの補佐はこれからは誰がするんだ?」
「それはギーゼラが就いてくれるから大丈夫よ。彼女、すっかりジュリアに感化されて今では新たな軍曹殿と言われてるくらいだから、私の後継者としては申し分ないわ」
これからもっと苦労する事になるかもね、とクスクス笑いながらミレーユは言っていた。
コンラッドとヨザックは((おいおい、マジかよ・・・))と絶望的な顔をしていた。
「しかし、何でまたいきなり眞王廟の警備部隊なんかに?医療部隊から転属するにしても、ミレーユは弓矢の腕は誰にも引けを取らないのだから弓兵部隊とかには行かないのか?」
「それも考えたんだけどね、やっぱり眞王廟の警備部隊が1番良いなって思ったのよ」
未だに座り込んでいる2人の横に、ミレーユも座り込んで話し出した。
「私ね、本当の母様の記憶が無いのよ。私を産んでから直ぐに病気で亡くなったと父様が亡くなる前に聞いたわ。だからね、眞王廟で巫女をしていたという母様と同じ眞王廟関係の仕事に就けば、少しでも母様を感じられるんじゃないかって前から思ってたの」
「ふーん。でも、ミレーユ嬢の魔力なら十分巫女にもなれそうな気もしますけどね。巫女になろうとは思わなかったんですか?」
「巫女になるのって何だか堅苦しそうだもの。私は、こうして軍人関係の仕事をする方が性に合ってるのよ」
ミレーユは話し終えたら立ち上がって言った。
「そういう事だから、これからは私が近くにいられない分ジュリアのストッパー役を頼むわね、コンラート」
「無茶言うな!あのジュリアを止められるのはミレーユかアーダルベルト以外にいないだろう?!」
「ふふっ、それも訓練の1つだと思って観念する事ね。だから、ジュリアの同志であるあんたに任したわよ?」
それに・・・ジュリアはこれから先、大きな運命を1人で抱え込もうとしている・・・。
何故だか分からないけど、そんな気がするの。
「どうしたんだ?ミレーユ」
急に黙り込んだミレーユに、コンラッドが不思議そうに声を掛けた。
はっ・・・としたミレーユは、コンラッドに顔を向けながら言った。
「何でもないわ。私はそろそろ行くわ、じゃあね2人共。コンラート、またウィンコット城でね」
そう言ってミレーユは2人の元を去って行った。
ミレーユの予感が数年後に現実になるとは、誰も思っていなかった・・・・
ヨザックは子分その2で決定しました(笑)
43の日、44の日とはまったく関係ありませんが、せっかく子分その1とその2もといコンラッドとヨザックが出演するならその日に更新したかった(泣)
気がつけばエイプリルフールも何もやらなかったΣ( ̄□ ̄;)
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