守りたい理由・・・中編
本日のジュリア軍曹からの指令を終えたコンラッドは、ウィンコット城で一時の休息を取っていた。
コンラッドがソファーに寄り掛かっていると、軍曹モードがすっかり消えたジュリアが紅茶とお茶菓子のケーキを持ってコンラッドの元へとやって来た。
「あら、随分とお疲れねコンラッド」
コンラッドは疲れた体をなんとか起こし、自分の前のソファーへと腰掛けたジュリアと向かい合った。
「はい、お茶とお茶菓子を持ってきたから一緒に頂きましょう。疲れた体には甘い物が1番よ」
「ありがとうございます、ジュリア。頂きます」
コンラッドはジュリアが持ってきてくれた紅茶を啜った。
「その紅茶、私が煎れたのよ。味はどうかしら?」
コンラッドはジュリアに微笑みながら言った。
「とても美味しいよ、甘過ぎなくて砂糖の入れ具合もの茶葉の濃具合も丁度良いみたいだ」
「そう、良かったわ」
ジュリアもにっこりと微笑み、自分の紅茶を啜った。
「ねぇ、お茶菓子も食べてみて。今まで食べた物の中でも最高に美味しいわよ。コンラッドの口にも絶対合うと思うわ」
随分と自信ありげにジュリアは言った。
そんなジュリアを見て、コンラッドは自分の前に出されたほんわりと甘い匂いがする焼き菓子に興味が沸いた。
「ここのメイドが作ったお菓子なら何度か頂いたけど、今までのも十分に美味しいと思ったけどな。今日は作り方を変えてみたとか?」
「今日のお菓子を作ったのはここのメイドじゃないのよ。コンラッドもよく知ってる人が作った物だから、食べてみて是非感想を聞かせてほしいわ」
「そうなのか?まさか、このお菓子を作ったのはミレーユとか・・・」
もし本当にそうだったら、かなり嫌な予感がするコンラッドだった。
ジュリアがわくわくした表情でこちらを見てくるのも気なるところだ。
ミレーユはこの場にはいない様だったが、いつ何処で聞かれるかも分からない。
本人に聞かれたら弓矢の的にされるかぶっ飛ばされそうな気がするので、心の中だけでコンラッドはそう思った。
「ふふっ、それはコンラッドが食べてみてから教えるわ。さぁ、早く食べてみて」
コンラッドはごくりと息を呑み、意を決して焼き菓子に手を伸ばした。
「い・・・頂きます」
お菓子を1口分フォークに取り、コンラッドは思い切って口の中に放り込んだ。
もぐもぐ、ごくん・・・・
「・・・・・・・・・」
「さて、お味はどうかしら?」
「・・・・美味い」
「でしょう?やっぱりコンラッドの口にも合うと思ったわ。私もこの焼き菓子を作ってくれた人の料理が大好きなの」
「あぁ、本当に美味いよ。今まで口にした焼き菓子の中で1番絶品かもしれない。一体誰がこれを作ったんだ?」
ジュリアはくすくす笑いながら、焼き菓子を作った本人の名前を口にした。
「分からないでしょう?それを作ったのはアーダルベルトよ」
「えぇ!?アーダルベルトなのか?!!」
コンラッドは驚きのあまり素っ頓狂な声を上げてしまった。
それを耳にしているジュリアはますます笑いだす。
「ふふっ、やっぱり驚いた。つい先程、アーダルベルトがウィンコット城に遊びに来てくれたから作ってもらったの」
「そりゃあ驚きますよ・・・。軍人であるからにはある程度は料理が出来るとは思いますけど、まさかこんな絶品料理をあのアーダルベルトが作るとは・・・・」
コンラッドは一瞬、フリフリのエプロンを着けたアーダルベルトの想像をしてしまった。
そして次の瞬間に頭をぶんぶんと横に振る。
ヨザックならともかく、アーダルベルトがそんな格好なんて・・・ぶっちゃけキャラじゃない!
「どんな想像してるか知らんが俺に料理が似合ってなくて悪かったな、コンラッド」
いつの間にかコンラッドとジュリアの元にアーダルベルトも来ていた。
「いや、料理が似合ってないとかじゃなくて・・・それより、これは本当にアーダルベルトが作ったのか?」
「まあな、ジュリアに頼まれたからな。馬を飛ばしてここに着いたばかりの婚約者にこんな事を頼むなんて、ジュリアの他にいないだろうな」
「失礼しちゃうわ、アーダルベルトったら。せっかくコンラッドがウィンコット城に留まってるんですもの、あなたの手料理を食べさせてあげたいっていう私の施しよ。いずれは私の旦那になるんだから、文句言わないの」
「すっかりジュリアの尻に敷かれてるな、アーダルベルト」
「う・・・悪かったな///どうせ俺はジュリアに逆らえねぇよ!」
「旦那になる人の手綱をしっかりと握るのは当然の事よ。結婚はまだとはいえ、私は婚約者でも甘やかす気は無いから覚悟しておいてね、アーダルベルト」
笑いながら言うジュリアを見てアーダルベルトは苦笑しながら言った。
「お前と結婚すると決めた時点でとっくに覚悟の上だよ。お前も俺の所に嫁いで来るまでに、しっかりと花嫁修業を頼むぜ?」
「えぇ、分かってるわ」
ジュリアとアーダルベルトは互いに顔を向けて微笑みあった。
ジュリアとアーダルベルトの仲睦まじい姿を見て、コンラッドの胸はほんわりと暖かくなった。
やはり俺はジュリアの笑顔が好きだな。
ジュリアがアーダルベルトの隣で幸せそうに微笑むと、とても安心できる。
この気持ちは決して恋では無いけど、守りたいと思う大切な相手・・・。
あぁ・・・そうか、俺はジュリア自信を守りたいんじゃない。
ジュリアがアーダルベルトの隣でいつまでも幸せそうに笑ってられる様に、その笑顔を守りたいんだ・・・。
ジュリア自信は俺なんかが守らなくても十分に強い、アーダルベルトも彼女を守ってくれる。
アーダルベルトはジュリア自信を、そして俺はジュリアがいつまでも安心して笑ってられる様に彼女自身の居場所を。
君の笑顔をいつまでも見ていたいから、俺はジュリアが笑っていられる居場所をこれからも守ろうと思えるんだ。
コンラッドは穏やかな表情で、じゃれ合ってるジュリアとアーダルベルトを静かに見つめていた。
その視線にジュリアが気づき、微笑みながら聞いてきた。
「どうしたの?」
「いや、何でも無いよ。アーダルベルト、お菓子をもう1つ頂くよ」
「あぁ、遠慮しないでどんどん食え」
コンラッドはアーダルベルトにありがとうと言って、焼き菓子を口に放り込んだ。
紅茶と焼き菓子を口にしながらのほほんとしていると、ミレーユも3人の元へとやって来た。
「随分と良い匂いがすると思ったら、やっぱりアーダルベルトが作ったお菓子だったのね」
「よぉ、ミレーユ。暇ならお前も一緒に食ってかないか?」
「残念だけど、私はこれから眞王廟へ行かなくてはいけないの。せっかく誘ってくれたのに、ごめんなさい」
「ミレーユはもうすぐ眞王廟の警備部隊へと転属するの。だからその手続きと、ウルリーケ様にご挨拶に行くらしいのよ」
「そうか、俺からすればミレーユはジュリアの近くでこれからも手助けしてほしかったんだがな。でも、ミレーユが決めた事だから仕方無ぇか。頑張れよ」
「ありがとう、アーダルベルト。私がいなくても、ジュリアの補佐には優秀な人が就いてくれるから大丈夫よ。それに、私の手が必要な時はいつでもジュリアに手を貸すつもりよ」
「当然、私は使える者は何でも使うつもりよ。ミレーユも医療部隊じゃなくなるとはいえ、これからも協力してもらう事が山程あるんだから」
「協力はするつもりだけどこっちの都合も少しは考えてよね、ジュリア。私は警備部隊となる身なんだから、自分の任務をあくまで最優先にするから」
「そうね、自分の任務を途中で投げ出す様な無責任な義妹を持った覚えは私には無いもの。任務をこなしつつ、協力してくれる事を期待しているわ」
そう告げたジュリアに、ミレーユは溜息を吐きながら言った。
「随分と傍迷惑な期待ね。まぁ、ジュリアの義妹になった時点でそれが私の運命なんでしょうね。言われなくても、出来る限りの協力はするわよ」
ミレーユは手荷物を自分の肩に掛けながら言った。
「それじゃあ眞王廟へ行って来るわ。帰りは3日後になると思うから、義父様にそう伝えておいて」
「えぇ、気をつけて行ってらっしゃい」
ミレーユは行って来ますの挨拶をした後、3人の元を去って行った。
「しかし、ミレーユも思い切った行動をするよな。いきなり眞王廟の警備部隊に転属とは、突拍子も無い行動は誰かさんによく似たもんだ」
「その誰かさんと言うのは誰の事かしら?アーダルベルト」
「毎度、婚約者に心配ばかり掛けてる中々手の付けられないお転婆な義姉の事だよ」
「ミレーユは自分のやるべき事を見つけただけよ。私だってそう、自分が決めた事は最後まで貫き通すわ。それに・・・・」
ジュリアの表情からふっと笑顔が消え、真剣な顔つきとなりながら言った。
「今の魔族と人間の争いだってそうだと思わない?誰かが行動を起こし始めなければ、いつまで経っても本当の平和なんて訪れないわ。争いに終止符付けるのは、何も戦争ばかりじゃ無いと思うの」
そうすると、コンラッドがジュリアに話し掛けた。
「ジュリアは勝負事は好きなのに、戦争は本当に嫌いなんだな」
「当たり前よ。戦争なんて正々堂々の勝負じゃ無い、ただの殺し合いだわ。その戦争のせいで、悲しむ人はたくさんいるのよ」
「まぁ、そうだな。俺達だって大事なもんを守る為に戦うが、それは相手側にとっても同じ事なんだよな。それでも、俺はジュリアを守る為に戦うと決めたんだ。相手の奴等に気の毒だとは思うが、これだけは譲れねぇ!」
アーダルベルトが雄々しく告げた後、俺はジュリアの方を見た。
戦争を反対しているとは言え、愛してる男性からそんな事を言われたら流石のジュリアでも嬉しくない筈はないだろうと思った。
しかし、ジュリアは浮かない表情をするだけだった。
「悲しい世の中よね。魔族も人間も、皆が笑って過ごせる世の中になれば良いのに・・・・」
自分の思ってる事は綺麗事に過ぎないかもしれない。
それでも、この願いだけは絶対に叶えるべき事なのだと、ジュリアは切に思っていた。
それから数年、魔族と人間との争いはますます激しくなった。
ウィンコット領で剣術指南をしていたコンラッドは兄であるグウェンダルから呼び出しがあり、ウィンコット領を後にして血盟城へと戻って行った。
アーダルベルトもコンラッドも、いずれは戦地へ赴く命令が下るだろう。
そんな中、ジュリアはある決意を胸に秘めていた。
次回はシリアス方面へと向かうかもしれません。
しかし、前編と後編で終わらせようと思ったストーリーですが、思ったより長くなりそうです(汗)
・・・それより、まるマ原作の時系列で言うと今日からマ王!?で記載してあった「星の名前」は、コンラッドがウィンコット城での剣術指南を終えて血盟城へと戻った後で良いんだっけ?
まぁ、違ってても別にいっか★(←おい!)
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