託された希望3
「とにかく、陛下を血盟城へ御送りします。眞王廟へ伺われる際にはあらかじめに白鳩便か使いの者でお知らせくださいね?今日はお怪我を負わせなかったから良かったものの、陛下の御身にもしものことがあれば取り返しがつきませんからね」
「はい、すいませんでした」
一通りの説明が済んだ後、俺はミレーユさんに送り届けてもらうことになった。
帰ったら怒られるんだろうな。
まぁ、そこは俺が悪いんだから覚悟しないとな。
「陛下1つお聞きしたいんですがよろしいですか?」
送ってもらってる途中、ミレーユさんが足を止めて俺に話しかけてきた。
「うん、俺に答えられることなら何でも聞いてよ」
「陛下は眞魔国に来られてから大分経ちますよね?」
「うん」
ミレーユさんは俺に何を聞くつもりなんだろう?
政治の事と聞かれたらどうしよう(汗)
大分経つとは言っても、へなちょこの俺にはギュンターやグウェンダルの助けがないと答えられそうにないんだけどな。
「陛下は今の眞魔国を見てどう思われます?」
「えっ?」
眞魔国を見てどう思うかって?そりゃ綺麗だし良い所だと思うけど・・・
「今、普通に良い所とか考えましたね?」
「何で分かったの?」
俺声に出してたっけ?
「顔に書いてありましたよ」
恥ずかしい///くすくす笑われてしまった、俺ってそんなに顔に出やすいかな?
「うん、とても良い所だと思うよ」
「そうですね・・・私もここは良い所だと思います。20年以上前は戦争で酷かったですが」
ミレーユの表情がいきなり険しくなった、まるで20年以上前の事を思い出してるように。
「20年以上前の戦争ってアルノルドの?」
「はい、陛下もご存知だったのですね」
俺も話しくらいは聞いた事がある。
コンラッドの様な人間と魔族のハーフが集まった軍隊「ルッテンベルク団」が前戦に出て戦ったというあの・・・。
戦争には勝ったものの、多くの魔族が亡くなってコンラッド自身も重症だったと聞いた。
そういえばジュリアさんもその戦争で亡くなったと聞いてたな。
それによってコンラッドがどれだけ傷ついたか・・・。
ミレーユさんも義理とはいえ大切なお姉さんを亡くして深い悲しみを負った筈。
アーダルベルトだってジュリアさんの死が原因で眞魔国を離反した。
俺は20年以上前の戦争を経験したわけでは無いけどこれだけは分かる。
魔族も人間も戦争で大切な家族や友人、恋人を失って深い傷や悲しみを負ったのだと・・・。
もう、誰も傷ついたり悲しんだりしてほしくない!魔族も人間も!!
「戦争は終わったけど、まだ人間との争いが完全に無くなった訳じゃない!」
「陛下?」
「ミレーユさん、俺・・・必ず魔族も人間も戦いの無い平和な世界を作りたいんだ!」
「・・・それは冗談なのではなく、本気で実現なさろうとしていますか?」
「本気だ!」
ミレーユさんが険しい表情のままじっと見つめてくる。
まるで真相を窺ってくるかのように。
「陛下が本気というのは分かりました。ですが、魔族側は今でも人間に不信感を持ってる者や敵対してる者は少なくありません」
「・・・・・・・」
「おそらく人間側もそれは同じでしょう。そうでなければ人間が魔族の土地に攻め込んで来るのは考えられません。陛下のお考えは立派ですがそれを実現させるのは正直難しいでしょう」
ミレーユさんの言う通りかもしれない、でも・・・・。
「確かに俺の言ってる事は大口を叩いてるだけに過ぎない理想論だって分かってる。見ての通り俺はへなちょこ魔王だし優秀な臣下達の力を借りなきゃ何も出来ない。実現させるのは難しいって事も分かってる・・・。でも難しいから、大変だからって諦めたら駄目なんだ!」
「陛下・・・」
「それで諦めたら本当に理想で終わってしまい魔族と人間の戦いも終わらない!俺は戦争をする為に魔王になると決心をしたんじゃない!!」
そこまで聞くとふっとミレーユの表情が少し前の様に穏やかになった。
「そうですね・・・諦めたら、そこで終わりですね」
「ミレーユさん?」
「陛下がその志を貫こうと言うなら、私も信じます平和な世界が来る事を。そして私如きで役に立つ事があるのなら、いつでも陛下の御力になると誓います」
ジュリア・・・最後に言葉を交わした時、何故次世代の王にここまで信じる事ができ希望を託す事が出来たのか分かったよ。
あんたに未来が見えたのか予想できたのか、それは私にも分からないけど何らかの確信があったんだと思う。
だから何も思い残すことなくあの世に逝けたんだよね?
私も信じるよ、あんたの言う通りこの方なら平和な世界に導くと。
ミレーユは頭を下げ誓いを立てた、必ずこの方の力になろうと。
「ですが覚悟してくださいね?もし、陛下がその志を曲げるよう事があるなら、御力になるという誓いは無かった事にさせていただきますから」
「うん、肝に命じておくよ」
「それと・・・コンラート、いつまで私達の話しを盗み聞きしてるつもり?」
「コ・・・コンラッド!!」
背後からかさっという物音をたてながらコンラッドが出て来た。
「流石だなミレーユ、俺がいることに気づくとは」
「伊達に警備部隊の隊長は勤めてないわよ。それより盗み聞きなんて、あまり良い趣味と言えたもんじゃないわね」
「心外だな、声を掛けるタイミングを窺ってただけさ」
皮肉っぽくミレーユさんがコンラッドに絡んでたのが俺に向き直ってきた。
「陛下、お迎えも見えたようなので私はこれで失礼しますね。陛下とお話しができて楽しかったです」
「いっ・・・いえ、途中まで送っていただきありがとうございました。俺もミレーユさんと話しができて楽しかったです」
「それでは失礼しますね」
ミレーユさんは俺に一礼してから眞王廟へ戻る為に来た道を戻って行った。
そして俺とコンラッドの2人きりになった。
コンラッドはグウェンダルのような眉間に皺を作っていて、なんか怒ってる様で怖かった。
「あ・・・あのコンラッド?」
「何ですか?陛下」
笑顔だけど目が笑ってない、確実に怒ってるよ〜(泣)
いつもなら「陛下って呼ぶな」って言うけど、今は怖くて言えない(滝汗)。
「その・・・やっぱり怒ってるよね?勝手に血盟城抜け出した事・・・」
「怒ってますよ。思ったより早く仕事が終わったから陛下とキャッチボールをしようと思ってあなたのもとに向かったんですが、ギュンターとヴォルフがあなたがいないと騒いでたんですから」
「ごめん・・・」
謝ったらコンラッドが優しく抱きしめてくれた。
「ユーリが無事で良かった・・・。あなたがいなくなったと知った時、心配で生きた心地がしなかったんです。あなたにもしものことがあったらと思うと俺は・・・」
コンラッドが泣きそうな顔して言うから、とても申し訳ない気分になった。
「ごめんなさい、コンラッド」
俺も抱きしめてくる彼の体を抱きしめながら謝罪した。
駄目だな俺は、さっき誰にも悲しんでほしくないと思ったばかりなのに早速コンラッドに悲しい思いさせちゃったよ。
コンラッドとユーリ何とか再会まで持ち越せましたー。(無理矢理っぽい気もしますが;)
次回あたりで完結です。
あぁ、私にも文才が欲しい(泣)
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