第2話 噂の魔王
ジュリア姫の護衛を勤める、コンラート・ウェラー。
本日は姫の父親であるオーディル王から話しがあるとの事で呼び出されたのでした。
「オーディル王、俺に話しがあるとの事ですが、用件は何でしょうか?」
「ふむっ、今回は我が娘、ジュリアの事なんだが・・・・」
「ジュリア姫がどうかされたのですか?」
「私はあのじゃじゃ馬娘に嫁の貰い手があるか心配でならん。コンラート、お主は姫と結婚する気は・・・・」
「まったくございません!(キッパリ)」
オーディル王は(まだ全部言っとらんぞ・・・)という突っ込みは飲み込んだ。
「まぁまぁ、そうハッキリ言わずとも。直ぐに決めんでも返事は少し考えてからでも良いのだから」
「オーディル王、あなたは俺に人生の墓場に自ら足を突っ込めと?」
コンラッドが言った事の意味はその言葉通りの意味である。
結婚は『人生の墓場』と言われてる事もあるが、それはただの迷信に過ぎない。
実際に結婚した人は幸せになってる人がいるのだから、その迷信を信じようが信じまいがその人の自由である。
一方のコンラッドはそんな迷信は信じていない。
しかし、相手がジュリア姫となると話しは別である。
もし結婚したら今以上に拳闘の組み手やら訓練に付き合わされ、いずれは本当に墓場行きにされる気がしてならないのだった。
ジュリア姫のお相手は、自分よりもっとタフな人でないと勤まりそうに無い。
コンラッド自信もそれなりに体を鍛えているので肉体的に自信が無いと言う訳では無いが、ジュリア姫の素手で熊をも薙ぎ倒す鉄拳の威力には到底敵いそうに無かったのだった。
「そんなに嫌か?」
「はい(キッパリ)」
「そうか・・・・。まぁ、今の話しは半分冗談なのだから全部本気に取らなくとも良い。気が変わったらいつでも申し出るが良い」
「半分冗談って事は半分は本気って事ですか!?ご安心ください、気が変わるなんて事は億万が一でもございませんから!」
コンラッドは真顔でキッパリと言い放ったのだった。
オディール王はごほんと1つ咳払いをして話題を変えた。
「その話しは置いといて本題に移ろう。お主は町で持ち切りだと言う例の噂を耳にしたか?」
「はぁ、魔王が復活したという噂の事ですね?しかし目にした者は誰もいないそうなので、本当かどうかも疑わしい物ですね」
「その事なのだが、5日前にお主の兄に噂の真相を確かめる為に視察してくる様にと命令したのだが、未だ戻って来てないのだ」
「グウェンダルが?どうも最近見掛けないと思ったら・・・・」
コンラッドは内心、グウェンダルがジュリア姫の拳闘の組み手に付き合わされない様に何処かに逃亡したと思っていた。
あの野郎、どうせ逃亡するなら俺にも声を掛けろと以前愚痴ってたのはまた別の話しである。
「グウェンダルは魔術は勿論の事、剣術でも並大抵の者には引けは取らないであろう。そのグウェンダルが未だに戻って来ないとすると何かあった筈だ。コンラート、お主にも魔王が住んでると言われてる場所の視察を頼みたいのだ」
「魔王が住むと噂される場所は森の奥深く・・・別名『魔の森』ですね、分かりました。準備が出来次第、早速視察に向かいます」
「頼んだぞ、コンラート。最近、姫が噂の魔王とやらに興味を持ち始めてる様なのだ。あの姫ならいつ魔王討伐にと城を脱走するか分からんからな、それだけは絶対に阻止するのだ!」
「そうですね、ジュリア姫には脱走防止の為に見張り役を就けるのが良いでしょう。俺も出発する前に、姫の様子を伺って来ます。それではオディール王、御前を失礼させていただきます」
コンラッドはオディール王に一礼をして王の間から退場し、ジュリア姫の部屋へと向かったのだった。
コンラッドがジュリア姫の部屋の前に着くなり、ノックしながら声を掛けた。
「ジュリア姫、護衛のコンラート・ウェラーです。いらっしゃいますか?」
しかし、部屋の中からは返事が返ってこなかった。
コンラッドはふと嫌な予感がした。
無断で姫の部屋に入るのは無礼も承知の上だが、この際そんな事言ってる場合では無い気がした。
意を決してコンラッドは部屋の中へ入る事にした。
「姫、失礼します」
バーンと入室するが、部屋の中は案の定ジュリア姫の姿は無かった。
「ジュリア姫?」
コンラッドは恐る恐る部屋の奥へと進むと、机の上に1枚の紙切れが置いてあった。
「んっ、何だこれは?」
その紙切れを気づいたコンラッドが手に取って見た。
紙には文が書いてあり、こう書かれていた。
『魔王討伐へと行って来ます。お父様、どうか心配しないでくださいね。 スザナ・ジュリア』
その文を読んだコンラッドは一足遅かった!っと呆然と立ち尽くすしか出来なかったのでした。
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