振り返られる過去と向き合った想い 前編
眞魔国で、盛大に宴が開かれた夜の事だった。
宴には魔王陛下と側近達、その他にも十貴族を中心とした貴族の方々も出席していのだった。
養子とは言え、十貴族一員であるフォンウィンコット家出身のミレーユも宴には参加していた。
しかし、参加とは言っても仕事の一環である警備の方での参加であった。
そんなミレーユが警備の任務中の交代で休憩を取った時の事だった。
血の繋がりは無いが義弟として大切にしていた、フォンウィンコット卿デル・キアスンと出会った。
ミレーユは眞王廟の警備隊の仕事によりウォンコット家の方には暫らく帰っていなかった為、2人にとっては久々の再会であった。
「お久しぶりですね、ミレーユ義姉上」
「えぇ、本当に久しぶりねキアスン。元気そうで何よりだわ」
「はい、義姉上も元気そうで何よりです。義姉上がウィンコット領の方にも中々顔出さないから、父上が寂しがってましたよ?」
「今度の非番が取れた時はウィンコット領に帰るわ。義父様にそう伝えてもらえる?」
「そうしてあげてください。義姉上が顔見せれば父上もきっと喜びます」
久しぶりの義姉弟の会話、2人は微笑みあいながら会話をした。
「ねぇ、時間ある?もし良かったら、ベランダに出て義姉弟水入らずで少し話しをしない?」
「はい、大丈夫ですよ。では行きましょうか」
2人は血盟城のベランダに出て、夜風に当たり一息ついた。
ベランダでは室内の大勢の人での賑わいが少し和らぎ、ゆっくりと話しが出来そうであった。
「ふぅ、夜風に当たると落ち着くわね。それにしても、ツェリ様も本当に宴事が好きね。今日の宴だってツェリ様主催みたいだし」
「随分とお疲れの様ですが大丈夫ですか?ウルリーケ様から聞きましたが、今回の警備だって義姉上が率先して立候補したそうですね。眞王廟の警備隊長の任だってあるんですから無理しないでくださいね」
「心配しなくても大丈夫、ちょっと扱いたくらいで根を上げる様な男達とは違うわよ」
キアスンの心配を他所に、ミレーユはあっけらかんに笑いながら言った。
それを聞いたキアスンはやれやれと言った様に『はぁ・・・』と溜息を吐いていた。
そんなキアスンをミレーユは何も言わずじっと見つめた。
「どうしました?ミレーユ義姉上。私の顔に何か付いてます?」
「そんなんじゃ無いわよ。ただ、随分とキアスンがウィンコットの当主様らしくなってきたなぁと思っただけよ。昔は頼りなかったのにね、ふふっ」
クスクス笑いながら言うミレーユに少しむっとした感じでキアスンは言った。
「そりゃあ、何十年も経てば私だって成長しますよ」
「そうね、昔に私があれだけ言っても成長しないんじゃあ救い様が無いものね」
「義姉上もどっかの誰かさんに似て、言いたい事はハッキリと言う性格ですからね。でも、流石にあの時に言われた事は私も堪えましたよ」
あの時のミレーユ義姉上の言葉は、私に重く圧し掛かってきましたから・・・・・。
一方、相変わらず宴で盛り上がってる室内の方ではほろ酔いで良い気分になっていたツェリ様がコンラッドに話し掛けていた。
「コンラート、ここは少し熱くなくて?私さっきから身体が火照ちゃって、ドレス脱いじゃおうかしら?」
「母上、はしたないのでとりあえず脱がないでください。母上が熱いのはお酒を飲みすぎたせいです。少しは夜風にでも当たって涼んできてください」
コンラッドはそう言ってツェリ様をミレーユ達がいるベランダの方へと促がした。
「そうね、少しそうさせてもらおうかしら?コンラート、私はベランダの方へ行くからここはお願いね」
「はい、行ってらっしゃい」
ツェリ様がベランダの前まで来ると、ミレーユとキアスンの姿を見掛けた。
ミレーユとキアスンはツェリ様に背後を向けたまま話しを続けていた。
あら?あれはミレーユとキアスンじゃない。
義姉弟とは言え、2人きりでいる男女の仲を邪魔するのは恋の狩人である私のする事じゃ無いわね。
うふふっvv2人共ごゆっくり〜。
ツェリ様はベランダを後にしてそっと立ち去ろうとしたが、ふとミレーユの声が聞こえた。
「あれは義父様がアーダルベルトとの婚約を破棄させて、ジュリアとコンラートを婚約させようと言い出した時だったわね」
えっ・・・ミレーユは今何て?
2人が今話している内様は、もしかしてコンラートとジュリアの事?
立ち聞きは悪いとは思ったツェリ様だが、2人の会話の内様が耳に入ってから思わず影に隠れて聞き入ってしまった。
「はい、ミレーユ義姉上は姉上とコンラート閣下の婚約を最後まで反対していましたね」
「そりゃあそうでしょう。あの時は義父様も何を血迷ってるの!?と思ったくらいよ」
「でも・・・姉上が亡き今は、どちらにしても叶わない願いですけどね」
「そうね・・・・」
もう、遠い昔の話しの様な気がする・・・・。
ミレーユとキアスンはそう思っていた。
・・・・数十年前・・・・
「アーダルベルトとの婚約を破棄させてジュリアはコンラートと婚約させる?!義父様、何をそんな達の悪い冗談を!?」
「冗談などでは無い、ミレーユ。前々から思っていた事なのだ。ジュリアは嫁には行かせず、ウィンコットに残ってここを継いでもらいたいと。それに、コンラート殿との事は現魔王であるツェリ様も望んでおられる」
「ジュリアはアーダルベルトよりコンラートと結婚するべきだと?ジュリアは・・・ジュリアもそれを望んでおられるのですか!?」
「姉上にはまだ話してませんが、グランツの者の元へと嫁ぐよりよっぽど良い縁談ではありませんか。ミレーユ義姉上もそうは思いません?」
元々、キアスンはジュリアとアーダルベルトとの婚約を反対していた。
と言うより、ウィンコット家を格下と見下すグランツ家の者をキアスンは酷く毛嫌いしていた。
でも、コンラッドにはアーダルベルトとは正反対に兄の様に慕っていた。
こんな人が自分の姉と結婚してくれたらとキアスンは思った。
その為に、ジュリアとコンラッドの縁談の話しはキアスンにとっては大賛成であったのだ。
「義父様、お言葉ですが私は今回の話しは反対いたします。ジュリアがそれを望むのでしたら私は口出す権利などありません。でも、義父様とツェリ様が決定した事でもこんな一方的な事は少し横暴ではありませんか?」
ウィンコット現当主、オーディルは目を瞑り何も応えなかった。
「私が言いたい事は以上です。どうか、この件の事はジュリアにも話して、それからご決断なさってください。私も、ジュリアがコンラートとの婚約を望むのでしたら無理に反対はいたしません。それでは失礼いたします」
そう言ってミレーユはその場から退出した。
ミレーユはウィンコット城の廊下をつかつかと歩くと、キアスンが後を追いかけて来て背後からミレーユを呼んだ。
「待ってください、ミレーユ義姉上」
ミレーユは歩みを止め、キアスンに振り返りながら言った。
「何よ?まだ私に何か用でも?」
キアスンはミレーユの元へと駆け寄って来て話しだした。
「そうではありません。何故、ミレーユ義姉上は姉上とコンラート閣下との婚約を反対なのです!?とても良い話しではありませんか!」
「私が反対している理由はさっき義父様に言ったとおりよ。ジュリアが望んだ事なら仕方無いのかもしれないけど、義父様とツェリ様の決定とは言えこんなの横暴すぎるじゃない!」
ミレーユはキッと睨み上げながらキアスンに問う。
「じゃあ逆に聞くけど、何であんたはジュリアとコンラートとの婚約は賛成するくせにアーダルベルトとは反対するのよ?」
「そりゃあ、姉上がグランツ家へ嫁いでも幸せになれないに決まってるからです。姉上はグランツ家の者よりコンラート閣下と結婚する方が絶対に幸せになる筈です!」
「へぇ、ジュリアはアーダルベルトと結婚したら幸せになれないのね?未来が分かるなんて凄いわね、キアスン。いつから軍人から予言師に転職したの?」
「ミレーユ義姉上、ふざけないでください!我々ウィンコットを格下と見下してるグランツ家の者なんかの嫁いで姉上が幸せになれない事くらい、予言師でなくても一目瞭然じゃないですか!だから私は・・・」
「ふざけてるのはどっちよ!?この青二才が!!」
ミレーユはいきなりキアスンに向けて怒鳴った。
「ジュリアの将来を決めるのは誰?あんた?私?それとも義父様かツェリ様?違うでしょう!ジュリアの事はジュリア自信が決める、だからあんたがしゃりしゃりと出しゃばるんじゃないわよ!!あんたはジュリアはコンラートと結婚した方が幸せになるって賛成してる様だけど、本当はそれだけじゃ無いんじゃない?ジュリアがウィンコットに残ればあんたは当主の座に就かなくて済むんですものね。どうせいつまでもジュリアの後ろに隠れて甘えて、そして自分は当主という重荷から開放されたいと思っただけなんでしょう!?」
「ち、違・・・・」
「違うと言い切れる?それにあんた前に言ったわよね?コンラートを混血ってだけで迫害している奴等はコンラートの本心をちゃんと見ようとしない頭の硬い連中ばかりだって。今のあんたはその頭の固い連中と同じだわ。アーダルベルトがグランツ家の者だからってだけでろくでもない奴と決め付けて、アーダルベルトの本心をちゃんと見ようとしてないじゃない!アーダルベルトはガサツで乱暴な所もあるかもしれない、でも根は優しくてとても暖かい人だった。アーダルベルトの本心をちゃんと見ようとしないあんたは、彼のそんな部分は知らないでしょう!?」
「・・・・・・・・・・・・」
キアスンはミレーユに何も言い返せなかった。
自分にはそんなつもりは無い。
そんなつもりは無いけど、いざ指摘されてしまうと本当にそうなのか?と思ってしまう。
自分は心のどこかでミレーユが言った様に思ってたのかもしれない、と。
「ジュリアとコンラートの婚約を賛成するつもりは無いけど、1つだけ賛成したい事があるわ」
ミレーユはキアスンに背後を向けながら言った。
「いつまでも姉の後ろに隠れて甘えてるのと、上辺だけでしか物事を判断できない様な情けない奴には当主の座は到底無理。ジュリアの方がよっぽど当主の座にふさわしい事をね」
そう言い残して、ミレーユはキアスンの元から去って行った。
「あの時はいくら頭にきていたとは言え、私も偉そうな事を言ったわね」
「いえ、ミレーユ義姉上の言うとおりでした。あの頃の私はいつまでも姉上に甘えてばかりで、今思えば自分でも本当に情けないと思います」
キアスンは昔の自分を思い出し苦笑していた。
「でも、あの頃と比べてあんたも成長したと思うわ。今のあんたをジュリアに見せてあげたいわね」
ざぁ・・・と夜風が吹き抜ける中、ミレーユとキアスンは星が散りばめられた夜空を見上げながら言った。
「見ていますよ。姉上は空の彼方から、きっと・・・・」
「えぇ・・・・」
ミレーユは一息置いて、キアスンとの会話を中断させた。
「キアスン、私から誘っておいて悪いけど席を外してもらえる?」
「はい?」
「少し、ツェリ様と2人きりで話したい事があるから」
ミレーユは影に隠れていたツェリ様の隠れている方へと向いた。
ツェリ様はそっと2人の前に姿を現す。
「上王陛下!」
「私がいる事に気づいていたのね、ミレーユ」
「はい、これでも一応軍人の端くれですから」
ツェリ様は2人の元へと近付いて、キアスンに話しかけた。
「ごめんなさいね、キアスン。私も、今はミレーユと2人きりで話しがしたいのよ」
キアスンは頷きながら言った。
「分かりました。それでは上王陛下、義姉上、失礼します」
キアスンはミレーユとツェリ様を残し、ベランダから去って行った。
マチョとジュリアとコンラッド、3人の関係の真相は未だに闇の中ですが一度は書いてみたいネタだったのでオリキャラであるミレーユを動かした形で書いてみました(>▽<)/
ヨシの中ではミレーユはウチの姉御ジュリアと性格が似ている設定です。
そして、次回はミレーユとツェリ様がジュリアとコンラッドは結ばれていただろう疑惑について向き合って語り合うシーンを書いていきたいと思います。
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