1つの終着点ともう1つの始まり 前編
戦争は終わった。
俺達は生きて帰って来れたんだ。
俺も今回の戦いでかなりの重症を負った。
それでも生還出来たのは奇跡なのだろうか?
いや、違うな・・・・。
俺はジュリアとの約束を守る為に生きて帰って来た。
『絶対に死なないで、必ず無事に帰って来ると約束して・・・』
そう言われながら彼女から渡された、お守り代わりのウィコット家の紋章の入った魔石。
本来なら婚約者であるアーダルベルトに渡すべきだろう。
何故アーダルベルトに渡さないのかとジュリアに質問したら、アーダルベルトなら安心して帰りを待てるけど俺の場合は何かと危なっかしくて心配だからだと即答された。
俺はいつまで経っても、ジュリアの子分という立場から開放されそうに無いなと思い苦笑しながら魔石を受け取り、終戦を迎えた今でもそれを大切に所持している。
これは、いつかジュリアに返すべきなんだろうとあの頃は思っていた。
必ず俺の手から彼女に手渡す様にと、そういう思惑もあるんじゃないかとも疑っていた。
俺自信が何が何でも生きて帰って来なければと実感させる為に。
ボロボロとなった体でベットの上でそんな事をぼんやりと考えていた。
その時、俺は思いもよらなかった衝撃な真実を、ギーゼラの口から告げられた。
「スザナ・ジュリアは、戦地へと赴いた先の人間の土地での多大な魔力の消費により、命を落としました」
・・・今、ギーゼラは何と言った?
ジュリアが・・・死んだ?
だって・・・彼女はいずれアーダルベルトと結婚して、幸せになって・・・・。
それから・・・・それから・・・・。
何故だ・・・?ジュリア・・・。
誰よりも平和を願ってた君が死んだら意味無いじゃないか・・・。
アーダルベルトも俺も・・・何の為に戦ってきたと思ってるんだ?
君の笑顔をいつまでも守る為に戦うと決めたのに、これじゃあ何の為に戦っていたのか分からなくなる・・・・。
コンラッドも無事に生還したと知らせを聞きつけたミレーユは、彼の様子を伺いに訪れて来ていた。
最初に来た時のコンラッドの姿を見た時はミレーユも驚いていた。
何もかもどうでも良いと言った無気力な状態で、まるで廃人の様だった。
ジュリアが亡くなったと聞いてからコンラッドはずっとそんな感じらしい。
ミレーユはコンラッドと話しをしたいと思ったが、今の状況で話しをしても決して彼の耳には届かないだろう。
時期を見計らってゆっくり話しをするべきだと思ったミレーユは、今はそっとしておくべきなんだろうと静かに待った。
それから時間が取れた時は何度かコンラッドの様子を伺いに来ていた。
「コンラートの様子はどう?ギーゼラ」
「相変わらずよ。今日も食事には全然手をつけてない様子だし、ウェラー卿に話し掛けても全く反応が無かったわ」
「そう、やっぱり直ぐに立ち直れと言う方が無理か・・・・。アーダルベルトなんかジュリアの死を知ってから魔族と敵対する側になったと言うのに、コンラートの方は随分と対照的よね」
「そんな呑気な事を言ってる場合ではないわ、ミレーユ。でも、アーダルベルトは本当に愚か者よ。そんな事しても、ジュリアが喜ぶ筈無いのに・・・・」
「・・・・そうね、今ならアニシナの言ってる事が分かる気がするわ。本当に男って馬鹿ばかりよね」
でも・・・・、分かっていながらジュリアもアーダルベルトも止めなかった私は、もっと愚か者になるんでしょうね。
止めても無駄なんでしょうけどね。
頑固な所が厄介なくらいに似てるんだから、あの婚約者達は。
「2人がああなったのは、ジュリアの存在がそれ程大きかったという事ね。ウェラー卿にとっても、アーダルベルトにとっても・・・・」
「それはギーゼラも同じでしょう?私だってそうよ。ジュリアが亡くなったなんて、今でも実感出来ないんだから」
私達だけでは無い、他の皆にとってもジュリアは大きな存在だっただろう。
戦争に勝ったと言うのに、皆どこか浮かない表情していた。
ツェリ様なんか皆が帰って来た時の為の祝賀会の準備を前々からしていたらしいのだが、ジュリアの戦死の知らせを聞いてからそれも急遽中止になったと聞いた。
あのアニシナさえも、新しい魔導装置の研究と実験は今は打ち切った状態らしい。
いつもならグウェンダルとかを、もにたあとして毎度の様に連行してたのも久しく目にしてない。
皆、悲しくないなんて事は無い筈だ。
その中でもギーゼラ、彼女には誰よりも深い悲しみを負わせてしまったかもしれない・・・。
ジュリアの亡骸は、どうやらギーゼラの手で火を放ち肉体が一片も残らずに燃やしてくれたそうだ。
それはジュリアが死ぬ直前に、ギーゼラにお願いした事だった。
ウィンコット家に生まれた者はその身に宿す毒を悪用されない為にも、それは絶対に必要な事。
それでも、とてもつらい役目をギーゼラに負わせてしまったでしょうね。
「ギーゼラ、義姉の我が侭を聞き入れてくれて本当にありがとう」
「そんな、私なんか・・・ジュリアの補佐をする立場なのに、無残に彼女を死なせてしまった。ミレーユからお礼を言われる立場なんかでは無いわ」
「自分をそんなに追い詰めないで、ギーゼラ。少なくとも、これがジュリア自信の望んだ結果でもあったのだからあなたの責任ではないわ。それを言うなら私の方が責められる立場なんでしょうね・・・」
結果が分かってた時点で、何が何でもジュリアを止めるべきだったのかもしれない・・・・。
私が止めに入る事で、結果は変わっていただろうか?
今更そんな事を考えても、もうどうしようもないのにね。
「今日も出直した方が良さそうね。ギーゼラ、今の廃人の様な状態のままでもコンラートの怪我がほぼ治ってきたら教えて。その時にまたここに来るから」
ミレーユは踵を返し、その場を立ち去ろうとした。
「あの、ミレーユ?」
ギーゼラの声にも振り向かず、ミレーユは足を止めなかった。
私は、ジュリアが命を賭けてまで叶いたがっていた願いを守ると決めた。
その為にもコンラート、いつまでもそのままでは困るのよ。
それから数十日かの時が流れた。
かなりの重症を負ったコンラッドの体の傷も、徐々に回復していった。
しかし、心に負った傷は中々癒えそうに無かった。
そんな中、再びコンラッドの元へと来ていたミレーユは彼を連れ出そうとしていた。
「ミレーユ、何をするの!?ウェラー卿の体はまだ完治してないのよ!」
「でも体を動かすくらいは回復したのでしょう?悪いけど、コンラートを少し借りていくわ」
「借りていくって・・・ミレーユ、あなたはどういうつもりで?」
「お願い、訳は後で話すから今は私に任せて」
「・・・・・・・・・・」
ミレーユとギーゼラは互いの顔をじっと見た。
数刻の間の沈黙の後、ギーゼラが一息吐いて折れた。
「仕方ありませんね、今回だけは大目に見る事にするわ」
「ありがとう、ギーゼラ。いつまでも腑抜けた輩には渇を入れてくるわ。場合によってはコンラートの怪我が増えるかもしれないけど、その場合も大目に見てね?」
「大目に見る代わりに、ミレーユが暇な時で良いから治療の手伝いに来る事。それで手を打つわ。その位は元医療部隊のよしみで付き合ってくれるでしょう?」
「勿論、その位はお安い御用よ。あなたもだんだんジュリアに似て来たわね」
「当然です。私はジュリアの意志を継いで、これからも医療部隊を引っ張っていくつもりなんだから」
ギーゼラがそう言ったら、2人は互いにぷっと吹き出した。
「ではミレーユ、ウェラー卿をお願いね?」
「えぇ、あのへたれの目を一発覚まさせてくるわ」
ミレーユはコンラッドに近付く、それでもコンラッドは相変わらず廃人の様な状態だった。
「コンラート、あんたいつまでこんな場でへこたれてるつもり?」
「・・・・・・・・」
「いい加減にしなさい!ジュリアが亡くなって、悲しいのはあんただけじゃないのよ!」
「・・・・・・・・」
何も応えないコンラッドに、ミレーユは痺れを切らして半ば強引にベットから彼を引きずり出した。
「あんたがそのつもりなら、無理矢理でも表へ出てもらうわ」
ミレーユはコンラッドを胸ぐらを掴んでずるずる引っ張って行き、外へと出た瞬間彼を地面へ放り投げた。
「・・・・何故?」
コンラッドは尻餅をついたまま最初はぽつりと小さい声を出し、それから荒げた様な声を出した。
「何故俺をそっとしといてくれない!?俺がどうなろうがミレーユには関係無いだろう?!もうこの先どうなろうと俺には関係無い!!」
ドコォ!!
ミレーユはコンラッドの顔を思いっきり殴り飛ばし、コンラッドは地面に倒れた。
「・・・・どう?これで少しは目が覚めた?」
「・・・・・・・・・」
「あんたさ、いつまで自分だけが被害者面した様な顔してるの?それでもジュリアの『子分その1』なの?何をジュリアから今まで教わってきたの?初めて会った時の後ろ向きだったあんたに、前を向く強さをジュリアが教えてくれたのをもう忘れたの?」
コンラッドは下を向いたまま何も応え無いでいた。
苛立たしげにしながらミレーユは話しを続ける。
「あんたの様な根暗って本当に頭にくるわね。自分はとっても悲しくてつらいから何もかも絶望してますーって顔、本当に止めてほしいわ。何も聞かされず、いきなりジュリアの死を知ったのはそりゃあ悲しいしつらいでしょうね。でも・・・・」
ミレーユは顔を伏せ、悲しみの入り混じった様な声で言った。
「・・・・止められたかもしれない立場の人が、結局は止めるのが無駄だと分かって大人しく成り行きを見ているしかない方だって、凄くつらいんだから・・・・」
「ミレーユ・・・・」
「怪我が完全に治ったら眞王廟へ来なさい。ジュリアが軍曹殿として子分その1であるあんたに最後の命令・・・いえ、最後の願いが待ってるわ。ジュリアの意志を無駄にする事は私が許さない。だから絶対に来なさい、良いわね?」
ミレーユはそう言い残し、コンラッドの元を去った。
殴られて赤く腫れた頬を押さえながら、コンラッドはその場を動けずに呆然とするのみだった。
という事で、「守りたい理由の」の続編を開始します。
纏まりや繋がってるのかどうか今一微妙ですが、細かい所は気にしないでくださると嬉しいです( ̄▽ ̄;)
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