1つの終着点ともう1つの始まり 中編
「・・・・来たわね、コンラート」
「あぁ・・・・」
俺は戦争で負った体の傷を癒して、ミレーユのいる眞王廟へと来た。
ミレーユがあの時に言った言葉、ここにジュリアが俺に託した最後の願いがあると言う。
ジュリア・・・・君は最後何を想って死んでいった?
世界の平和の事、俺達の事、そして彼女が心から愛したアーダルベルトの事・・・・。
ジュリアが死んでから俺達に色々と想う事がある様に、きっと彼女にも想う事がたくさんあっただろう。
思い悩んでいるコンラッドの顔をミレーユはじっと見つめた。
「まだ・・・悩んでいる様ね。悩み続けるか否かはあんたの勝手。でも、私が前に言った事は覚えてる?」
「あぁ、『ジュリアの意志を無駄にする事は許さない』・・・だろう?分かってるさ」
頭では理解しても、心までは付いて来ないんだ・・・・。
「分かってるなら良いわ。ウルリーケ様が中でお待ちよ、案内するわ」
コンラッドは何も言わずに、ただ頷いてミレーユの後を追った。
眞王廟の中の奥深く、そこには幼い顔立ちのした少女の様な姿をしたウルリーケがいて、祈りを捧げている所だった。
「ウルリーケ様、ウェラー卿をお連れしました」
「ウェラー卿の案内役ご苦労様、ミレーユ。彼と2人だけで話しがあります。あなたは下がっていてください」
「はい・・・・」
ミレーユはウルリーケに一礼し、その場を退出した。
ウルリーケがコンラッドとミレーユの方へと振り返り、微笑みながら話し掛けた。
「よく来て下さいました、ウェラー卿。ここへ来ていただいた用件は、既にミレーユから聞いていますね?」
「ここに、ジュリアが俺に託した最後の願いある・・・そう聞いてます」
「はい、スザナ・ジュリアがあなたに託した最後の願い。どうか聞き入れてくださいますか?」
「俺は・・・・」
ジュリアがいなくなっただけで、前に進めない臆病者に成り下がった俺なんかに何が出来る?
俺は何もかもどうでも良いとさえ思った。
ジュリアと共有した俺と彼女の願い、魔族も人間も皆が平和に過ごす世界・・・・。
それはいつか必ず叶う様な気がした。
ジュリアがそう言うだけで、ジュリアがそう強く願うだけで。
だからこそ、俺は彼女と掛け替えの無い大切な同志だと思えた。
でも・・・・ジュリアがいなくなった今は、その願いを持つ事も叶わないと思ってしまう。
この先、夢も希望も持てはしない。
絶望のどん底に陥った俺には、ジュリアの意志を継ぐ資格なんか無いのではないだろうか?
「俺なんかには、何も出来ないと思いますよ。ジュリアの様に、強い意志も持っていない。自分1人では前に進む勇気さえ忘れてしまった弱い俺には・・・・」
「そんな事はありません。あなたは自分が思ってる程、弱い存在では無い筈です。でなければ、スザナ・ジュリアはあなたに最後の願いを託したりはしないでしょう。今一度、よく考えてみてください。何故、彼女が心から愛したフォン・グランツ卿では無く、同志であるあなたに願いを託したのかを」
ウルリーケは澄んだ瞳で、コンラッドを見つめながら言った。
「ウェラー卿、あなたは自分が弱い存在だからと言う理由で全てを諦めるのですか?スザナ・ジュリアが命を懸けて守ろうとした願いさえも」
「・・・・・・・・・・」
ジュリア・・・・君は本当に残酷だよ。
君が死んだ今、こんな俺なんかに何をさせようと言うんだ?
「・・・・ジュリアが俺に託した最後の願いと言うのは?」
コンラッドはそう言った直後、キッパリと次の言葉を言い放った。
「俺はまだやると決めた訳ではありません。そこの所は誤解しないでください」
ウルリーケもコンラッドを静かに見据えて、白く輝いてる球体の入った透明な瓶を何処からか取り出した。
「これは、スザナ・ジュリアの魂だった物です。これを異世界の地球という所に運び、次世代の魔王となる者を誕生させてきてほしいのです」
ウルリーケが唐突に言い放った言葉。
俺はウルリーケが言った意味が直ぐには理解出来なった。
「何だって?」
「それがスザナ・ジュリアが、同志であるあなたに託した最後の願いです。それをあなたが拒んだとしても、私達はあなたにこの魂を託します。それはスザナ・ジュリアが眞王陛下に最後に望んだ事でもあり、眞王陛下の御意志でもあるのですから」
眞王陛下・・・その言葉を聞いた瞬間、俺は何故か怒りの感情が込み上げて来た。
それが眞王陛下とやらの御意志でもあると言うのなら、ジュリアはその御意志とやらのせいで死んだと言うのか?
「・・・・眞王陛下の御意志だとしても、それを俺に託しても本当に良いんですか?俺はあなた達を裏切るかもしれない。その魂を望みの者に与えて誕生した子を、自分の思い通りに育てる事も出来る。そうなれば魔王としての絶大な力を思うままに操る事も出来る」
「この魂を抱いたまま、命を絶つ事も出来ますね」
コンラッドの脅しとも取れる言葉にウルリーケは臆する事も無く、落ち着いた感じで話し続けた。
「そうしたいのならおやりなさい。私達は眞王陛下のお言葉を聞きその御意志に従うまでです」
そう言うとウルリーケは静かに微笑んだ。
「話しは以上です。こちらまで出向いていただき、本当にご苦労様でした。スザナ・ジュリアの魂をどうするかはあなたの自由です、ウェラー卿。では、私はこれで」
ウルリーケはジュリアの物だった魂をコンラッドに託し、その場から退場して行った。
眞王廟を後にしたコンラッドは、白い輝きを放つジュリアの魂をぼんやりと眺めていた。
俺がこの魂を抱いたまま命を絶つ事も出来る・・・・だと?
そんな事するつもりは俺は端から無い。
そんな台詞は俺なんかより、アーダルベルトに掛けるべきだろう。
ただ・・・この魂を受け取っても、正直どうするべきなのか俺は悩んでいた。
ジュリアの望み通り、異世界に届けて新たな魔王となる者を誕生させるべきなんだろうとは分かっていた。
しかし、それを遂行させてしまうと何もかも眞王陛下の思惑通りに事が進みそうで、俺はどうにも釈然としなかった。
ジュリアの命を・・・・アーダルベルトが心から愛した者を・・・・。
そして、俺の・・・・俺達の希望となっていた光を呆気なくも奪っていった。
コンラッドが無言でジュリアの物だった魂を見つめていたら、ミレーユが背後から声を掛けてきた。
「・・・ウルリーケ様との話しは終わったのね、コンラート」
「ミレーユ・・・・」
ミレーユはコンラッドに近付き、彼の手中にある魂をじっと見つめた。
「それがジュリアの・・・・いいえ、ジュリアの物だった魂ね」
「あぁ・・・・」
「綺麗に輝いているわね・・・・」
「あぁ・・・・」
以前、聞いた事があるわ。
その魂の持ち主が亡くなった時、残された魂が濁りも無く無垢な白い輝きを保っているならば、それは未練が無い状態で命を絶てたという事だと・・・・。
アーダルベルトとジュリアが会った最後の日、私は生まれて初めてジュリアが泣き叫ぶ姿を見た。
ジュリアが決めた事とは言え、やはり未練が少なからずあるかもしれないと思っていたのに・・・・。
余計な心配だったみたいね。
未練なんて物はあの最後に流した涙と共に、綺麗に流れたのかも。
いつまでも未練たらしくしているのはジュリアらしくないもの。
この世界の一筋の希望の光とも思える魂の輝き。
その輝きは死して尚、ジュリアが夢や願いを諦めず前に進み続けてる様な気がした。
だからこそ私も、ジュリアがいなくなっても前に進むと決めた。
義理とは言え、スザナ・ジュリアの妹として恥じない為にも。
「ジュリアもウルリーケ様も、その魂はあんたに託した。だったら私も何も言わずに、あんたに託すわ」
「ジュリアの願いを無駄にするのは許さないと言ったわりには、随分とあっさり俺を信用するんだな。俺がこの魂をミレーユ達の望み通りの行動を起こすと確信でもあるのか?」
「私はジュリアの信じてる事を、同じく信じてみようと思っただけ。ジュリアが残した一筋の希望の光を、より輝かせる事が出来るかどうかはあんた次第よ、コンラート」
「希望の光・・・・か」
「私は警備の任へと戻るわ。決意出来たらまた眞王廟へいらっしゃい」
そう言い残して、ミレーユはコンラッドから去って行った。
1人立ち竦んでいるコンラッドはぽつりと独り言の様に囁いた。
「強いな、ジュリアもミレーユも・・・」
俺なんかとは違って・・・・・。
ジュリア・・・・俺は君の望み通り、この魂を地球へ運び届ける事が正しいのだろう。
でも、それは君を奪った眞王陛下の思惑通りに行動するのと同じ事・・・・。
俺が・・・・俺が取るべき道は・・・・。
どうしろと言うんだ?・・・・ジュリア。
『誰かが行動を起こし始めなければ、いつまで経っても本当の平和なんて訪れないわ』
ふと、以前ジュリアが言った言葉が魂から聞こえてきた様な気がした。
そして、コンラッドは決断したのだった。
「・・・・じっとしてても始まらない。行ってみるか、地球へ・・・・・」
翌日、コンラッドは再び眞王廟に赴いた。
魔力の高い巫女達の力を借りて、地球へ行く為に。
ジュリアの物だった魂と共に・・・・。
この時のコンラッドは、正直に言うとこの魂をどうするかは決めていない。
コンラッドが地球に行く事は、ジュリアの願いを引き継ぐ為の行動なのか眞王陛下の御意志とやらに従っての行動なのか、彼自身も分からない。
しかし、どちらにしてもこの先に待ち受ける出来事を自分の目で見極めなくてはいけない。
この魂をどうするか決めるのは、それからでも遅くは無い。
嫌、大切な同志の物だった魂だからこそ判断は慎重にしなくてはいけない。
そんな思いを秘めながら、コンラッドは地球へと旅立って行った。
忘れ去ってたのでは無いか?ってくらいこの続編を放置しちゃったよ・・・・orz
原作を取り入れつつ進ませてるつもりではいますが、何とも微妙な展開ですな。
次回はコンラッドの地球話しからぶっ飛んで、地球から帰ってきた所から始まる予定です。
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