イベント満載の秋! 文化祭当日で大騒動 中編
ここはアーダルベルト番長率いるメイド喫茶。
隣のクラスの執事喫茶と負けじと劣らず大人気であった。
男子学生、女子学生共に入店する者が多かった。(強烈過ぎる約2名のメイド姿に耐え切れず、冥土行きになった者も数名いたが・・・・)
また1人、新たなお客様が世にも珍しいメイド喫茶へと足を踏み入れた。
『ガラッ』と扉の開く音共に聞こえてくるメイドさんの声。
「おぅ、お帰りご主人」
それは想像する可愛らしい声音とは裏腹な、野太い男らしい声音だった。
「もう番長の旦那ったら、何度言えば分かるのよ?そうじゃなくて『お帰りなさいませー、ご主人様vv』でしょう?」
「こっ、これでも譲歩してんだよ!少しは大目に見ろ、ヨザック。たくっ、タダでさえこのフリフリメイド服を着せられて恥ずかしいってのによ///」
「そう?でも、よく似合ってるわよん。だ・ん・なvv」
「気色悪い声してんじゃねぇー!鳥肌が立つだろうが!!」
「・・・!!酷いわ、旦那。グリ江との事は遊びだったのね・・・(泣)」
ヨザックはその場でわざとらしくハンカチを顔に当ててよよよと泣き崩れた。
ご丁寧に用意したハンカチまで可愛らしいフリル付きである。
アーダルベルト番長とヨザックの漫才みたいなやり取りで店内は笑いの渦に包まれていた。
外野の声は『いいぞー、もっとやれー』とか『メイド番長、男らしいっす!』とか『グリ江ちゃんはメイドの鏡だねー』とか・・・・上げだしたらキリが無い。
新たに入ってきたお客様はあまりのテンションの高さに付いて行けず、目を点にしてその場に立ち尽くすのみだった。
「あのー・・・・」
「あぁ、すまんすまん。ご主人の席はこっちだ」
今までほっとかれたお客様、漸く相手にしてもらえて席に案内された。
「ごめんなさいね、ご主人様。このメイドさんはこんな口調だから何かと誤解されがちだけど、ただの恥ずかしがりやさんってだけだから」
「おいっ、誰が恥ずかしがりやだ!」
「メイド番長・・・じゃなかった。アーダルベルト番長もグリ江ちゃんもじゃれ合うのはそれくらいにして、ご主人様のお相手をしないと」
またもや新たなお客様が蚊帳の外になりかけた時、他にメイド係りとなった生徒が2人の漫才もどきのやり取りを中断させた。
「そうだ、こいつに構ってる暇は無ぇ。悪かったなご主人、ほったらかしにしちまって。これが注文表になってるから、何を頼むか決まったら声掛けてくれ」
「はぁ・・・・・」
・・・・とまぁ、メイド喫茶もこの様な感じではあるがこちらもかなり繁盛している様である。
既に入店していたお客様達の笑い声が廊下の方にまで響いていた。
執事喫茶を後にしたユーリと村田もメイド喫茶に入店する為に、行列の最後尾に並び始めていた所だった。
アーダルベルト番長のクラスは何を出店しているか未だに知らない2人であった。
「こちらはさっきの執事喫茶の落ち着いた感じとは違って、また随分と賑やかな様だね」
「ジュリアさんは行ってみてからのお楽しみって言ってたけどなー。本当、何やってるんだろう?」
ユーリと村田は期待半分、不安半分な気分でいっぱいになっていた。
非常に面白そうな所ではあるが、ここは何かある!っと感じ取っていた。
メイド喫茶の行列に並んだユーリと村田にも順番が回ってきた。
ガラッと扉を開けた瞬間、2人が見たものは・・・・
「お帰り、ご主人」
「お帰りなさいませー、ご主人様vv」
出迎えたのはメイド番長ことアーダルベルト番長と、自称御奉仕メイドグリ江ちゃんことヨザックであった。
「ア・・・アーダルベルトにヨザック〜!?」
ボディーフィルダー並みの立派なマッチョ体形に可愛らしいメイド服を包むのはかなり衝撃的である。
迂闊に幼い子供の目に触れさせたらトラウマにもなりかねない。
現に、ユーリと村田はあまりの衝撃にカチーンと石化してしまっていた。
「ぼ・・・坊主?!何でこんな場に?」
「あら?ジュリア嬢のとこの坊ちゃんじゃない。今の私はヨザックじゃなくてグリ江って呼んでねん」
驚くメイド番長と呑気にウィンクしながら挨拶するグリ江ちゃんであった。
「・・・・もしかして、ここは巷で人気のメイド喫茶というやつかい?渋谷、この人達とも知り合いなんだ」
「・・・・まぁ、知り合いと言うか何と言うか・・・・」
ユーリは正直、何て言っていいか分からなかった。
ぶっちゃけ他人のふりをしたいとも思ったが、根が真っ正直なユーリはこの場をごまかす事など不可能であった。
アーダルベルト番長は恥ずかしさに顔を赤らめながら言った。
「とっ・・・とにかく、1つだけ言っとくが、俺は好きでこんな格好してんじゃ無ぇからな!///この格好の事は一切突っ込むな。ってか記憶から抹消しろ!分かったな?坊主達」
「「は・・・はい(汗)」」
頷いたユーリと村田だが、正直に言うとインパクトが強すぎて記憶から抹消するどころか今夜の夢に出てきそうと思った。
「とりあえず、僕達はいい加減に座りたいんだけど空いてる席に案内してくれるかい?」
「あらやだグリ江ったらつい、ごめんなさいね坊ちゃん方。坊ちゃん達の席はあちらよ。注文表はこれだから、注文が決まったら声掛けてね。ちなみに、ここのお勧めはグリ江と番長の旦那直伝の手作りお菓子よん」
「作ってるのは他の奴等だが味は保障する。厨房担当の奴等に俺達がお菓子作りを1から叩き込んだからな」
マッチョの男2人直伝の手作りお菓子、どんな味がするんだろう?と思ったユーリと村田だった。
アーダルベルト番長は裏方の厨房に一端戻り、料理の出来具合の様子を見に来た。
「よぅキーナン、マキシーン。料理の出来具合はどうだ?」
「アーダルベルト番長、メイドお疲れ様です。番長とヨザック直伝のお陰でこっちは何とかなってます」
「そりゃあ良かった。厨房担当の奴等に料理を叩き込んだ甲斐があったな」
「それでも番長達の足元にも及びませんけどね。以外だったのはマキシーンもそれなりに料理が出来たって事ですけどね」
「ウチに帰れば育ち盛りの妹達の世話があるからな、嫌でもそれなりに覚えるさ。番長、もし作り置きしてる料理が残ったら持って帰っても良いですか?土産が無いと妹達が五月蝿いんで」
「あぁ、別に構わねぇぜ。食材が余ったら他にも何か作ってやるから、それも持って帰るといい」
「ありがとうございます、番長。番長の料理はそんじょそこらの料理人より美味いから妹達もきっと喜びます」
「本当よね、この料理がアーダルベルトとヨザック直伝なのが驚きだわ。お菓子の味も買ってきた物よりよっぽど美味しいもの。こういうのを人は見かけによらないって言うんでしょうね」
「ほっとけ、ジュリア・・・・・・・って、お前はどっから沸いて出た!?」
厨房にはいつのまにやらジュリアがいて、完成したお菓子をパクンと1つまみ味見をしていた。
何故か執事姿のまんま。
ジュリアの突拍子も無い出現は毎度の事なので、一々突っ込んでも時間の無駄である。
「沸いて出たとは失礼しちゃうわ。ここに来た時、丁度良い所にヨザックがいたからあなたの居場所を聞いたのよ。そしたらここに案内してくれたわ。ねっ?ヨザック」
「そうよん、旦那。グリ江は出来上がった注文品を取りに来るついでにジュリア嬢をここに案内したのよ」
「あぁ、そうかい。でっ、ジュリアはここに来て何やってるんだ?敵情視察か?」
「やーね、そんなんじゃ無いわよ。休憩時間を貰ったから、その間アーダルベルトと一緒に文化祭を廻りたいなって思ったのよ。でも、忙しそうだから別にいいわ。忙しい所を邪魔しちゃってごめんなさいね」
それを聞いたグリ江ちゃん達は、ニヤニヤしながら言った。
「旦那、せっかくのお誘いなんですからジュリア嬢と文化祭廻って来ても良いわよ。少しの間だったら、ここはグリ江達で何とかするわ」
「そうですよ、アーダルベルト番長。女性からのお誘いを断るなんて失礼ですよ?」
「しかしだなお前等、俺にはまだ仕事がいっぱい残って・・・・」
「それはグリ江が代わりにやっておくから、旦那は心置きなくジュリア嬢と休憩を満喫してきてちょうだい」
「番長は会場作りの力仕事まで手伝っていたんですから、少しは休憩してください。ジュリアさん、アーダルベルト番長をお願いします」
「お前等!何勝手に・・・・」
「ほら、旦那はさっさと休憩に入る。ジュリア嬢、少しの間なら旦那を貸し出すから煮るなり焼くなり好きにしちゃってちょうだい」
グリ江ちゃんはジュリアがいる方へと番長の背中をドンっと押し出す。
「お前等・・・・すまない」
他のクラスメイト達も、番長に休憩してもいいと了承していた。
「そう?それじゃあ悪いけど、メイドさんを1人借りていくわ。さぁアーダルベルト、休憩時間が勿体無いから早く行きましょう」
「ちょっ、ちょっと待てジュリア。せめてメイド服から別のに着替えさせろ!」
「いいじゃないその格好のままで、私だって執事服のままなんだし。それに、この格好のまま廻るのも面白そうじゃない」
「俺は面白くなーい!」
ジュリアはアーダルベルト番長の話しは聞かずに、ぐいぐいと引っ張り出て行った。
この場に残ったクラスメイト達は、番長にエールを送りながら見送っていた。
何だかんだ言って、ジュリアとの文化祭巡りを楽しんでいるアーダルベルト番長。
服装がメイドと執事のコラボだからかなり目立っている。
その上、服装が男女逆転しているから周りの人の視線が痛い。
しかし、当の番長はともかくジュリアはまったく気にしないで文化祭を楽しんでいた。
2人で色々と食べ物を買って、食べ歩きしながら廻っていた。
「このクレープも美味しいわね。でも、さっき食べたアーダルベルト直伝のお菓子の方が味は上かしら?今度はアーダルベルトが直々に作った料理も食べてみたいわ」
「機会があったらジュリアに作ってやるよ。料理は元々嫌いじゃないからな。何だったら、ジュリアにも教えてやろうか?料理ってやってみると中々面白いもんだぞ?」
「本当!是非お願いするわ。その時が楽しみだわ」
「ただし、つまみ食いばかりするのは止めとけよな」
ムッとした表情でジュリアは言った。
「失礼しちゃうわ。アーダルベルトには、私がそんな風に見えるって訳なのね」
ジュリアはぷいっと顔を横に向けて拗ねてしまった。
「悪い、冗談だから臍曲げるなジュリア」
「・・・・・・」
ジュリアは無言でジロッとアーダルベルト番長を睨む。
それを見たアーダルベルト番長は、流石にからかい過ぎたか?と焦ってしまった。
「本当に悪かった、ジュリア。謝るから怒らないでくれ」
焦った様子で謝るアーダルベルト番長に、ジュリアはクスクスと笑い出した。
「別に怒って無いわよ」
「ジュリア?」
「ふふっ、焦った?私をからかった仕返しよ、アーダルベルト」
アーダルベルト番長よりジュリアの方が少し上手であった。
ジュリアはあまりからかない様にしようと思ったアーダルベルト番長だった。
「あっ!もう休憩の終わる時間だわ。そろそろ仕事に戻らないと」
「そうか、もうそんな時間か。俺もそろそろ仕事に戻るか」
「付き合ってくれてありがとう、アーダルベルト。メイド喫茶の方も健闘を祈るわ、じゃあまた後でね」
「おぅ、執事喫茶の方も頑張れよ」
楽しかった休憩時間も終わりを告げ、2人はそれぞれの持ち場に戻っていった。
その時、既に事件は起きていた・・・・・
アーダルベルト番長がクラスに戻って来た時、何やらクラスメイト達は慌ただしい様子だった。
「どうした、何かあったのか?」
「番長、戻って来たんですね。それが・・・・店の売り上げ金がごっそりと無くなってるんです」
売上金が無くなったメイド喫茶の運命やいかに?!
文化祭編は次回で完結です!
嵐の予感の文化祭、どうなる!?メイド番長!!
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