その小さな指の先に
ウィンコット領の夏は涼しいことが知られている。
かの地は眞魔国のやや北西に位置しており、天空にそびえるような高い山脈は決して溶けることのない雪を冠して、夏でも心地よい風を吹き降ろしてくれる。
冬は厳しいものもあるだろうが、風光明媚なウィンコットは一年を通して観光客が途絶えることはないらしい。
「今夏は特に気候が良いせいか、たくさんの方が避暑に来られるのですよ」と、別件で血盟城を訪れたウィンコットの現当主が慎ましく来訪を促した。
今は亡き姉によく似た春の空を思わせるような髪、そして瞳で。
光を放つ聡明な瞳は英知を湛え、荒波を超えた穏やかさを浮かべていた。
「外見はそっくりになってきたけど、中味は・・・・どうかな、ジュリアと似ていると言ったら嫌がるんじゃないかなキアスンが」
含み笑いをしながらコンラートが言った。
過去の思い出に泥むわけでもなく、昔を懐かしむような笑顔で。
それから少しばかり日が経って―――。
血盟城を遠く離れ、山脈の裾野に続く道を魔王陛下とそのお供二人は愛馬に騎乗して進んでいた。
城を出てから数日、朝の涼しい時間に馬を駆り、午後はゆっくりと歩む。
夜は庶民が利用する簡素な宿を借りてのお忍び旅行である。
眞魔国に於いてはヴァカンスで避暑地に出向くだけでも長旅だ。交通機関は馬、よくても馬車のみ。
こうなったら少し時間をかけてもいから道草しながら行こうよと魔王陛下が提案し、専属護衛は当然の如く主に倣った。
折しも夏の盛り、王としての責務も夏休みモードで他国からの客人もない。
血盟城は閑散としていて、相変わらず執務室の机に張り付いている摂政も不承不承ながら魔王の休暇を許可した。
ここ最近、ユーリが精力的に職務に励んでいたのも効を奏したらしい。
しかしながら魔王のヴァカンス計画のせいで、グウェンダルの夏休みが露と消えるだろうことは十分に理解していたので、
「ごめんよ、グウェン。お土産買ってくるからさ」
なんて可愛い子ぶって手を振ったら、見送る彼は何故か顔を赤く染めていた。
「やっぱり怒ってるのかな・・・・・」
と悩むユーリに、コンラートは「そんなこと」と笑って黒い髪を撫でてくれた。
「アタシもヒマなんで」
と勝手に従卒希望してついてきたヨザックも吹き出す寸前の妙な顔で、
「まだまだ素直になれないお年頃なんですよ、閣下も」
などとしたり顔で話すから、「お年頃のグウェン」を想像してちょっとばかり背筋がむず痒くなるユーリだった。
渋面の摂政とは違い、涙や鼻水等可能な限りの汁気を放出しながら王佐がハンカチを振って見送ってくれてから3日、山の向こうに目指すウィンコット領がある。
此処までくれば急ぐこともないと、三人は清らかな風をうけながらゆったりと馬を進めていたのだった。
眞魔国はその創国の祖である眞王陛下の許に、異能故に迫害された者達が流れ着いた国である。
一部の強硬派貴族を除けば、魔族とは元来諍いを好まぬ性質で、大地と契約し慎ましく生きる種族が多い。
王都を出れば長閑な農村部が拡がっている。
緑豊かな風景を楽しみながらの旅は快適だった。
街道筋の街や村は旅人に寛容で、凡庸な変装をしてもなお輝くような美貌を誇るユーリと、彼を護るように佇む美丈夫二人に対して誰もが優しくしてくれた。
異世界生まれのユーリと、伝説の剣士と謳われるコンラート、それにあらゆる世界に通じているヨザックの三人が寄れば話題にこと欠かない旅であったが、そのなかでもユーリは摂政の「お年頃」云々のインパクトが強すぎたようで頭から離れないようだ。
今も何事か思案しながら馬上で唸っている。
「・・・・・・・あんな強面してても思春期なんてやっぱあったんだろうな」
実年齢は知らないが、おそらく100歳は軽く超えているだろうグウェンダルの「若い」頃を想像しても、ユーリには皆目検討がつかない。見栄えというと現在でも十分若い男前だが、渋すぎるというか鉄仮面というか。
するとヨザックがニヤニヤしながら、
「そうですねぇ。・・・・・外見は違いますけど、我が道を行く頑固者ってところは隊長そっくりですよね。さすが兄弟っつーか」
「ヨザック。余計なことは言うなよ」
すかさずコンラートが釘を刺す。お互い物心ついた頃からの幼馴染だ。
今更掘り起こしたくない過去も何もかも共有しているといっても過言ではない。
「え? コンラッドとグウェンってそんなに似てたの? ってか、今でもそっくりだけどさ」
「・・・・・・・どういう意味かは存じませんが、俺としては大いに反論したいところですね」
眉間にうっすらと浮き出た皺と苦虫を噛み潰すよう表情に、ユーリとヨザックは同時に笑い出した。
「兄弟だよなーホントに」
「ええもう。同族嫌悪するところがまたソックリ。やーね、いい男って遺伝なのかしら?」
グリ江が涙を浮かべて爆笑している。
やがて道は緩やかな斜面となって山を目指していた。
「ここを越えたらウィンコット領です。山頂を避けて迂回路の山道を登ります。勾配があるように思えますが見た目ほどは急ではないんですよ」
眩い陽光のなか、コンラートが手を翳しながら山を見上げた。
「へぇ詳しいんだなコンラッド。――あ、前にウィンコットで仕事してたって言ってたっけ」
「ええ。もう・・・・・20数年前になりますね。当時の領主に招かれて剣術指南を」
「それじゃ知り合いも多いよな」
楽しみだと笑うユーリに、コンラートとヨザックは曖昧な笑みで応えたのみだった。
国を挙げての大戦が勃発し、10年の長きに渡って人間国との戦争に明け暮れていた頃。
士官学校を卒業したばかりのコンラートは師団を率いて各地を転戦していた。
彼が率いる混血部隊は純潔種とは異なり魔力はないが身体能力が高い者が多かった。
戦闘にも長けているせいで王城から頻繁に要請があり、まるで傭兵部隊のように各師団へと送り込まれた。
その都度戦果をあげてきたが、評価されることは皆無だった。
それでもコンラート以下ルッテンベルクの兵士らは眞魔国の勝利の為に進軍を止めることはなかった。
そんなある日、コンラートに辞令が下った。
ウィンコット領主、フォンウィンコット卿オーディルが自軍の強化を図るため、剣術指南役として眞魔国随一の剣士と噂のウェラー卿を招致したい旨、王宮に依頼した。
その依頼状を以ってウェラー卿は軍籍から離脱、ルッテンベルク師団は他の部隊に編成されることとなる。
迷った挙句にコンラートは要請を受諾した。いや、承諾するより他に道がなかったのだ。
血盟城からの下命には抗えない。恐れ多くも現魔王陛下の御心に反するものだから。
――尤も、魔王陛下本人の勅命ではないのだろうが。
初めてウィンコット領を訪れたコンラートは、その後深い関わりを持つ女性と出会うことになるが、まずは当主とその嫡男、デル・キアスンに会った。
フォンウィンコット卿オーディルは高齢であるものの豪放磊落で、武術を重んじる公平な武人だった。
家を継ぐべき長男を喪ったせいで嫡男となったキアスンはまだ年若く血気盛んな少年だった。
実戦経験豊富なウェラー卿を崇め、世俗の評価に左右されることのない聡明な瞳をしており、だが、目指す先は華々しい武勲だった。
誰もが先を急いでいた。
国の正義と勝利を信じ、その裏で死んでいく者たちを神聖化する。
兵士らを鼓舞する影で、戦死した我が子、我が夫の遺品を抱いて静かに泣く女性たち。
矛盾する国策が未来を捻じ曲げ、それでも年長者は異を唱えることができず、若者達は国の指導者を信じて眞魔国の為に喜んで命を捧げていった。
そんな時代に訪れた土地である。
懐かしさはあるが、20数年を経て現在、何を感じるのか見当がつかないというのが本音だ。
しかし自然と懐かしさは込み上げる。
錬兵の任についた館や庭はあの頃のままだろうか。
初めて彼女と出会った南向きの部屋は、今でも窓が開きっぱなしなのだろうか。
太陽の光も風も大地の香りも、季節を問わず全身で受け止めるのが好きだと笑った少女に、恋情はなかったけれども、どこか深いところで繋がっているような気がしてよく話をしたものだ。
追想に耽れば、今でもあの頃に戻っていくようである。
だが、確実に時は流れた。
デル・キアスンが血盟城を訪問するくらいには。
「やっぱりギュンターを連れてくるべきだったかな。リンジー君が喜んだのに。そうだ、温泉もあるんだろ?年寄りにはやっぱり温泉が一番だよな」
もはやユーリの心はウィンコットの館に飛んでいる。
着いたら何をしようか。まずは領主に挨拶して、それから風光明媚と絶賛される観光地へ連れていってもらおう。
無邪気な王に、コンラートも回想をやめて微笑んだ。
「リンジー君は歓迎してくれたでしょうが、この道をギュンターが登るとなるとね。せっかく着いてもリンジー君の評価がまた下がったかもしれませんよ?」
「だよなー。年寄りには心臓破りだよ、この坂」
と言いつつ、若いユーリもまだ中腹にも満たないのにもはや息が上がって仕方がない。
「運動不足ですよー坊ちゃん。オレが鍛えて差し上げましょうか」
「グリ江ちゃんのご指南かー。コンラッドとはまた違って苛酷そうだよな」
女装が得意なお庭番の上腕二等筋は伊達ではない。剣技に勝るコンラートとは違う職種で能力を誇る。
「アタシの体術はグェンダル閣下お仕込みですから。猛者には厳しいけど可愛い子ちゃんには優しい技なのよん」
ヨザックがシナを作ってユーリにアピールした。
グウェンの「優しい技」とはなんだろう。まさか戦いの途中でいきなり頬擦りなんかする恐怖の裏技なんだろうか。
などとユーリは聞いただけで恐れ入ってしまったわけであるが、コンラートには別の驚きがあったようだ。
「お前がグウェンの? 何時の間にそんなこと」
「あら。知らなかったかしら? アンタがウィンコットに輿入れしちゃったせいで、その間アタシたちはグウェンダル閣下にお世話になってたのよー」
「誰が輿入れだ、人聞きの悪い。俺が抜けた後、お前たちがフォンヴォルテール卿の麾下にあったことは知っている。だが、あの兄が武術の指南役を?」
「まー指南役っちゅーか、ありあまる鬱憤を発散する為にお互い運動してたと。――お兄ちゃんから聞いてなかったんですかぃ?」
「・・・・・・・・・初耳だ。なんで今まで黙ってた?」
「聞かなかったじゃん」
「聞かなくともそれくらいは報告しろ。グウェンにしても。・・・・・・・水臭いじゃないか」
「へぇ? 水臭い、ねぇ? じゃ、あんたがウィンコットでご当主に見初められて危うく婿養子にさせられそうになったことを閣下には?」
「・・・っ・・・・・そんな当たり障りのない社交辞令をいちいち報告できるか!」
当主だけでなく、母親であるツェツィーリエも話に乗り気だった話を蒸し返されて、コンラートは焦った。
「ほらね。あんたら兄弟、そっくり」
「兄弟なんだからちゃんと話し合わなきゃ。ってかコンラッド、婿養子の話があったんだ」
「そっくり兄弟」に意気投合したユーリとヨザックに反論するのも難しいが、それ以上に現在恋人関係にある彼に誤解されるのがなんとなく嫌である。
「本当に噂だけですから。実際に話はなかったんですよ? それに彼女には婚約者がいて・・・・」
「言い訳しなくていいからコンラッド。昔の話だし。それよりそんなに慌てるあんたも新鮮だな。グウェンも時々急にドアを開ければものすごく焦ってることもあるしヴォルフだって酒を飲むとアレだしさ」
恋人の昔の浮名を笑って流せるほどオトナなんだぞ、を見せ付けようとユーリは鷹揚に笑った。
尤も本当に恋人が心を残した女性がいるとなれば話はまた違ってくるのだろうが。
有り余る愛情を日々注がれているユーリには幸運にもその手の嫉妬とは縁がなかった。
「でも・・・・若い頃のルッテンベルクの獅子にも会いたかったなー。剣術指南役なんて時代劇っぽくて格好いいし。結構荒っぽい仕事なのかな?」
「そうですね。兵の鍛錬は苛酷だったけど・・・・それ以外は穏やかな日々でしたよ。食べ物は美味しいし、気候もいいし」
過ぎる季節をちゃんと肌で追えたのは、あの時代でいうとウィンコットに滞在した期間だけだったろう。
記憶が鮮やかに、あたたかく蘇る。
「そんでもって当主に気に入られるってことは皆から好かれてたってことだろ?」
「――そんないいものではありませんよ。なんせ閑職のようなものでしたし」
コンラートは自嘲した。戦火の最中に部下から引き離され後方の地で剣術指南役など、どうせ自分達の存在を良しとしない貴族連中の姦計だ。
結果的には感謝する日々を送ったが、当時味わった空しさは時を経ても癒えることはない。
「あんたら・・・・・。兄弟揃って妙に無器用なのは困ったもんだね」
ヨザックが呆れたように心底溜息をついた。
「あんたがウィンコットに飛ばされたのはグウェンダル閣下の差し金ですよ」
「グウェンの!?」
「ついでに言えば、あんたの為だぜ、コンラッド」
ウェラー卿が戦線を離脱して一領土の雇われ指南役に就任すると聞いて、いち早く動いたのがルッテンベルク師団の総意を代表したヨザックだった。
面識のないフォンヴォルテール卿に体当たりし(その直前に赤い悪魔に文字通り体当たりされてしまったが)意義を申し立てたところ、彼から戻ってきた応えはウェラー卿の温存、いうなれば精鋭部隊であるルッテンベルク師団を便利屋のように使い疲弊させる貴族達から守るためだった。
「二年待て」と彼はヨザックに告げた。
二年あれば権力を掌握して眞魔国全軍の指揮を握ることができる。それまで無為な使役はさせないと。
・・・・・・・・・不幸なことに、約束の期限を迎える前に戦況が悪化し、多大な犠牲を払った上でのなし崩しの終戦を迎えたのだが。
「グウェンダルが・・・・そんなことを・・・・・」
コンラートは暫し沈思した。
その昔、魔王陛下の息子である三人は、仲の良い兄弟として育ったことはなかった。
取り立てて嫌悪しているようには見えなかったが、長兄がコンラートに感情を見せることはなかった。
末弟は、何も知らぬ幼子の頃は慕ってくれてはいたが、次兄の出自を知るや否や、傍を去った。
グウェンダルが次弟を慮って指示を出したなどと・・・・・・当時の彼の地位を考えるとさぞ困難なことだったろう。
「あ、オレもそれ聞いた事がある。ヨザックみたいに詳しい話じゃないけど、コンラッドには昔辛い思いをさせたからって」
魔笛を探しての二人きりの道中で、彼が男前な渋面をそのままに回顧していたのを覚えている。
「・・・・・・そんな素振りは全然見えませんけどね」
コンラートは憮然として反論した。長兄を嫌うわけでもなく、どちらかといえば小さい頃からコンラートは兄を慕っていたが、その思いが届くことはないとも思っていた。
「それなら・・・・・・・少しぐらい弟を労わってくれてもいいと思うけど」
「労わってるじゃありませんか。隊長の我儘を一番に聞いてくれるのはどなたです?」
ヨザックが呆れて肩を竦めた。
「あんたが生死の境を彷徨ってからこっち、あの人が弟の頼みを断ったことがあります? 戦争が終わってやっと国の英雄と認められたのに。さぁこれからって時にぶらーっと長い放浪の旅に出たときも、眞王廟から何事か言い付かってこの世界から姿を消したときも。帰ってきてから始めた意味不明のモロモロも。次代の魔王をお迎えする準備なんて口にも出さないからオレ達なんかあんたが気でも狂っちまったのかと思ったけど」
兄弟揃って口数少ない故に、周囲がかなり混乱した時期もある。
「おまけに軍属退いて地位を捨てて、魔王陛下付きとはいえただの護衛役ですよ?救国の英雄が。・・・・ったく、お前さんのにーちゃんは弟に甘すぎるって兵士ら皆で大ブーイングでしたけど。覚えてない?」
「・・・・・コンラッド、そんなワガママ小僧だったんだ」
さすがのユーリもあんぐりと口を開けて、名付け親兼専属護衛を見上げた。
「少し語弊があるようですが・・・・・否定はできませんね」
「心当たりはあるんだな」
反論しようにも正当な言い分が見つからないコンラートを、ユーリが笑った。
「そんな閣下ですから、あんたが今回ウィンコットへ行くって言い出したのにはきっと嬉しかったんだと思いますよ」
ヨザックも笑いながら、だが、低い声でしみじみと語った。
幼馴染の真意が汲み取れるほどには大人になっているコンラートも、今度こそ反論をせずに頷いた。
かの地は・・・・・・思い出が深すぎる。
「山の向こうがウィンコットか。すっごく楽しみだよな。次はグウェンやヴォルフも誘えばいいさ」
ユーリがコンラッドに道の先を指さした。
小さな指先が示す場所はもはや過去の地ではない。
ユーリが誕生し、眞魔国が新しい御世になって、忌まわしい時代が遠ざかる。
あのウィンコットの若き領主が穏やかな笑みを湛えて血盟城を訪れる。前魔王の治世下では想像もつかなかったことだ。
無頼の者となったアーダルベルトも、捨てた筈の故郷に度々姿をみせるようになった。
こうやって新しい世の中は別な色に塗り替えられていく。大戦の爪痕がゆっくりと癒されていくようだ。
異世界生まれの公平な王が疲弊した皆の心を生まれ変わらせてくれるのだろう。
誰もが新しい時代の息吹を感じている。
「コンラッド、どうしたんだ?」
馬を止めてじっとみつめる彼に、ユーリが首を傾げた。
「・・・・・あなたが王で嬉しいんですよ。俺の主人は最高だってね」
「なななななにを急に」
急ににっこりと笑って迫り来る恋人に、ユーリは思わず仰け反った。
コンラートが突然恥ずかしい台詞を言い出すことは経験上知っている。
知らない間に彼の中にある地雷(?)を踏んでしまうらしく、急にギュンターよろしく暴走することを。
「えーと・・・・コンラッド。マズいから。なんか知らないけど、ここ天下の公道だから」
だが互いの馬の鼻先が擦れるほど寄り添う美貌の護衛は恋人モード全開で、まだ馬に慣れないユーリは劣勢だ。
「わかってます。――ヨザ、あっちを向け」
「へいへい。・・・・・・・ったく、早く終わらせてくださいよ?」
ここで幼馴染の命令に背けばいかなる鉄拳が飛んでくるか経験上たっぷりと理解しているヨザックは、馬ごとくるりと素直に後を向いた。
アタシも猊下を連れてくればよかったわ、などと不敬なワガママを唱えつつ。
「ユーリ・・・・・・」
「う・・・・・・、し、しかたないな・・・・・っ」
降りてくる唇を、ユーリは神妙に受け止めた。(ここでキスに抵抗すればもっとすごい仕打ちをされることを経験上十二分に知っている)
重ねた唇は温かく穏やかだった。
重なる二人の髪を揺らして心地よい風が吹き降ろしてくる。
懐かしい緑深い山々と草原はもうすぐそこにある。
昔年の思い出をユーリに聞いてもらおうと、コンラートは素直に思った。
懸命に駆け抜けた時代を、寂寞な思いのままに過ごした場所を、彼がどんな色に変えてくれるのか。
様々な思いを、あの窓から今こそ解き放とう。
太陽の光も風も大地の香りも、その時からコンラートの望むものになるだろう。
道の向こうに懐かしい街並みが現れる。
そっと解いた最愛の人の手がいざなうように指し示すのを、コンラートは微笑んで受け止めた。
−その小さな指の先に− おわり
ウチの記念小説とは大違いの素敵なストーリーでした(うっとり・・・///)
昔の事を語るヨザックも良いですが、最後は王道のコンユで占めてる所も萌えましたvv
圭様宅の次男は攻め属性だけではなくて受け属性も備わってるので素晴らしいです!
ウチのへたれとは大違い(爆)