最も最凶な指令状
ここは眞魔国にある眞王廟の渡り廊下。
その廊下を魔王陛下の護衛ことウェラー卿コンラートのつかつかと歩いている姿があった。
彼は不機嫌そうな顔つきでジュリアの義妹、ミレーユのいる場所へと向かっていたのだった。
コンラッドは目的地につくなり、ミレーユのいる部屋の扉をノックもせずに『バンッ!』と無遠慮に開けた。
「ミレーユ!」
ひゅっ・・・・どかっ!(矢がコンラッドの横顔すれすれで通って、廊下の壁に突き刺さった音)
「・・・・・・・」
固まってしまいコンラッドはもはや何も言えない状態だ。
「ノックも無しに女性がいる部屋にいきなり入ってくるなんて失礼なんじゃない?コンラート」
「部屋に入って来た者をいきなり弓矢で射ろうとする方が、よっぽど失礼な様な気がするんですか?」
1歩間違えばあの世行きですよ?
「当てる気は無かったんだから別にいいじゃない。ジュリアの場合だったら間違いなく入ってきた瞬間、殴り飛ばされてるわよ?」
「うっ・・・そりゃあ、そうですが」
ミレーユの言うとおりなので、コンラッドは反論できない。
ミレーユはふうと溜息を1つ吐きながら言った。
「まぁいいわ。・・・・でっ、今日は私に何の用よ?」
普段だったらノックを忘れないコンラッドを不思議に思い、とりあえずミレーユはコンラッドに自分を尋ねて来た理由を聞いてみる事にした。
「そうだ、ジュリア!あなたの義姉であるジュリアはどうにかならないのか!?」
「ジュリアがどうしたって言うのよ?」
「俺が陛下に好意を抱いているって事はミレーユもジュリアも知ってるだろう?」
「まぁね、あんた見ていて分かり易いし」
鈍ちんな陛下はちっとも気づいてないみたいだけどね。
「それならば、何故ジュリアは俺と陛下の邪魔をするんだ!?」
「陛下の貞操をあんたから守る為でしょう」
「俺が陛下に手を出す様な不埒者に見えると言うのか?」
「見える(キッパリ)」
キッパリと告げたミレーユにコンラッドはずーんと部屋の隅っこで項垂れた。
ミレーユはそんなコンラッドをやれやれという風に見ていた。
「まぁ、大体コンラートが私を訪ねて来た理由は察しがついたわ。大方、あんたと陛下が良い雰囲気になってきた時にジュリアの邪魔が入ったんでしょう?」
ミレーユの指摘にコンラッドは(うっ・・・・)っと口篭った。
図星・・・・みたいね。
ジュリアの邪魔が入るなんていつもの事じゃない。
全く、面倒くさい男なんだから。
「それで、今回はジュリアが何をやったって言うの?」
「ついこの間の事なんだが、久々に陛下の休みが取れた時に息抜きも兼ねて遠出でにお連れして俺の気に入ってる場所の湖へと俺と2人で行ったんだ。しかし、何故かジュリアとアーダルベルトもその日に俺達と同じ場所でピクニックをしていたんだ」
「綺麗な湖だな、コンラッド」
ユーリは振り返りながらコンラッドに笑顔で言った。
ユーリの愛らしい笑顔を見てコンラッドはいい年して『キュン・・・』とした。
何か良い雰囲気じゃないか?
今は都合の良い事に、この場にいるのは俺とユーリの2人きりだけ。
このままユーリの肩を抱き寄せて、もっとユーリの親密度を上げる絶好のチャンスだ!。
そうコンラッドが思った直後、背後からここにはいない筈の人物が2人に声を掛けてきた。
「こんにちはユーリ陛下、コンラッド」
「陛下にコンラッドじゃないか?お前達こんな場で何してるんだ?」
ユーリとコンラッドが振り返って見れば、そこにはジュリアとアーダルベルトの姿があった。
「あっ、ジュリアさんにアーダルベルト、こんにちは。今日は休みだから気分転換にって、コンラッドがここに連れて来てくれたんだ」
「奇遇ですね。私とアーダルベルトもここにはピクニックに来たんです」
その時コンラッドは(本当に奇遇か?)っと思った。
そんなコンラッドは無視して、ジュリアとユーリの話しは進んでいた。
「そうだ、もし陛下がよろしければこれから私達もご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」
「勿論、ピクニックなら人数多い方が楽しいし。なっ?コンラッド」
「そうですね・・・・」
せっかくの良い雰囲気を邪魔されたコンラッドは実に無念そうだ。
そんなコンラッドには全く気づかない、相変わらず鈍ちんなユーリであった。
楽しそうに会話しているユーリとジュリアから少し離れた所で、コンラッドとアーダルベルトが会話をしていた。
「アーダルベルトとジュリアは何故今日ここに来たんだ?」
「ジュリアが今日ここにピクニックに来たいと言ったからだ」
それを聞いたコンラッドは、邪魔が入ったのは偶然なんかでは無くジュリアの策略で邪魔されたとしか思えなかったのだった。
「・・・・という事があった」
「ふーん・・・・」
ミレーユはどうでもいいという様な感じで聞いていた。
「それだけじゃない。何故か陛下と2人きりになると毎回どこからともなく現れ、ジュリアの邪魔が入ってしまうんだ」
これではいつまで経ってもユーリとの進展が望めそうに無い。
「頼むからジュリアをどうにかしてくれ!」
「男だったらそんな事くらい自分で何とかしなさいよ。面倒な事に私を巻き込まないでよね」
「それができたらとっくの昔に・・・・・はっ!そろそろ陛下が執務を休憩される時間だ」
一刻も早くユーリの元に戻らねば!
「ミレーユ、俺はこれで失礼する」
そう言ってコンラッドは一目散に血盟城へと戻って行った。
「ふぅ、やっと帰ったわね。でも、あの調子じゃあまた直ぐ来そうね」
そうなるとまた面倒ね。
どうにかならないかしら?あのへたれ。
私だって極力ジュリアを敵に回したくないってのに。
・・・・・よしっ、あの手でいってみよう。
面倒なお願いしてくるコンラッドをどうにかしようと、ミレーユは良い事を思いついたのだった。
数日後、コンラッドの元に1羽の白鳩便が届いた。
それは何と、ミレーユがコンラッド宛に送った手紙だった。
コンラッドは直ぐ手紙の内容を確認した。
ミレーユが送った手紙には、こう書かれていた。
『先日ジュリアをどうにかしてほしいという件、考えといてあげる。その代わり条件があるわ。今からコンラートに指令を出すから、それを見事に完遂してみなさい。それができたら、あんたを男として見込んで陛下との仲を協力してあげる。指令は以下の通りよ』
指令1.陛下の目前でグリ江と熱烈な口付けをするべし。
指令2.アーダルベルトの目前でジュリアの悪口を言うべし。
指令3.猊下が愛用なさってる眼鏡を猊下の目前で山折りにするべし。
指令4.アニシナがいる血盟城の実験室前で「俺は今直ぐもにたあになりたい!」と叫ぶべし。
指令5.鬼軍曹時のジュリアに背後から蹴りを入れてくるべし。
以上。
『追伸、くれぐれもイカサマしようなどとは思わないでね』
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
それ以来、コンラッドがジュリアの事でミレーユに頼みに行く姿を見掛け無くなったという・・・・。
END
この指令を見事に完遂できた方は真の勇者です!