最も最凶な指令状(後日談)
「たーいちょ、またジュリア嬢に坊ちゃんとのデートを邪魔されたみたいですね」
「だったら何だと言うんだ?そのおかげで俺は最近機嫌が悪い。何しに来たんだ?ヨザック」
「勿論、隊長を笑いに・・・・」
「一片死んでみるか?」
コンラッドはそう言いながら鞘から剣を抜き、剣先をヨザックの喉元にピタッと当てる。
(この御人は殺る気満々だ・・・・)
ヨザックは背中に冷や汗を流し、顔面蒼白になりながらそう思った。
「じょ・・・・冗談ですって。本当に冗談が通じない御人なんだから」
「笑えない冗談を言うお前が悪い」
「はいはい、俺が悪ぅございました」
コンラッドは渋々、剣を鞘へと戻した。
コンラッドは不機嫌さを露にしながら、ヨザックを無視して行こうと思い、歩き出そうとした。
その時、コンラッドから1枚の紙がひらりと落ちた。
「隊長、何か落ちましたぜ。・・・・・って、何だこりゃあ?手紙か?」
ヨザックは落ちた紙を拾って、偶然にも紙に何か書かれているのが見えたのだった。
「それはミレーユが俺に出した指令状だ。陛下との仲を取り持ってほしかったら、それを完遂させてみろという内容だ」
「へー、ミレーユ嬢がねぇ。えーと、何々?・・・・・・」
ヨザックはミレーユから出された5つの指令を見て固まってしまった。
「・・・・・・・・・」
「全く、ミレーユも無理難題な指令を出してくれる」
コンラッドは溜息を吐きながら言った。
(隊長、これは無理難題と言えるレベルじゃ無いですって!この指令を遂行出来る者なんて絶対、この世に存在しません!)
ヨザックは心の中で、コンラッドに突っ込みを入れた。
「だがな、ヨザック。俺は、その無理難題な指令を1つでも遂行してミレーユを見返してやろうと思う」
ミレーユは俺に1つも出来っこ無いと踏んでこの指令を出した筈だ。
だったら1つだけでも遂行して見直されれば、少しは俺への態度を改めてくれるかもしれない。
「あの〜隊長。束ぬ事をお聞きしますが、隊長はどの指令を遂行しようとお考えで?まさか、陛下の目前でグリ江とキ・・・・・」
「そんな事すれば陛下にあらぬ誤解を受けるだろう。大体、お前と口付けするくらいなら、自分の喉を掻っ切って自害した方がよっぽどマシだ」
相変わらず酷い言われようっすね〜。
まぁ、俺もとんだ被害を受けないから別にいいっすけどね〜。
「じゃあ隊長はどの指令を遂行なさるおつもりで?」
そこが問題だ。
アーダルベルトの前でジュリアの悪口を言えば、ジュリアを溺愛してるアーダルベルトに俺は確実に殺される。
かと言って、アニシナのいる実験室前で『もにたあになりたい!』などと叫べば、当然アニシナに拉致られて『もにたあ』と称した発明品の実験台にされる。
鬼軍曹時のジュリアに背後から蹴りを入れろだと?
恐ろしすぎて、その後の展開すらも想像したく無い!
大体、ジュリアだったら蹴りを入れる前に気配に気づかれて、返り討ちに遭うのが関の山だ。
と、なると・・・・・
「猊下の眼鏡を猊下の目前で山折り・・・・となるかな?」
「隊長、悪い事は言いません。それだけは止めてください!下手したら国外追放となりますよ?」
「猊下はあの心優しい陛下のご友人だ。間違えたと言って謝れば許してくださるだろう」
そういやあ隊長って猊下とあまり面識が無いんだっけか?
あの御方も怒らせると相当恐いのに・・・・・。
そんな事したらとんでもない事になりますぜ?
「という事で、俺は後程この指令を実行してみようと思う」
あ〜あ、俺知〜らないっと。
数日後の事、コンラッドは血盟城へと遊びに来た大賢者こと村田健と偶然遭遇し、指令を実行する事にした・・・・。
「猊下、眼鏡が少しだけ曇っている様ですが」
「えっ、曇ってる?僕は気にならないんだけどな」
「これ以上曇りが酷くならない様に拭きますね」
コンラッドはそう言って、村田が掛けてる眼鏡を手に取った。
「それくらい自分で出来るから別にいいよ。僕の眼鏡を返してくれるかい?ウェラー卿」
コンラッドは眼鏡を村田に返す前に、手に力を入れて山折の指令を実行した。
「・・・・・・・・ウェラー卿?」
「はっ、俺とした事が猊下の眼鏡を山折りにしてしまった!すいません、つい手が力んでしまって!」
コンラッドは白々しい言い訳をしてるが、ちゃんと誠意は伝わる様に土下座をしながら謝罪した。
「いいよ、別に。間違いは誰にだってある事だしね」
村田はにっこり笑いながらコンラッドに言った。
(猊下は怒ってらっしゃらない様だが、笑顔に寒気を感じるのは何故だ!?)
「でもね、ウェラー卿。眼鏡ってさ意外と値段が高いの知ってる?」
「は・・・はい」
「しかも僕と渋谷ってさ、地球では高校生という身分だから大金手に入れるのも一苦労って訳なんだよ」
コンラッドは嫌な予感と共に、背中に冷や汗を感じながら村田の話しを聞いていた。
「だからさ、高価な物を壊したんなら弁償するってのが筋だと思わないかい?」
村田の笑顔が黒笑みに変わった。
(俺はとんでもない指令を実行してしまったのか?!)
「申し訳ございません!猊下。壊してしまった眼鏡を直ぐに弁償いたします!」
「う〜ん、直ぐに弁償と言われてもこっちにある眼鏡が僕の目に合うとは限らないんだよね〜。僕専用の眼鏡を作る時に必要な処方箋だって地球にあるし」
コンラッドは今更ながら、自分の犯してしまった過ちに深く後悔していた。
「眼鏡を弁償する代わりに、ヨザックが働いてるオカマバーの店で3ヶ月働くというので許してあげよう」
本来なら国外追放と言いたい所だけど、それ位で許す僕って本当優しいよね。
あっ、勿論その給料は僕と渋谷の遊ぶ資金として使わせてもらうから。
「オカマバーで働くというのはちょっと・・・・それに俺は陛下の護衛もありますし・・・・」
「渋谷の護衛ならウェラー卿の変わりにヨザックに頼べばいいよ。それとも働くのが嫌なら、フォン・カーベルニコフ卿に破損した物を修復する魔導装置を作ってもらうよう依頼するから、完成までの間『もにたあ』としてウェラー卿の身を捧げるでもいいけど?」
「謹んでオカマバーで3ヶ月働かせていただきます」
こうして、コンラッドはオカマバーで3ヶ月働く事が決定された。
ちなみにオカマバーという事で、コンラッド自信も女装して働いてたという。
女装した時に来ていた服装は、以前眞魔国で開催された究極女装美男子選考競技会で着ていた花嫁衣裳だったらしい・・・・。
・・・3ヵ月後・・・
やっとオカマバーでの仕事期間が終わった。
ユーリに会えないだけでも苦痛だと言うのに、周りは皆オカマだらけで本当に地獄の様な日々だった・・・・。
本当に長い3ヶ月だったな。
地獄の日々が終わったとシミジミ幸せに浸っているコンラッドに、グウェンダルが話し掛けて来た。
「コンラート、戻っていたなら丁度良い。何処か遊びに行ってしまった魔王陛下を一緒に探してくれ。まだ目を通してもらいたい書類がたくさんあるというのに」
グウェンダルはぶつぶつと愚痴を言って、眉間に皺を寄せて見るからに機嫌が悪そうだった。
そんなグウェンダルでさえも、今のコンラッドにとっては非常に懐かしく感じさせた。
(あぁ、グウェンの眉間の皺も本当に久しぶりだな。今はこの眉間の皺でさえ愛着を感じるな)
コンラッドは懐かしく感じるあまりに、ついグウェンダルの眉間に両手人差し指ずつ置いて皺を左右に伸ばしてしまった。
その行為が、グウェンダルの不機嫌さをさらに拍車掛けてしまったとも知らずに・・・・。
「・・・・コンラート(怒)貴様もそんな遊んでる暇があるなら、今直ぐ遠い異国の地にでも視察に行って来い!!」
コンラッドはユーリとゆっくり再会する暇も無く、遠い地に視察に行く羽目となってしまった。
視察が終えて今度こそユーリと再会だと急いで戻ったコンラッドだが、肝心のユーリは地球へと帰還中だったらしい・・・・。
END
結局、ユーリとの進展は無いコンラッドでした(笑)
難関な課題を1つ行動に移せたコンラッドの男前度が上がったのかどうか微妙です。
ムラケン眼鏡壊された後は?っと思われた方、スペアの眼鏡を実は持っていたという事で・・・・(逃)