恋人同士っぽく無い海デート
「ジュリア、その・・・何だ。今度の休みはお前と合わせられそうだから、久々に2人きりで何処かに出掛けないか?」
「あら、アーダルベルトからデートに誘ってくれるなんて珍しい事もあるのね」
ジュリアはクスクスと笑い出す。
「おっ、俺から誘うのはそんなに可笑しいか?///」
「うぅん、そうじゃないの。ただ嬉しくって」
あなたからのデートのお誘い、嬉しく無い筈が無いでしょう?
「それで、どうなんだ?」
「勿論、良いに決まってるじゃない。アーダルベルトと2人で出掛けるのも本当に久しぶりね」
「そうだな。ジュリアは何処か行きたい場所はあるか?」
「そうね、せっかくの夏なんだから海はどうかしら?」
「おっ、良いな。最近、暑いから丁度良いぜ」
「なら決まりね。ふふっ、楽しみだわ」
そして、デート当日・・・・
「着いたぞ、ジュリア」
アーダルベルトは馬から降りて近くの木に繋ぎ止め、ジュリアが乗ってる馬を引いた。
ジュリアも馬から降りて、アーダルベルトがジュリアの馬も繋ぎ止めてくれた。
「ここが海。本当に潮の香りが凄いのね」
「まぁ、海水は全部潮水だからな。潮の香りがして当然っちゃあ当然だな」
「早く海の近くに行きましょう、アーダルベルト。時間が勿体ないわ」
「そうだな。さぁ、海を満喫するか」
アーダルベルトがジュリアの手を引いて、優しく海の方へと誘導する。
ある程度、波打ち側の近くまで来ると、ジュリアはアーダルベルトの手を自らそっと外す。
ジュリアは自分の耳を頼りに、『ザザーン』と押し寄せては引いてく波の音に誘われる様に歩いて行く。
「おい、ジュリア?」
ジュリアは海の水が足に軽く浸す位の所まで来ると、ぴたりと歩むのを止めた。
そして『すぅ』っと思い切り空気を吸い込んで・・・・
「お父様の分からず屋ー!!」
・・・・と叫んだ。
アーダルベルトはガクリと脱力した。
せっかくの2人きりのデートだというのに、ムードの欠片も感じられない。
「ジュリア、何いきなり叫んでるんだ?」
「何って、海に向かって胸の内に溜め込んでる事を思い切り吐き出すと、すっきりするって聞いたから実践してみたのよ」
「確かにすっきりするとは俺も思うが、そんな事誰に聞いた?」
「ミレーユよ」
どうせならデート以外の時に実践してくれ、ジュリア。
これじゃあ恋人同士のデート風景というより、どこぞの青春ストーリみたいだと、アーダルベルトは思った。
「ふふっ、ミレーユが言ったとおりね。思い切り海に向かって叫んだら、すっきりしたわ」
私の目には見えなくても、感じられる物はたくさんある。
海はとてつもなく壮大なのだと、私の体全体で感じられる。
私のちっぽけな悩み事なんか、全て飲み込んでしまいそうね。
アーダルベルトがジュリアの隣に来て話しかけた。
「それにしても、ジュリアが父上の愚痴を言うなんて珍しいな」
「そうかしら?」
「あぁ、少なくとも俺は今初めて聞いたぜ。何があったとか野暮な事は聞か無ぇけどな、自分1人で抱え込み過ぎて思い悩むのだけは止めてくれ」
「アーダルベルト・・・・」
アーダルベルトは真剣な表情で、ジュリアに語りかけた。
その直後、ふっと笑い出しその場の雰囲気を和ませる。
「まぁ、ジュリアはどう考えても思い悩むって柄じゃ無ぇけどな」
「何よそれ。私自信、何の悩みも無く日々過ごしてるって言いたい訳?」
「その通りなんじゃ無いのか?ジュリア軍曹殿?」
アーダルベルトは悪戯っぽい笑みをしながら、ジュリアに言った。
ジュリアも悪戯っぽい笑みをして、アーダルベルトに向き直って言った。
「ふーん、アーダルベルトは私に対してそんな意地悪な事を言うのね?そんな意地悪を言う輩には・・・・こうよ!」
ジュリアはそう言って海水を手で掬い取り、アーダルベルトに『パシャン』っと引っ掛けた。
「うぉっ!?冷てぇ!」
「ふふっ、自業自得よ」
クスクスと笑うジュリアは、全く悪びれた様子も無かった。
海水を引っ掛けられたアーダルベルトも海水を手に救い、仕返しに『パシャン』っとジュリアに引っ掛ける。
「きゃっ!やったわね〜。それっ、お返しよ」
「ほぅら、こっちもお返しだ」
2人は服がびしょびしょに濡れる事なんか気にせず、バシャバシャと互いに海水を掛け合った。
その姿は水を掛け合って遊んでいる、子供同士の様だった。
満足する程じゃれ合った2人は海から上がり、砂浜の上に腰掛けて休憩する事にした。
2人並んでしばらく、ぼんやりと海を眺めていた。
「今が夏で良かったわね。気温が高いおかげで服がもう乾いてきたわ」
「そうだな、2人でぐっしょり濡れた服で帰った所を父上に見つかったら卒倒されるかもな」
「うふふっ、そうね」
そう言ってから、ジュリアはアーダルベルトの肩に頭を寄り掛けて体を預けた。
「どうした?疲れたのか?」
「・・・・・・」
ジュリアはアーダルベルトの質問には応えず、じっと彼の顔を見上げる。
「ジュリア?」
ジュリアはゆっくりと口を開いて、話し始めた。
「・・・・お父様との事、決着が着いたらあなたに話すわ」
「あぁ、分かった。だがさっき言った通り、思い悩むのだけは本当に止めてくれ。お前は少し自分に抱え込み過ぎる。思い悩む前に俺でも誰でもいい、信用の置ける奴に相談でも何でもしてくれ」
「えぇ、約束するわ」
(本当はそこまで心配を掛けられるのはあまり良い気分じゃないんだけど、アーダルベルトに掛けれる心配は悪くないわね)
それでも自分を心配してくる目の前の婚約者を、あまり心配は掛けさせ無い様になくてはと思ったジュリアだった。
「さぁ、あまり遅くならない内にそろそろ帰りましょうか?」
そう言ってジュリアはすっと立ち上がり、アーダルベルトもそれに釣られて立ち上がった。
「そうだな、そろそろ帰るか」
「今度、海に来た時はアーダルベルトが泳ぎ方も教えてね」
「それはいいが、盲目でも泳げる様になるのか?」
「気合で何とかするわ」
ジュリアの台詞に呆れた様にアーダルベルトは言った。
「気合で何とかなる訳無ぇだろう。泳げる泳げないはまた今度にして、ほら行くぞ?」
アーダルベルトはすっとジュリアに手を差し出し、その手をジュリアが取った。
楽しい一時を終えた2人は、海を後にした。
数日後、ミレーユがジュリアの元へと現れた。
「数日ぶりね、ジュリア」
「ミレーユ、よく来てくれたわ」
「義父様はあれからどう?」
「それが全く、お父様は自分の意見を変えてくれないのよ。私はコンラッドと結婚する気は無いって言うのに・・・・」
コンラッドの事は嫌いじゃ無いけど、そんな風に見れる訳無いわ。
大体、私には『アーダルベルト』という心に決めた相手がいるって言うのに。
「そう、相変わらずアーダルベルトとジュリアの婚約を破棄させて、コンラートと結婚させようと考えてるのね。その事はアーダルベルトに言ったの?」
「まだ言って無いわ。何としてでもお父様を説得して、決着が着いたらアーダルベルトに話すつもりよ」
黙ってるというのも心苦しいけど、今は余計な事を言って彼を不安にさせたく無いわ。
「ジュリアが決めた事だったら、それで良いと思うわ。それにしても、義父様も厄介な事を考えつくものね。ジュリアとコンラートの結婚の件は、ツェリ様まで乗り気だから余計に厄介なのよね」
「いくらお父様とツェリ様の望まれてる事でも、こればっかりは譲れないわ。私はアーダルベルト以外の男の人と、結婚する気は無いんだから!」
ミレーユはそれを聞いて、安心した様にクスっと笑い出す。
「それを聞いて安心したわ。最終的にはジュリアの決めた事を口出す権利なんか誰にも無いだろうけど、もしあんたがあっさりとコンラートとの結婚を承諾していたのなら、私があんたの顔を引っ叩いていたかもね」
「あら、心外ね。私が自分で決めた事をあっさり変えるとでも思ってるの?」
それに、先日アーダルベルトと2人で海に出掛けた時確信したもの。
『私の旦那になる人はこの人意外いない!』ってね。
「ジュリアも結構頑固者だからね〜、あっさり自分で決めた事を変えるなんて流石にありえないわね」
「失礼しちゃうわ。『頑固者』じゃ無く、『性根が真っ直ぐしてる』って言ってほしいわね」
意味的にはどっちもあまり変わらない気もするが、ミレーユはあえて突っ込むのを止めといた。
「とにかく、義父様がいくら反対しようと私はアーダルベルトと婚約は賛成するわ」
「ありがとう、ミレーユ」
前の海デートは、この事を胸の内に溜め込んだおかげでちっとも恋人らしい雰囲気にはなら無かったわね。
あれはあれで楽しかったけどね。
次に海に行く機会があったら、もう少し恋人同士の雰囲気で楽しみたいと、ジュリアは思っていた・・・・。
END