桜に託すこの誓い
寒い冬の季節に終わりを告げ、暖かい春の日差し心地よい季節となった。
梅の花が散って、今では桜の花が満開に咲いている。
その舞い散る桜の花びらを眺め誰もが酔い痴れていた。
ここ眞魔国でも、赤い魔女『アニシナ』の発明のおかげで桜の花は咲いていたのだった。
毎朝恒例のロードワークの途中、魔王陛下とその護衛が休憩も兼ねて桜の花に見入っていた。
「もう桜の花も満開に咲いてすっかり春ですね、陛下」
「そうだな、ウェラー卿」
陛下と呼ばれたユーリは、少し不貞腐れながら返事をした。
「すいませんユーリ、謝りますからいつもの様に『コンラッド』と呼んでください」
「だったらコンラッドも『陛下』って呼ぶ癖を直せよな。名付け親なんだから」
「はい、善処します」
コンラッドの反省した様子に、ユーリは機嫌を直していった。
「それにしても、本当に綺麗。眞魔国でも桜が見れるなんて不思議な感じだよな」
「俺が地球にいた頃、目にした桜を気に入って一枝持って帰って来たんですよ。そしてあなたがここに来た時、少しでも馴染みやすい様にアニシナに協力してもらって、
一枝だった桜をここまで育てました」
「へー・・・・っておい、まさかこの桜の木を育てる為に、あんたの兄弟と恩師を・・・・」
「はい、グウェンダルとヴォルフラムとギュンターは快くアニシナに協力してくれましたよ」
そう言ったコンラッドの顔は、実に胡散臭い笑顔だった。
その胡散臭い笑顔を見たユーリは心の中でこう思った。
(絶対に嘘だ!)・・・・と。
しかし問い詰めるのも恐い気がするから、この件は深く考えないでおこうと思ったユーリだった。
「まぁ、コンラッド達のおかげでこの桜が咲いた事は分かったよ。俺の為にありがとな、凄く嬉しいよ」
「どういたしまして、俺も眞魔国でユーリと桜が見れて嬉しいです」
満開に咲いた桜の花は、直ぐに散り始めてしまう。
ふと風が吹くとここの桜の花も少しずつ散っていき、綺麗な桜吹雪が宙を舞う。
その光景を見たユーリは、ある事を思い出しながら静かに眺めていた。
「・・・・桜の花びらが今みたいに風に乗って舞い散るのってさ『桜吹雪』って言うんだけど、コンラッド知ってた?」
「えぇ、知っています。満開に咲いた桜も綺麗ですけど、散っていく時もまた格別に綺麗ですね」
「うん、本当に『吹雪』みたいだよね・・・・・」
この時、コンラッドはユーリの様子がわずかにおかしくなっていた事に気づいた。
「どうしたんですか?ユーリ、何処か具合でも・・・・」
コンラッドは心配そうにユーリの顔を覗き込んだ。
「な、何でもないよ」
「本当に?」
「本当だよ!」
「・・・・・・・」
コンラッドは何も言わずに、じーっとユーリの顔を見る。
銀の星を散らした薄茶の瞳に見つめられると全て見透かされてる様な気がして、ユーリは思っていた事を白状しなくてはいけない気分になってくる。
「本当に何でもないから、ただ・・・・」
言ってもいいのかな?こんな事。
いい加減にしつこいってコンラッドに嫌われない?
もう、とっくの前に済んだ事なんだけどな・・・・。
「ただ・・・・今でも思い出すんだ。雪とか吹雪とかを見ると、あんたが大シマロンにいて俺と敵対していた時の事を・・・・」
今でも、思い出すと胸が痛くなる。
コンラッドが俺に剣を向けてきた事とか、『帰って来い』と手を差し伸べてもその手を振り払われてしまった事とか・・・・・。
いい加減に自分でもこんな自分に呆れてくる。
(俺って、何て女々しいんだろうな・・・)
ユーリはそう思っていた。
こうしてコンラッドが傍にいてくれる、それだけで嬉しい筈なのにな。
「ユーリ・・・・」
「・・・・なーんて、何かシンミリしちゃったな?ごめんなコンラッド、今のは忘れて」
そう言ってユーリは何時もの笑顔を作る。
これ以上、大好きなコンラッドを困らせない様に。
コンラッドはユーリから桜に目を向け直して言った。
「俺はユーリとこの桜の木に誓います。もう2度と、あなたの傍を決して離れない。また来年も、この桜の花をユーリと共に見る事を」
それはコンラッドにとって永遠の誓い。
決してその誓いが破られる事が無い様、真剣な眼差しでユーリに告げた。
「うん、絶対の約束な。来年だけじゃなく、これから先もずっと一緒に桜の花を見るんだからな」
俺だって、2度とコンラッドと離れたくないんだからさ。
「はい、必ず」
この誓いがこれから先に守られていたかどうかは、そこに建っている桜の木のみぞ知る。
END
いい加減次男帰って来い!っと願いながら執筆した小説となりました。
うーん、何て言うかゆーちゃんが女々しくなってしまいましたね(汗)
もっと男らしいゆーちゃんを書きたいのに・・・・。
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