再会は波乱の幕開けと共に・・・
また、あの渋谷という名の少年に会いたい。
その少年と出会ってから早数日、俺はあの子を探している。
この町で草野球をしていたくらいだから、そう遠くには住んでいないだろうと思う。
俺は親友であるヨザックを脅し・・・・いや、お願いして町中であの子の姿を探すが、未だに見つからない。
あの子はいま何処にいるんだろうか?
そしてもっとあの子の事が知りたい。
「コンラッド、今日の放課後に私の親戚の子を紹介するから予定を空けといてね」
唐突にジュリアの一言。
ジュリアの決定に当然コンラッドに拒否権は無い。
本来ならジュリアの誘いを断り、学校の授業すらサボって例の少年を今直ぐ探しに行きたい。
そう願っても結局は誘いを断れず、泣く泣く承諾するしかないのだった。
「分かりました、放課後は予定を空けときますジュリア。しかし、随分と突然なんですね」
「つい先日の事なんだけど、もの凄く嫌な予感がしたのよ。例えるなら親戚の子に悪い虫が着いた様な感じかしら?本人は自分の容姿に無自覚なんだけど、とても可愛い子だから心配だわ」
ジュリアがいくら可愛いと言っても、あの渋谷という子の方がきっと可愛いに決まっている。
ここは適当に話しを合わせて、さっさと事を済ませてしまおう。
「そうですね、善は急げとも言いますし。紹介さえしてくれれば、ジュリアの言うとおり影ながらその子を守ります」
「珍しく良い事を言うわね。それじゃあ今日必ず紹介するからよろしくお願いね。前にも言ったと思うけど、絶対その子に手を出すんじゃないわよ?」
ジュリアは睨みながら『いいわね?』っとコンラッドに念を押す。
その姿が恐ろしいせいか、コンラッドは無言でこくこくと首を縦に振るのみだった。
・・・放課後・・・
「アーダルベルト、悪いけど今日は用事があるから私は先に帰るわ」
ジュリアの言葉に、アーダルベルト番長は呆れた様に言う。
「別に一緒に帰る約束して無ぇだろ。毎回ジュリアが勝手に俺の後を付いて来るだけだろうが」
そうなのだ、最近この2人はよく一緒にいる姿を見掛ける様になっていた。
ジュリアはアーダルベルト番長に非常に興味があるらしく、放課後など事ある毎に面白そうとか言って番長につるんでいたのだった。
「男だったら細かい事を一々気にしないの。とにかく私は帰るから、じゃあねアーダルベルト」
「おぅ、じゃあなジュリア」
ジュリアは帰り支度をさっさと済ませてアーダルベルト番長のクラスから出て行った。
同じクラスでも無いのに何故か番長のクラスによくいるジュリア。
その光景がもはや当たり前の様になってしまってるので、クラスメイト達は誰も突っ込まない。
「今日は振られちゃったみたいですね?アーダルベルト番長」
「うるせぇよ、キーナン」
「あ〜あ、最近は御2人に気をきかせて2人きりで帰らせてあげてるのに勿体無い」
「俺とジュリアは別に付き合ってる訳じゃ無ぇよ。最近よく一緒にいるせいは、あいつが興味本位で俺の後をくっ付いて来るだけだ」
「おやっ、今日は彼女と一緒では無いのですか?アーダルベルト番長」
番長とキーナンが話してる最中、もう1人の番長の手下であるマキシーンもやって来た。
マキシーンの突然の言葉に、番長は座っていた席から『ガタン!』と落ちた。
何度言っても分からない、と言うより毎度からかってくる手下2人に愕然としながら番長は起き上がる。
「・・・・だから、俺とジュリアはそんなんじゃ無ぇって前から言ってるだろうが!///いい加減にしろよお前等・・・・(怒)」
手下達に滅多な事では怒らないアーダルベルト番長でも、度が過ぎると流石に怒る。
仁王立ちする番長の背後には、恥ずかしさと怒りの混じった赤い炎が見えた。
((ば・・・番長が怒ってらっしゃる(汗)))
流石にやばいと思ったキーナンとマキシーンは番長に『『すいませんでした!』』と謝罪した。
「たくっ、お前等ときたら・・・まぁいい。俺も今日はもう帰る。じゃあな2人共」
そう言ってアーダルベルト番長も帰ってしまった。
「なぁ、キーナン。番長は本当の所、ジュリアさんの事をどう思ってるんだろうな?」
「さぁな、とりあえずジュリアさんの事を嫌ってるって事はまず無いみたいだし、多少の好意はあるんじゃ無いのか?どちらにせよ、御2人の事をからかうのは程々にしといた方が良さそうだな」
「そうだな。さて、アーダルベルト番長も帰られた事だし俺達も帰るとするか」
「今日はマキシーンのバイトは無いのか?」
「あぁ、今日は非番だ」
こうして、アーダルベルト番長の手下2人組みも帰った。
余談だが、マキシーンは家族の家計の負担を助ける為にバイトしていたのでした。
たくっ、あいつ等ときたら人を好き勝手にからかいやがって。
そりゃあ俺はジュリアが嫌いって訳じゃ無ぇけどな、だからと言って変な事言われるとジュリアの事を意識しちゃうだろが///
そんな事を黙々と考えながら町中を歩くアーダルベルト番長。
その時、背後から少年の声が聞えた。
「え〜、今日付き合ってくれないの?」
「だから俺達はそんなんじゃ無ぇって・・・・」
今の番長には『付き合って』とかの単語に過剰反応してしまう様だ。
番長本人に言った訳では無いのに、つい関係無い人を怒鳴ろうとしてしまった。
「・・・・はい?」
少年は怒鳴られかけた理由が分からず、キョトンと首を傾けた。
「あっ・・・・すまん、人違いだった///」
そういやあ、あいつ等とは別れたんだっけか?
俺とした事が、らしく無ぇな。
一方、いきなり番長に怒鳴られかけた少年は公衆電話で電話中だったらしく、電話口から別の少年の声が聞えてきた。
『お〜い渋谷、聞いてるかい?』
「あぁ、ごめん村田。でっ、今日は草野球の買出しに付き合え無いんだっけ?」
少年は電話での会話を再開した。
『そうそう、ごめんね今日は塾があるのをすっかり忘れてたんだよ』
「そっか、じゃあ仕方無いよな。大丈夫、買出しは俺1人で行くからさ」
『でも結構買う物があるから荷物が多くなりそうなんだろう?本当に1人で大丈夫かい?』
「大丈夫だよ。これでも野球とかトレーニングで鍛えてるんだからさ。村田の方こそ勉強頑張れよ?」
『うん、悪いね渋谷。じゃあまた今度ね』
「おぅ、じゃあな」
そう言って、少年は電話を受話器に掛けた。
電話を終了させて少年がふうと一息吐いた所を、番長が近寄って来てさっきの非礼を謝罪した。
「電話中にいきなり怒鳴ったりして悪かったな」
「あぁ、別にいいですよ。・・・・って、あれ?あんたと俺、どっかで会った事ある?」
「んっ、俺とお前がか?どっかで会ったけかな〜・・・・あっ!以前歩道橋から落ちかけてた坊主じゃないか」
「そうだ!あんたは確か以前俺を助けてくれた、アーダルマッチョ番長・・・」
「違う!俺の名は『アーダルベルト』だ」
「あはは、そうそうアーダルベルト番長。この前は危ない所をありがとうございました」
少年は番長にぺこりとお辞儀しながら、以前のお礼を言った。
「また鈍臭い事して怪我して無ぇか?坊主」
鈍臭いと言われて、少年はムッとした。
「失礼だなあんた。俺はそこまで鈍臭く無いぞ、多分。それに『坊主、坊主』って呼ぶけど、俺には渋谷有利原宿不利・・・・じゃ無くて渋谷有利という列記とした名があるんだ」
「そりゃあ悪かったな。じゃあ有利と呼んだ方がいいか?」
「あんたに『有利』と呼ばれると何か違和感があるな。いいよもう、好きに呼んでくれ」
「そうか、それじゃあ遠慮無く坊主と呼ばせてもらう。その方が俺もしっくりくるしな」
ユーリはもう諦めて、坊主と呼ばれても反論しない事にした。
「ところで、今日は前にあんたと一緒にいた人はいないんだ」
「あぁ、キーナンの事か。奴とはいつも一緒って訳じゃ無ぇよ。坊主の方こそ、何してんだ?」
「俺は草野球しているから必要な備品とかの買出し。今日は特売日だから、たくさん買い溜めしとかなきゃいけなくてさ」
「それで、坊主と一緒に買出し行く筈だった付れが、行けなくなったと電話で話してた訳か」
「うん、さっき電話していた相手は俺の友達で草野球のマネージャーやってる奴なんだ。今日、用事できちゃったみたいでさ」
荷物が多くなりそうで大変だけど、仕方無いよな。
「俺が荷物持ちで付いて行ってやろうか?」
「えっ?いいよ別に。流石に知り合って間もない人に頼み事するのも悪いしさ」
「特に用事がある訳じゃ無ぇから気にするな。まぁ、坊主が荷物持ちは俺じゃあ嫌だってんなら無理にとは言わ無ぇけどな」
ありがたい番長の申し出にユーリは『う〜ん』と考え込むが、せっかくなので番長の厚意に甘える事にした。
「それじゃあ、悪いけど付き合ってもらっても良いかな?」
「おぅ、いいぜ。それじゃあ早速、買出しに行くとするか」
番長とユーリは品物特売日している近くのスポーツ店へと、買い出しに行ったのだった。
一方ジュリアとコンラッドはと言うと、親戚の子の家の前にまで来ていた。
「ここが私の親戚の子の家よ」
「ここがそうですか。その親戚の子は今家の中に?」
「今日は草野球休みだって聞いたから、そろそろ帰って来る頃だとは思うんだけどまだいそうな気配は無いわね。何処かで寄り道でもしてるのかしら?」
その親戚の子も草野球をしているのか。
もしかしたら、前に『渋谷』という子に会った時、あの場にいたかもしれないな。
まぁ、あの時はあの子に心を奪われていたから、ジュリアの親戚の子がその場に居ても気にしなかっただろうな。
その時、背後から聞き覚えのある声が聞えてきた。
「あれっ?ジュリアさん。何でここに?」
「ジュリア、コンラッド。お前達一緒だったのか」
ジュリアとコンラッドは振り返って親戚の子の姿と、その隣にいる大荷物を抱えたアーダルベルト番長を見た。
そしてコンラッドは絶句してしまった。
何と渋谷という名の少年とジュリアの親戚の子は同一人物だったのだ。
そんなコンラッドを他所に、ジュリアは嬉しそうにユーリの元へと掛けて行った。
「ユーリちゃん、久しぶりね。ユーリちゃんこそ何でアーダルベルトと?2人は知り合いだったの?」
「知り合いって言っても、つい先日に知り合ったばかりだけどな」
「アーダルベルト番長さんは、歩道橋から落ちかけた俺を助けてくれたんだ」
「歩道橋から!?」
驚いて言葉を発したのはコンラッドだった。
コンラッドもユーリの元へと駆け寄って来て、ユーリに話し掛けた。
「大丈夫だったんですか!?お怪我などはしませんでしたか?」
あまりの心配性っぷりに、ユーリは少したじろいている。
「う・・・うん、番長さんに抱きとめてもらったから大丈夫」
コンラッドとジュリアは怪我はしなかったと聞いてほっとした。
「そうだったの、怪我とかしなくて良かったわ。私の親戚の子を助けてくれてありがとう、アーダルベルト」
「礼には及ば無ぇよ。俺は偶然その場にいただけで、坊主を助けたのは事のついでだ」
「そういえば、ユーリちゃんとアーダルベルトはどうして一緒にいるの?」
「俺は偶然坊主と居合わせて、ついでに買出しの荷物持ちをやってるだけだ。そういうジュリアとコンラッドは何やってるんだ?」
「私はちょっとした野暮用でコンラッドに付き合ってもらってるだけよ。ねっ?コンラッド」
「そうです、ジュリアと2人きりでいる事に深い意味は無いんです!」
コンラッドはユーリの前で必死に弁解していた。
「そうなんだ。あれっ?あんたは確か・・・・」
コンラッドの顔を見たユーリは、見覚えのある顔だなと思った。
コンラッドはジュリアが近くにいる事も忘れ、そっとユーリの手を取り語り掛けた。
「はい、先日お会いした者です。あなたの野球ボールを俺が受け止めたのがあなたとの運命の出会いです」
「そうだ!あの時はごめんなさい。あんたこそ怪我とかしなかった?」
「大丈夫です。あれ位どうって事無いですよ」
ホスト顔負けのにっこり笑顔で、コンラッドはユーリに微笑み掛ける。
「それより、あなたの名はユーリと言うんですね?あなたぴったりの素敵な名ですね。俺の名はコンラート、以後お見知りおきを」
「えっと、コンラッ・・・コンラートさん?」
「あぁ、言い難かったらコンラッドで構いませんよ。実際、親しい知人は俺の事をそう呼びますし。俺もユーリとお呼びしてもよろしいですか?」
コンラッドはちゃっかりとユーリと親しくなろうとしていた。
「勿論いいよ。俺の方もコンラッドって呼ばせてもらうな。よろしく」
ユーリもにっこりと可愛い笑顔を振りまいて、コンラッドに手を差し出した。
「こちらこそよろしくお願いします、ユーリ」
コンラッドはユーリの手を取り、至福の時に包まれていた。
その光景を一部始終ばっちりと見ていたジュリアは、にっこりと微笑んでコンラッドに話し掛けた。
「コンラッド、私の言った事は勿論覚えてるわよね?(にーっこり)」
ジュリアの黒いオーラに当てられたコンラッドは、名残惜しくも握っていたユーリの手を離し、ジュリアに向き直って首をこくこくと縦に振った。
「そう、それなら別にいいのよ。さぁ、私達の用事も終わったしさっさと帰るわよコンラッド。じゃあねユーリちゃん、悪い虫にはくれぐれも気をつけるのよ?」
「えっ?えっと、はい」
ユーリはジュリアの言葉の意味は分からなかったが、とりあえず返事はしといた。
「それではユーリ、また後程」
ユーリとの別れを惜しむコンラッドを、ずるずると引っ張っていきながらジュリアはこの場を後にした。
ジュリアさん、一体何だったんだろう?と思いながら、ユーリはその光景を見守っていた。
「坊主、荷物はここで良いのか?良いんだったら俺もそろそろ行くが」
「うん、ここでいいよ。ありがとう、アーダルベルト番長さん」
アーダルベルト番長はふっと笑いながらユーリに言った。
「俺は自分で『番長』と名乗ってる訳じゃ無ぇよ。だから、ただのアーダルベルトでいい。じゃあな坊主」
「うっ・・・うん、またねアーダルベルト」
アーダルベルト番長も荷物を置いて、ユーリの元を去って行った。
それぞれの再会を果たした4人・・・・。
これからどんな運命が待ち受けてるのか誰にも分からない。
とりあえず、コンラッドにはユーリに手を出さない様に、改めて釘を刺しといたジュリアだった。
しかし、それで引き下がるコンラッドだったら誰も苦労はしないのであった。
END
久々の番長シリーズ更新です。
とりあえず、再会までの経緯はこれで良いのかなぁ?と思いながら書き上げました。(遠い目)
いつかはアーダルベルト番長の戦闘シーンは書きたいとは思ってますが、しばらくは番外編っぽいのが続きそうな予感です( ̄▽ ̄;)
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