先の長い恋愛模様も1歩前進?
「コンラッド、今日はどうしても外せない用事があるから私はユーリちゃんの所に行けそうに無いの。悪いけど、コンラッドだけで行ってもらっても良いかしら?」
ジュリアから唐突に告げられた言葉。
いきなり言われた事に、コンラッドは聞き間違いでないかと唖然とした。
何!?今日はユーリの元へ俺だけで行って良いのか?!(←普段からジュリアの目を盗んで行ってるくせに・・・)
「あの、ジュリア。さっき言った事をもう1度言ってくれないか?」
「今日は用事があるから、コンラッドだけでユーリちゃんの所へ行ってほしいと言ったのよ。もし無理だったら良いわ。アーダルベルトかヨザックにでもお願いしてみるから」
コンラッドの元から去ろうとするジュリアの肩をコンラッドはガシッと掴み、満面の笑みでこう言った。
「勿論、喜んで俺1人で行かせていただきます!」
コンラッドがそう応えてくれてジュリアもぱあっと笑顔になる。
「そう、良かったわ。あなたは拳闘の腕は全然駄目駄目だけど、剣道の腕なら信用出来るからこれで安心ねvv」
「はい、必ずユーリを俺1人で安全に護衛するので、ジュリアは安心して予定の方を専念してください」
「えぇ、ユーリちゃんをお願いね?コンラッド」
「大船に乗ったつもりでお任せください」
コンラッドは自信満々に言った。
「勿論、今回はコンラッドにユーリちゃんを任せるわ。あなたが決して送り狼にならない事を信じてるわよ?(にっこり)」
にっこりと微笑むジュリアの表情に、若干不穏な空気が漂った。
これは決してユーリに手を出すなという脅しでもあった。
「は・・・はい・・・(汗)」
不穏な空気にあたったコンラッドは乾いた笑いしか出せなかったと言う。
しかしながらも、ユーリの元へ行った時に至上難関の強者の邪魔が入らないと言うのは実に嬉しい物である。
放課後の剣道部の部活に出てる時も、不自然なくらいニヤついているので部員達からは不気味がられていた。
「副部長、今の部長はいつもより別の意味で恐いです・・・」
「気持ちは分かるけど、今はそっとしといた方が良いみたいっすね。部長の事はほっといて俺達は部活に励もうぜ」
今のコンラッドは、普段ならヨザックが怒らす様な事をしたとしても笑って許してくれそうな雰囲気だった。
怒らすとあの世に送り兼ねないあの心の狭い男が、愛しい人の事が絡んだ時は随分と心が広くなる様だ。
それはコンラッドにとって、大海原の様な広い心を持つと言う実に貴重な時である。
そんな彼を今は静かに見守ってるのが吉と言うものだ。
長年の付き合いの賜物か、ヨザックにとってはそれを十分に理解していたのだった。
本日の部活は、部長という立場からの職権乱用で早々に部活は終わりを迎えたのだった。
コンラッドは今や帰宅準備をしっかりと終え、ユーリの所に行く準備はバッチリな状態であった。
「はぁ?今日はコンラッドだけでジュリア嬢のとこの坊ちゃんの護衛に行くんっすか?」
「あぁ、ジュリアはどうしても外せない予定があるとかで一緒に行けないらしい」
どうりで不気味なくらい機嫌が良い訳だ。
予定があるとは言えよくもまぁ、あのジュリアが許可をしたものだとヨザックは不思議に思った。
拳闘の腕はジュリアに到底敵わないものの、剣道なら今年の全国大会優勝者有力候補者に上がるくらいの腕前だ。
護衛に関しては文句付けようのない適任者だろう。
しかしコンラッドは、ジュリアが大事にして止まないユーリにぶっちゃけホの字である。
その事に感づいてるジュリアがヨザック同行とかなら兎も角、コンラッドだけで護衛に行く許可を出すとは・・・・。
よっぽど念入りにジュリアから釘を刺されたに違いない。
ヨザックはそう思っていた。
まぁ、ジュリアの目を盗んでコンラッドだけでユーリに会いに行くというのは何回かあったのだが。
会いに行っても、せっかく2人きりで過ごせる時間をユーリの友人である村田健の邪魔があったのだった。
事前にジュリアと村田が裏で手を組んでいた事にコンラッドは知らないのであった。
「そういう事だからヨザック、くれぐれも俺とユーリの邪魔をするなよ?」
「どうしよっかな〜?俺もこの後暇だし、久々に坊ちゃんにも会いたい・・・・」
そう言いかけたヨザックの喉元に、コンラッドはピタリと竹刀を当てた。
それは『邪魔したらどうなるか分かってるよな?』という、無言の脅しであった。
「や・・・やだな〜、冗談っすよ。決して2人の邪魔はしませんって(滝汗)」
「分かってるなら良い。俺はユーリの元へ行くから先に上がらせてもらう」
ユーリ、今直ぐ俺があなたの元へと参ります。
今日こそは誰の邪魔が入らず2人きりで甘い一時が過ごせる事を祈りながら、いざっ!
こうしてコンラッドは柄にも無くるんるん気分で浮き足を立てながら、今頃は草野球をしているだろうユーリとその他大勢がいるグラウンドへと向かったのでした。
コンラッドはグラウンドへと到着するなり、真っ先にユーリを探した。
ユーリはと言うと、未だにチームメイト達と草野球に励んでいた。
そんなユーリの姿をコンラッドは少し離れた場所から見守っていた。
あぁ・・・ユーリはいつもの可愛らしい笑顔も好きだけど、一生懸命にその他大勢の輩に指導しながら野球に励む姿も素敵です・・・。
コンラッドにとってはユーリ以外の草野球のチームメイト達は、その他大勢で片付けられていた。
と言うより、最初からユーリの姿しか見ていなかった。
ユーリとの逢瀬する時の第2のお邪魔虫、村田健は幸いにも今日は不在の様だ。
こちらを眺めてるコンラッドの姿にユーリは気づいた。
「あっ、コンラッドだ。おーい」
ユーリは無邪気にコンラッドへと手を振った。
その笑顔は、外面だけは良く腹の内では邪な事ばかり考えてるどっかの誰かさんの笑顔とはえらい違いだ。
この場にヨザックがいたらそう突っ込まれそうだ。(←面と向かってでは無く、心の中だけで)
コンラッドもユーリに手を振り返した。
ユーリはチームメイト達に休憩を告げ、コンラッドの元へと駆け寄って来た。
「コンラッド、来てたんだ。今日はあんたの方の部活は終わったの?」
「はい、今日は普段頑張ってくれてる部員達を気遣って少し早く部活を切り上げたんですよ」
「そうなんだ、コンラッドは優しくて部員の皆の事を考えられる、良い部長さんだな」
「そんな事無ありませんよ。ユーリこそ野球初心者の同年代の子達に丁寧に分かりやすく野球の事を指導して、とても良く出来た監督ですね。あなたに優しく教えてもらってる人達が羨ましいな」
「何言ってんだよ。俺は全然駄目なへなちょこで、皆よく迷惑掛けてるしさ。何でも卒なくこなすあんたの方が羨ましいよ」
コンラッドはいかにも狙った様に哀愁を漂わせながら語り出した。
「俺も元々野球に興味あったんですが、幼い頃から父に剣道を教わってた身なので野球をする機会なんてほとんど無かったんですよ。剣道が嫌って訳では無いんですが、たまにはユーリと一緒に野球を楽しみたいなと思ったんです・・・」
「コンラッド、そうだったんだ・・・・。よしっ、あんたの望み俺が叶えてやるよ!」
ユーリはチームメイト達の方へと戻り、今日の草野球は用事が出来たから今日はもう切り上げる様にと報告した。
皆に申し訳無さそうに謝ってたユーリだが、チームメイトの皆は快く気にするなと言って切り上げてくれた。
支度をしてチームメイト達は次々と帰宅していき、今グラウンドに残ってるのはユーリとコンラッドのみとなった。
コンラッドはユーリの行動の意味が分からなかった。
「あの、ユーリ?今日は用事があったのですか?だったら今からあなたの家まで送りますよ」
「そうじゃなくて、あんた野球したいんだろう?」
「???・・・はい、出来たらユーリと楽しくやりたいとは思いますが・・・」
「だったらやろうぜ。今から俺と」
ユーリはにかっと笑って、コンラッドに向けてグローブを放った。
それをコンラッドはキャッチした。
「コンラッドは野球をあまりやった事無いみたいだから、いきなり皆の中に混ざってするのは無理だろ?だから、俺と2人でキャッチボールから練習な」
「あなたの貴重な草野球をする時間を打ち切ってまで・・・良いんですか?」
「たまには良いの。あんたとは元々野球好き仲間だけど、一緒に野球もしてくれる仲間になってくれたらもっと嬉しいからな。あんたも皆と混ぜれるくらいに出来る様になったら、いつかは皆で公式試合とかしようぜ?」
「ユーリ・・・・はい、ありがとうございます。いつかは俺とユーリと他も混ぜて野球の試合やりましょう!」
「あぁ、男の約束な」
その日は珍しく誰の邪魔も入らずユーリとの2人きりの時間を過ごせたコンラッドであった。
キャッチボールという事もあってあまりロマンチックとは言い難いが、それでもコンラッドにとって幸福な時間であった事には変わり無い。
2人の距離がほんの少しだけ短くなったと感じた瞬間でもあったのだった。
END
ウチではへたれのいじめられキャラのコンラッドも、たまには良い思いを味あわせようと思いながら執筆してみました。
しかーし、これから先全部上手く行かせる気は全く無いのです!
これからもジュリア姉御の邪魔は問答無用で入ります。
しかし、今回の(←も?)コンラッドは本当に白々しいなと執筆した張本人が思いました(笑)
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