他とは違うValentine's Dayの贈り物
ユーリ、今日は『Valentine's Day』ですよ?お忘れですか?
俺へのチョコレートは無いんですか?
本来なら魔王陛下であるあなたに、臣下である俺が贈り物を欲しがるのは不敬に値すると思いますが・・・・
恋人としてならあなたからのチョコレートを欲しがっても良いですよね?
しかし、ユーリから貰える気配は全く無い気がするのは俺の気のせいでしょうか?
この男、ウェラー卿コンラートは今日この日程憂鬱な気分になった事は無いだろう。
その理由は恋人同士なら忘れるはずも無い、年に1度のValentine's Dayというイベントが本日なのである。
本日のコンラッドはユーリから渡されるであろうチョコレートを密かに期待していた。
どれくらい期待していたかと言うと、2月14日より遥か前から貰う準備万端でお礼の愛の台詞まで考え済みだった。
14日へと日付が変わった時点で、ユーリが頬を赤く染め恥ずかしがりながらチョコレートを自分に渡しに来てくれる。
そこまで妄想を膨らませていたくらい期待していたのだった。
しかし、現実はそこまで甘くなかった。
実際は14日に日付が変わってもユーリはコンラッドの部屋へ来る気配は無く、朝まで待っていても来なかったのだ。
朝は寝ているユーリを起こす事から始まり、お決まりのロードワーク、朝食、執務、休憩など入りつつ昼食へと時間は流れていったが未だに貰える気配は無かった。
「コンラッド、何かあったのか?朝から様子が変だけど、体調でも悪い?」
「何でもありませんよ、俺はこれから用があるので陛下の御前を失礼させていただきます」
コンラッドは言うだけ言って、さっさと部屋から退室してしまった。
「あっ、コンラッド!・・・・俺、コンラッドに何かしたかな?」
コンラッドは午後から兵士の剣術指南をしなくてはならないのだった。
愛しいユーリの側から離れて浮かない気分に鞭を打ちつつ剣術指南へと出向いたのでした。
「ヴォルフラム、グウェンダル、ギュンター、いつもありがとな。これ、いつもお世話になってるお礼なんだけど・・・・」
執務の休憩時間中、ユーリから3人に手渡された物は1つの袋。
袋口は可愛いリボンで結ばれていて、中にはチョコレートが入っていた。
「ふんっ///僕に贈り物とはやっと婚約者としての自覚が出てきたか」
と言いつつ内心ではめちゃくちゃ喜んでいるヴォルフラム。
「ありがとうございます陛下。陛下が私に贈り物を・・・・」
いつもの如く、汁を撒き散らしながら自分の世界へと突入するギュンター。
「すまない、ありがたく頂いておこう」
口では素っ気無くとも、いつもより眉間の皺が少なくなっているグウェンダル。
「それは『チョコレート』って言って地球にあるお菓子なんだけど、俺が作った物だからあまり期待しないでくれよな?味は・・・まぁ、とりあえず食べられる程度には出来てるつもりなんだけどさ」
「陛下が私の為に手作りを!?このフォンクライスト卿ギュンター、陛下から頂いたこの贈り物は一生の宝物とさせていただきます!」
いや、いや、せっかくなんだから食べてよ。
「何を言ってるギュンター、ユーリは僕の為にお菓子を作ったんだ!貴様のは僕のついでで作ったに決まっているだろう!」
あぁ、また2人の言い争いが始まりそう。
「2人共五月蝿いぞ!陛下が私達の為に作ってくれたで良いではないか」
その通り!よく言ったグウェンダル。
「とにかくこれは皆の為に作った物なんだからさ、喧嘩しないで仲良くしてよ。グウェンダル、ヨザックは今は任務中で国外?」
「いや、グリエなら先程任務先から戻って来たと報告を受けたが・・・・・・」
「なら、今は血盟城にいるよね?俺、ヨザックにもチョコ渡してくる」
「あっ、陛下!供の者を・・・」
「血盟城内なんだから平気だよ。すぐ戻って来るから皆はここで待ってて」
ユーリは執務室から飛び出して行ってしまった。
なっ、何だぁ?隊長ったらもっの凄く機嫌が悪そうじゃない。
剣術指南を兵士達にしていると思ったらめちゃくちゃ殺気立てて、兵士達を半殺しにしてるし。
何があったかは知らないけど、ここは係わり合いにならない方が良さそうだ。
と言う事で兵士の皆さん頑張ってね〜ん、グリ江はあなた達の無事を祈ってるわん。
逃げるが勝ちって事でさっさと上司の元へ任務の報告に行こうと、その場から退散したグリ江ちゃんだった。
あら?あそこにいるのは坊ちゃんじゃない。
また執務から逃げ出して来たのかしら?
「坊ちゃん、何やってるんすか?」
「あっ、ヨザック!会えて良かった。調度ヨザックに渡したい物があったんだ」
『はいっ、あげる』とユーリが渡した物は先程ヴォルフラム達に渡した物と同じだった。
「ありがとうございます。何すか?これは」
「それは『チョコレート』って言って、地球にあるお菓子なんだ。日本では今日『Valentine's Day』っと言う日で、チョコレートを好きな人とかいつもお世話になってる人に渡す日なんだよ」
「まぁ、グリ江ったら陛下に愛されてるのね嬉しいわvv」
「そっ、そういう意味であげたんじゃ無いから。それはいつもお世話になってますって意味の『義理チョコ』なんだからな!」
「どちらにしても坊ちゃんのお気持ちは嬉しいですよ。ありがとうございます」
「どういたしまして。ヨザックはこれからグウェンダルの所に行くんだろう?俺も執務に戻るからさ、一緒に行こうよ」
「えぇ、一緒に行きましょう」
2人仲良くグウェンダルの元へ戻ったユーリとヨザックでした。
時はさらに流れていって、本日の時刻は夕刻へとなりました。
上司に任務先の報告を終えたヨザックは、自宅に戻って寝るかと思惑しながら血盟城の廊下を歩いていた。
一方コンラッドはと言うと、本日の仕事で散々憂さ晴らしをしても未だに気分が晴れない状態で、ヨザックと同じく血盟城の廊下を歩いていた。
ふぅ、やっと剣術指南が終わったか。
それにしても最近の一兵卒は情けない。
少し扱いたくらいで使い物にならなくなるとは。
ここはギーゼラの元へ送って根性を叩き直してもらわないと先が思いやられるな。
などといささか物騒な事を考えていたら、偶然にもヨザックとばったりと廊下で遭遇した。
「ヨザ、戻っていたのか」
「たっ、隊長」
「調度良い、今から酒飲みに付き合え」
俺に拒否権は・・・・無いですよね(泣)
今の隊長には『さっさと帰って寝たい』っと断る方が恐ろしい。
『そんなに寝たいなら永遠の眠りにつかせてやろう』っと言われそうだ。
「良いっすよ。何処で飲みますか?」
「俺の部屋で飲ませてやるからさっさと来い」
随分偉そうだな、この男は。
当然の如く、ヨザックはコンラッドの部屋で酒を飲み始めたと同時に、本日の嘆きに付き合わされる事となってしまった。
「・・・・・で、隊長は何で坊ちゃんからそんなにお菓子を欲しがるんですか?」
「お前は人の話しを聞いて無かったのか!?今日は恋人同士なら忘れるはずも無い『Valentine's Day』と言うイベントの日だぞ。愛する者から愛する者へと『チョコレート』と言うお菓子を渡す、それなのに!未だにユーリから貰える気配が無いのは何故だ!?」
「単に坊ちゃん忘れてるだけじゃないっすか?」
「ユーリはそんな薄情な魔族では無い!」
・・・・っん?待てよ、確か坊ちゃんが俺に渡したお菓子も『ちょこれーと』とか言ってたっけな。
「隊長、その『ちょこれーと』ってお菓子はこれの事ですか?」
「それは・・・!何故それを貴様が持っている?」
「何故って坊ちゃんから頂きましたから・・・・・」
・・・・って隊長?!何でそんなに背後から黒いオーラを噴出してるんっすか?
もしかして、グリ江ったら言ってはいけない事を言っちゃったかしら?
「・・・・・ヨザ」
「隊長、俺は用事を思い出したんでここで失礼させていただきます。それではお邪魔しました〜」
ヨザックはコンラッドが行動を起こすより前に、この危険地帯からの脱出に成功した。
「ちっ、相変わらず逃げ足の速い奴め。まぁいい、次に会ったら覚悟しておけよ?ヨザ」
それにしても・・・・ユーリは何故ヨザックなんかにチョコを渡して、俺にはくれないのだろう?
夕食の時間を過ぎたにも関わらず、自室で寂しく1人酒を飲んでへたれるコンラッドでした。
時刻は日付の変わる少し前の深夜となった頃、思い掛けない人物がコンラッドの元へとやって来た。
トン、トン・・・・
「・・・・・誰だ?」
「コンラッド俺、ユーリだけど今起きてる?」
「ユーリ?」
コンラッドはユーリを部屋の中へと招いた。
「うわっ、酒くさい。ひょっとして1人で飲んでたの?」
「えぇ、最初はヨザックもいたんですか奴は用事があるとかで結構前に帰りました」
「そうなんだ・・・・なぁコンラッド、まだ機嫌悪い?」
「いいえ、そんな事はありませんよ。どうしてそんな事を聞くんですか?」
「だって朝から様子が変だったし、今日のコンラッドは何かちょっと冷たいし、俺が何か怒らせたような事でもしたのかな?って思って」
「ユーリは俺を怒らせる事なんてしてませんよ。ただ、どうしようもない理由で1人で臍曲げてただけです」
「臍曲げてたって、何があったかは知らないけどコンラッドも案外子供っぽいとこあるんだな」
コンラッドは、その原因がユーリがチョコくれなかったせいとは言えないのであった。
「そんな事より、俺に何か用でも?」
「うん、コンラッドに渡したい物があって来たんだけど」
「渡したい物?」
もしや、待ちに待った念願のユーリからのチョコレートか?
「はいっ、これなんだけど・・・・」
「これは・・・・」
ユーリからコンラッドに渡された物はチョコレート・・・・・では無く、小さい植木鉢にちょこんと咲いた青い花。
「俺が育てた『大地立つコンラート』なんだけど、バレンタインのチョコレート代わりに受け取ってもらえるかな?」
ユーリから手渡された物がチョコレートじゃない事に少し驚いて固まったコンラッドだが、直ぐに正気に戻って花を受け取った。
「勿論ですよ、とても嬉しいです。ユーリが1人で育てたんですか?」
「1人って言っても庭師さんから種を貰ったり、育て方を色々聞いたりしてたけどな」
コンラッドはユーリの台詞に涙が出そうな程嬉しそうだ。
「ありがとうございます、俺は本当に世界一の果報者ですよ」
「大げさだよコンラッド。本当はもう少し早く渡したかったのにコンラッドってば夕食の時間になっても現れないんだもんな」
「そうだったんですか、すいません」
実を言うと、ユーリは14日へと日付が変わった時点で渡しに来たいと思っていた。
しかし12日の夜、皆に渡すチョコレートを作ってその日はあまり眠れなかった為、13日の夜はつい朝まで爆睡してしまったのだった。
「最初はコンラッドにも普通にチョコを渡す気でいたんだけど皆と同じ物じゃ芸が無いし、かと言って俺に凝ったチョコレート菓子なんて作れっこないしな。だからコンラッドに縁のあるこの花を自分で育てて、バレンタインにはプレゼントしようって決めたんだ」
育てるには手間取ったけど、本当バレンタインに間に合って良かったよ。
「俺のは他の皆より特別なんですか?」
「そうだよ、他の皆には義理チョコでもコンラッドのは特別。チョコじゃなくてもチョコを作った時より心を込めて育てたつもりなんだからな」
「ありがとうユーリ、本当に嬉しいよ」
これから先は俺が花を大切に育てて、今よりさらに成長したらユーリに見せよう。
そして、この小さな植木鉢では足りなくなってしまったらユーリと共に裏庭の花壇へと移そう。
ロードワークの時とか散歩の時とかに一緒に見られる様に。
「ユーリ、来月のお返しは期待していてくださいね?3倍返しとは言わず、10倍も100倍も今日のお返しをしてあげたいです」
「そんな10倍とか100倍とかのお返しはいらないよ。でも・・・・そうだな、その日はコンラッドの時間が欲しいな。2人で一緒に過ごしたい」
「はい、来月の今頃は何が何でも休みを確保しときますね」
翌日、不気味なまでの上機嫌なウェラー卿コンラートの姿を目にする事となった血盟城の住人達でした。
END
こんなValentine's Dayの贈り物もありかなっと思うのはヨシでけでしょうか?
それにしても、ヨシの書くコンラッドは浮き沈みが激しいですな(マリモ並み?(笑))
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