偽者登場!?もう1人のジュリア
ある晴れた日の事だった。
俺、コンラート・ウェラーは、名付け子でありとても愛おしい存在である我等が魔王、ユーリの元へと向かう途中に出会ってしまった。
ユーリと相愛になる為の史上最強で最凶の難関、見た目だけなら胡散臭いと思えるほどの白く、髪の長い小柄な女性(中身は全くの正反対)。
その名は眞魔国3大魔女の1人、白のジュリア。
ちなみに、見た目で判断すると痛い目に遭う。
彼女は熊をも素手で返り討ちにするほどの強者だ。
拳闘の腕なら眞魔国・・・・いや、世界一最強じゃないかと思う。
それは彼女の鉄拳の餌食になった事がある者なら誰もが身を持って知る事だろう。
俺も餌食になった事がある1人とは言うまでも無い(がくがく・・・(恐))。
そんな彼女は只今血盟城の中庭で優雅に読書をしている最中である。
盲目の彼女は本に書かれている字を指で読む事に集中しているせいか、俺の存在には奇跡的にまだ気づいてない様だ。
これは今の内にユーリの元へと急いだ方が良いと言う事か?
確か地球に行った時に学んだ言葉、『触らぬ神に祟りなし』と言うのは正に今の事だろう。
俺はジュリアに気づかれない様に、そーっと素通りしようとした。
パキ・・・・
あっ・・・(汗)
「誰?」
俺のドアホー(泣)
何でこんな時に限って落ちてる小枝なんか踏むんだ?!
おかげでジュリアに気づかれてしまったじゃないかー!!
コンラッドは心の中で自分自身をひどく罵っていた。
後悔しても後の祭りなので、潔く観念した方が身の為である。
そもそも人の気配に敏感なジュリアに素通りしようとする方が無理な話しである事をコンラッドはさっぱりぽんと忘れていた。
最初は読書に夢中で気づかれなくても、いずれは気づかれてしまうオチなのである。
例え落ちている小枝を踏むという失敗をしなくても。
「そこにいるのは・・・こちらのコンラッドね?」
コンラッドは素直に返事を返すか迷っていると、あっさりジュリアにばれてしまった。
・・・・んっ?こちらの?
「どうしたの?コンラッド。さっきから様子が変よ」
「えっと、そ・・・そうかな?一切喋らなくても、ジュリアが俺だとよく分かったなと驚いたせいかな?」
コンラッドは必死に誤魔化した。
ジュリアに余計な事を言ってはいけないと思ったから。
そしたらジュリアがくすりと笑い出した。
「可笑しなコンラッドね。こちらの私だって、目が見えなくてもあなたが誰だか分かるなんていつもの事でしょう?」
「そ・・・そうですね」
コンラッドは苦笑いをして誤魔化しを続けていた。
さっさとこの場を切り抜けて、愛しのユーリの元へと向かいたいと思いながら。
「それではジュリア、俺はこれから用事があるので失礼しますね」
「用事って、魔王陛下の護衛のお仕事かしら?」
ギクリ・・・・
ここまでばれていると観念した方が懸命である。
ジュリアに嘘は通じない。
嘘偽りを言えば全てを見透かされてる様な白い瞳にあっさりと悟られてしまう。
まずは嘘がばれた後が恐ろしい・・・・
性根が真っ直ぐな彼女は嘘が大嫌いである。
もし嘘を吐こうとするものなら、鉄拳1発ではまず済まないだろうな・・・・
本能が本当の事を告げた方が良いと察したコンラッドは、正直にジュリアに話す事にした。
「はい、これからユーリ陛下の護衛ですよ」
「そうだったの」
また、数少ないユーリとの2人きりでいられる時間を邪魔されるのか・・・・(泣)
コンラッドは心の中ではらはらと涙を流していた。
そしたら次の瞬間、思わぬ発言がジュリアから発せられたのだった。
「いつも護衛のお仕事ご苦労様。今日も魔王陛下の護衛、頑張ってね(にっこり)」
・・・・・・・・はい?
いつもなら俺が不埒な事をしない様に見張りとか言ってついてくるのに、今日はついてこないんですか?
それ以前にジュリアが俺に向かって慈愛に満ちた笑顔で『護衛、頑張ってね』・・・だと!?
ぶっちゃけいつものジュリアならありえません!
ドス黒いオーラを背後に纏いながら『陛下に万が一でも手を出したら・・・・分かってるわよね?(にっこり)』、ならもの凄くありえるんですが・・・・
心の中で混乱している俺を他所に、ジュリアは話しかけてきた。
「私は他にも廻りたい所があるからもう行くわ。じゃあね、コンラッド」
そう言ってジュリアは慈愛に満ちた笑顔のまま、俺に手を振りながら行ってしまった。
俺は何も言わず、ジュリアに手を振り返すのみだった。
・・・・・誰だ?今の。
本当にジュリアなのか!?
俺は相変わらず混乱したままある場所へと向かった。
眞王廟にいる、ジュリアの義妹の元へと。
トントン・・・・
「失礼します、ミレーユ」
今回は一応ノックしながらミレーユの部屋へと入室したコンラッドであった。
以前、ノックも無しに入室したら弓矢で射掛けられそうになった苦い思い出があったからだった。
「あら、コンラート。今日はどうしたの?」
「実は、ジュリアが・・・・ジュリアが・・・・」
「ジュリアがまた何だって言うのよ?」
「ジュリアが壊れた!!あのジュリアが俺に向かって慈愛に満ちた笑顔で、陛下の護衛を頑張ってと言ったんだぞ?!俺が会ったのは本当にジュリアなのか!?もし本物のジュリアだと言うなら直ぐ有能な医者に診てもらった方が良いんじゃないのか!?」
「あぁ、あのジュリアね。コンラートが混乱するのは仕方無いとは思うけど、もっと周りを注意してから言葉を発した方が良いわよ?」
ミレーユに後ろを見る様にと指摘され振り返ってみると、ドス黒いオーラを身に纏ったジュリアが腕をぼきぼきと鳴らしながらそこに立っていた。
・・・・しばらくお待ちください・・・・
「コンラッドが見たという私は、実は別次元に存在するという私なのよ」
「ジュリア、今コンラートに状況を説明しても聞こえてないと思うわよ?」
ジュリアにボコボコにされたコンラッドは、あの世逝き1歩手前の虫の息の状態だった。
これじゃあ先に進まないので、ジュリアはとりあえずお得意の治癒術をコンラッドに掛けてあげた。
「まったく、情け無いわね。アーダルベルトだったら数分もしない内に復活すると言うのに」
「あのタフな筋肉ダルマと俺を一緒にしないでください!あなたにボコボコにされたらアーダルベルトはともかく、他の奴なら間違いなくあの世に逝ってます!」
「失礼しちゃうわ。鍛え方が足りないのを人のせいにしないでほしいわ。第一、さっきだってコンラッドが私に対して失礼な事ばかり言うから頭にきたのよ」
「う・・・・、それは失礼しました。すみません」
コンラッドは素直に謝罪した。
しかしあれだけコンラッドが混乱したのは、普段の行いが原因だと言うのはジュリアは気づいて無い様だった。
「ジュリア、今回は許してあげて。あんだけボコせばいい加減に気が済んだでしょう?」
流石にコンラッドが哀れだと思ったのか、ミレーユはジュリアにフォローを入れてくれた。
そりゃあ、あの世逝き1歩手前までボコれば普通は気が済むだろう。
だが、あのジュリアなら分からない。
彼女を本気で怒らせたら、俺は本当に無事でいられないかもしれない・・・・
今回ばかりは、ミレーユが天使に見えたコンラッドだった。
ミレーユのフォローもあってか、今回はジュリアに見逃してもらえたコンラッドだった。
「さて、本題に戻るわね。コンラッドが見たと言うのは別次元に存在する私。つまり、私であってここに存在するべき私じゃないのよ」
「別次元の?という事は、今はこの世にジュリアが2人存在すると言う事ですか?」
「えぇ、本当に厄介な事になったわ」
「それで、ジュリアが2人いると言うのは色々とややこしくなりそうじゃない?だからこっちに存在するジュリアは、事態が収拾するまで私の部屋で待機する事にしてるのよ」
あぁ、だからさっきのジュリアは『こちらの』とか言ってたのか。
何やら1人で納得しているコンラッドであった。
「それで、どうして別次元に存在するジュリアがこっちの次元にいる事になってるんですか?」
「それは私が説明いたしましょう」
「「「アニシナ!」」」
バーンと突拍子も無く登場した赤い魔女ことアニシナ。
今回の出来事はどうやら彼女が関係している様だった。
「良いですか?コンラート。あなたに付いてる、その両耳の穴をかっぽじってよーく聞きなさい。先日の雷の鳴る大嵐の事は覚えていますね?」
「あぁ、おかげで雨漏りが大変だった。そろそろ血盟城も古い部分は建て直しが必要だな」
「そんな些細な出来事はどうでも良いのです!コンラート、先程に私の話しをよーく聞きなさいと言いましたよね?それなのにどうでも良い雑談を入れるとは何事ですか!?あなたのその両耳はただのお飾りなのですか?それとも私の素晴らしい説明があなたは聞けないとでも?まぁ、普段から私の素晴らしい演説に耳も貸さないあなた方男共によーく聞けというのも、最初から無理な話しだったのでしょうけど」
「アニシナ、先に進まないから話しを戻して。情け無い男共の小言は今度のお茶会で色々と語り合いましょう」
「それもそうですね。私の貴重な時間を、これ以上男の為に割く訳にはいきませんし」
アニシナはコホンと1つ咳払いをして間を置いてから説明を再開した。
「話しを戻します。その先日の大嵐の日、私はいつもの様に血盟城の実験室に篭りグウェンダルやギュンターをもにたあにしながら新たな魔導装置発明の為の研究をしていました」
グウェンダルとギュンターはまたアニシナの被害に遭ってたのか・・・・
口に出して言うとまたアニシナの小言が再開されそうなので、コンラッドは心の中だけでそう思った。
「そうしたら大きい雷が落ちたと共に、私が発明している最中の魔導装置が何と共鳴したのです。そしたら何と言う事でしょう、魔導装置は急に光だし爆発したのです!」
あぁ、グウェンダルとギュンターの怪我はやはりアニシナ絡みだったのか・・・・
「魔導装置が爆発した後の実験室は暫らく煙に包まれていました。鬱陶しい煙が晴れてきたと思いきや、そこには別次元に存在するというスザナ・ジュリアがいつの間にかいたのです」
「簡単に説明すると、先日の大嵐の雷が落ちたせいでアニシナの研究最中の魔導装置に不思議な力が発動して、別次元に存在するジュリアを召喚してしまったと言う訳なのよ」
「なるほど・・・・」
流石3大魔女、奥が深い。
・・・・などと関心している場合じゃない!
「それじゃあ別次元に存在するジュリアをさっさと戻さないと色々と大変な事になるんじゃないですか!?早くその魔導装置を使ってあのジュリアを戻さないと」
「馬鹿ね、それが出来たら最初からやってるわ」
「最初からって・・・、駄目だったんですか?」
「あの魔導装置は1度発動したきりまったく動かなくなりました。つまり、失・敗です」
コンラッドはガクリと脱力した。
「そんなに慌てる事無いわよ、コンラート。ウルリーケ様に相談した所、ウルリーケ様は眞王陛下のお言葉をお聞きになったのよ。そしたら、時間が解決してくれるからほっといても平気だそうよ?」
そんな簡単な事で本当に良いのか!?眞王陛下。
コンラッドは楽天的な偉大なる眞王陛下に仕えてる事が急にアホらしくなった。
ユーリ、やはり俺にとっての真の主はあなただけです。
「それはそうとコンラート、早く陛下の元へと行かなくても良いの?もうとっくに執務の時間は終わってる時間よ。あちらのジュリアは是非こちらの魔王陛下とお会いしたいと言って、今頃血盟城をうろついていると思うわよ?」
「はっ!そうだ、俺は早くユーリの元へと行かねば!それでは3人共、俺はこれで失礼します」
「ちょっと待って、コンラッド」
走り去ろうとするコンラッドをジュリアが呼び止める。
「何ですか?ジュリア」
「私が傍で見張ってないからと言ってユーリ陛下に不埒な事をしたら・・・・分かってるわよね?(にっこり)」
出た!本家ジュリアのドス黒いオーラを纏った脅しの笑顔。
恐ろしいけど・・・・何となくいつものジュリアに安心してしまうコンラッドだった。
しかし、恐いことには変わりない。
コンラッドは震えながら無言でこくこくと頷いてから、颯爽とミレーユの部屋を去って行った。
「ユーリ、遅くなってすみません!」
「あっ、やっと来たなコンラッド」
「本当にすみませんでした。俺がいなくて退屈でしたでしょう?」
「うぅん、大丈夫だよ。そこでジュリアさんと会ったから話し相手になってもらってたんだ」
「ジュリアと・・・ですか?」
「こんにちは、コンラッド。またお会いしたわね」
別次元のジュリアは相変わらず慈愛に満ちた笑顔で俺に話しかける。
別次元とは言え、同じジュリアでもここまで違うものなのだろうか?
俺はまた軽く混乱しかけてきた。
こちらの本家ジュリアがもしこうだったら・・・・別の意味で凄く恐ろしい。
コンラッドがそう思っている最中、ユーリと別次元のジュリアの会話は続く。
「本当に、こちらの眞魔国は私達が望む平和な国へと近付いてきてるのですね。これもユーリ陛下のおかげですね」
「そんな///俺はまだまだへなちょこ魔王ですよ。協力してくれてる仲間達が皆優秀なおかげですよ」
「いいえ、陛下のお力だと私は思います。だって、その優秀な仲間達と言うのはユーリ陛下自信に皆惹かれて御仕えしてるのでしょう?そうでなければ皆、ユーリ陛下にここまで協力しようとは思わないですよ。ユーリ陛下と眞魔国に住む皆が力を合わせてるおかげで、少しずつだけど確実に平和な国へと近付いていってます」
「そうなのかな?そうだったら嬉しいんですけどね///」
「そうですよ、私には分かります」
「ありがとう、ジュリアさん。俺、ジュリアさんがそう言ってくれるだけで本当にそうなってる様な気がしてくるよ」
「ふふっ、どういたしまして」
ユーリとジュリアが会話している時、1匹の蜂がユーリに向かってブーンと飛んできた。
俺はいち早くその事に気づき、ユーリに危険を知らせた。
「気をつけてください、ユーリ。蜂が1匹あなたに向かって飛んでいます!」
「はっ・・・蜂?!」
蜂は黒を見て興奮すると言う。
双黒であるユーリは興奮した蜂の良い的であった。
そこう言ってる内に、蜂はユーリの近くへと来ていた。
「わわっ・・・!」
スパーン!!
ユーリが蜂に刺されそうになった直後、別次元のジュリアが蜂を手刀で仕留めた。
ちなみに蜂からユーリを助けようとしていたコンラッドは出番無しだった。
ユーリとコンラッドはぽかーんと別次元のジュリアを見つめた。
そしたら別次元のジュリアはにっこりと微笑んでこう言ってきた。
「危ない所でしたね、ユーリ陛下」
「へ・・・?えっと、はい。ありがとうございました」
「いえ、これ位どうって事ないですよ」
どうって事ないんだ・・・・
前言撤回、別次元とは言えジュリアはジュリア。
お強い所は変わりなしですか。
「あら?もう時間みたいね。それではユーリ陛下、お会いできて嬉しかったです」
そう言って別次元のジュリアはふっと消えてしまった。
どうやら元の次元へと帰って行った様だな。
とりあえず、事態はこれで一安心と言った所か。
「ジュリアさん、カッコイイ!蜂を手刀で仕留めた時マジで凄かったな、コンラッド。急に消えたのも、やっぱり3大魔女の1人だから魔力でテレポートでもしたのかな?」
「さ・・・さぁ?魔力の持たない俺には何とも・・・・」
ユーリ・・・・・
あなたまで鬼軍曹に憧れを抱くのは本当に簡便してくださいね!
「そういえば、ユーリ。ジュリアと話していていつもと違う感じがしたなと感じなかったですか?」
「うぅん、ジュリアさんはいつもと同じで優しい感じだったよ?」
そうでした、こちらのジュリアはユーリには別次元のジュリアと同じに慈愛に満ちた優しい笑顔で話すんでした。
END
ちょっぴりマニメのジュリアを目指したんですが・・・・全然別人ですね(汗)
やはりヨシが書くジュリアはどうも最強設定にしてしまうみたいで( ̄▽ ̄;)