キーナンの昔物語 番長との出会いと絆
アーダルベルト番長を慕い、手下となってから早数年。
俺はあの方のお役に立てる事に喜びを感じてる。
アーダルベルト番長にはやさぐれてた時があった俺に喝を入れてくれた。
そう・・・・あの時は何もかもがどうでも良かった。
俺の親父とお袋は兄貴にばかり全部の信頼と期待を寄せ、それに引き換え俺の事は空気同然に扱っていた。
まぁ、兄貴は俺なんかより優秀で聞き分けの良い奴だったから今思うと当然と言えば当然かもしれないけどな。
だけど、俺は兄貴を家族で唯一慕っていた人物だった。
昔から家族に反抗的だった俺でも、弟として可愛がってくれてたと分かる。
兄貴だけが家族の暖かさを教えてくれた気がする。
だが・・・・その兄貴が、ある日突然に交通事故で亡くなった。
親父もお袋も悲しんださ・・・・当然、俺も悲しんだ。
それからと言うもの、両親は何かと兄貴と比べ俺を見下した。
死んだ兄貴は俺と違ってああだった、こうだったともう耳に蛸が出来るくらいに嫌って程聞かされたぜ。
やがて俺は何もかもどうでも良くなって、もともと反抗的という事もあったせいか階段から転げ落ちる様に不良生活へと転じさらに家での生活環境も悪くなったもんだ。
「ふっ・・・・」
キーナンが自嘲気味に笑った。
少しばかり、昔の思い出に浸ってみるのも悪くないか。
あれはまだ、番長と俺が出会う前の事だった・・・・・。
「へっ、手応え無ぇの」
俺は喧嘩を吹っ掛けてきた奴等を返り討ちにし、唾を吐き捨てそいつ等をつまんなそうに見下してやった。
「・・・・つまんねぇ、もっと腕を磨いて出直して来いっての」
「・・・・ちくしょお、覚えてろよ・・・・キーナン・・・」
倒れ付していた奴等の1人がそんな様な事を言ってたが、俺はそんなの無視して何事も無かった様にその場を去って行った。
あの頃はそんな事が日常茶飯事だったので、詳しい事なんて一々覚えていない。
そんなある日、俺とアーダルベルト番長と出会った。
当然その頃の俺は番長の事はよく知らねぇし知ろうとも思わなかった。
係わり合いになるのもごめんだとすら思っていた。
ところが・・・・・。
ガッ・・・!!
「ぐっ・・・・・」
背後から俺に不意打ちを仕掛けて来た奴がいきなり倒れた。
おそらく前にボコした奴等の1人だろう。
そんな顔も一々覚えてない奴の事はどうでも良かった。
何故こいつがいきなり俺の背後で倒れた原因は何なのか確認した。
そのさらに後ろには気に喰わなかった例の番長がいた。
「腕っ節は強ぇって噂は聞くが、背後が隙だらけだな。そんなんじゃあいつか寝首かかれるぞ?」
何で関係の無い俺にそんな事してくるのか意味不明だった。
俺は多少苛立ちを覚えたが、こいつとはあまり関わりたくなかったので軽く受け答えして適当にずらかろうと思った。
「へっ、番長様自らこの俺にご忠告とは痛みいるもんだ。一応は肝に銘じといてやるよ。じゃあな」
あの時の俺は番長に助けてもらったって事実がただウザイと思った。
一々関係の無い奴がしゃしゃり出て来られた事で余計に不機嫌となった。
こういうおせっかい野郎どうも性に合わねぇと思った俺は番長との関わりを持つ事を極力避け、会話する事さえあれ以来無いと思っていた。
・・・・・そんなある日・・・・・
「・・・・てめぇら」
「ふっ、無様だなキーナン。今のお前ならこの間のお礼を倍に返してやれそうだぜ」
情けねぇ事に油断してた俺は以前のボコした奴等が襲い掛かってきて不意をつかれてしまった。
数人程度では俺に敵わないと悟ったのか、今度は集団の人数を引っ連れて来やがった。
今の俺は集団の奴等にリンチされた事によって全身がボロボロだ。
だが、奴等はまだ俺を殴り足りないらしい。
ニヤニヤと意地汚ぇ笑みを浮かべた奴が1人、腕をボキボキと鳴らして俺に近寄って来た。
「おらよぉ!」
ドコォッ!!
「ぐっ・・・・・」
俺の顔面を思い切り殴り飛ばした。
ちっ・・・・マジで情けねぇぜ、俺も年貢の納め時か?
まぁ、どうなろうと別に構わねぇや。
好きにしろという意味合いも込め、俺は目を閉じた。
さっきと同じ奴かはたまた別の奴か、近付いて来る。
殴られるのか蹴られるのかどちらかは知らんが、『ヒュッ・・・』という空気を切る気配を感じた。
ドコォッ!!
次の瞬間、殴られた様な音は確かに聴こえた。
だが、俺に降りかかってくる衝撃は何故だか無かった。
何が起きたのか理解出来なかった俺は閉じていた目を開けた。
「お前は・・・・」
「集団で1人の奴を相手するとは、良い趣味とは言えねぇな」
目の前にはアーダルベルト番長の姿があった。
先程の殴った音は、俺に近付いて来た奴を番長が殴った音だった様だ。
俺に背を向け立ち塞がり、リンチしていた奴等を気に喰わない表情で見据えていた。
「んだぁ、お前は?お前も俺等にボコされてぇのかよ?」
「お前等に俺がやれるもんならやってみろ」
「上等だおらぁー!!」
アーダルベルト番長は一気に周りを囲まれ、襲い掛かられた。
「甘いな・・・」
アーダルベルト番長が呟く様にそう言うと、奴等を迎え撃つ体制をとる。
次の瞬間、流れる様な動作で番長は次々と襲い掛かって来た奴等を返り討ちにしていた。
番長の拳はそうとう重いのか1発殴られた相手は呆気なく殴り飛ばされ、腕を取られそうになるなら逆に相手の腕を取りそのまま背負い投げをしていた。
「強ぇ・・・」
俺が無意識に発した言葉だった。
番長は強大な肉体を持ち、逞しく筋肉で引き締まった体でかなりの長身の男だ。
見た目からして武道の心得はあるだろうと思った。
しかしこれ程までに強いとは正直想定外だった。
あっという間に囲んだ奴等を番長は片付けてしまった。
1人だけ残った奴はいたが、そいつには何もしないのか番長の動きは止まった。
そして番長が言葉を発した。
「やるなら差しで勝負しろ。集団リンチなんざ弱い奴がする事だ」
番長はキーナンの方をちらりと見た。
へっ・・・・そういう事かよ。
最後の締めくらいは自分で片を付けろって事か。
本当におせっかいな野郎だぜ。
言われなくても、そんなくらいやってやるよ。
俺はフラフラになりながらも、1人だけ残ってるリンチ主導者の奴の前に出た。
主導者の奴は俺に殴りかかろうとしてきた。
「な・・・舐めんじゃねぇー!!」
ひゅっ・・・・ドス!!
俺は奴の拳を難なく避け、逆にカウンターの左ストレートを喰らわせてやった。
ドサリ・・・・
集団で来られた時は手こずったがが1人相手だと本当に弱ぇな。
こんな奴に自分がボコされたと思うと本当に情けなくて失笑するぜ。
「やるじゃねぇか」
番長が俺にそんな事を言ってきた。
「ちっ・・・・余計な事してくれる・・・ぜ」
ドサリ・・・・
事が済んだら急に意識が遠くなってきた。
それから先の事はよく覚えてないが、次に気づいた時は番長が俺を介抱してくれた様でこの場とは違う場所にいた。
ふと目を覚ますと、俺は横たわっていたみたいで見慣れない天井が目に入った。
体を起こしここは何処かのアパートの1室かと辺りを見回してると、番長が俺に近付いて来た。
「気がついたか?」
「・・・お前が俺をここまで運んだのか?」
「あぁ、お前急に倒れたもんだからほっとく訳にはいかねぇだろう?実は俺、実家を家出中なんだよ。高校卒業するまでは好きにさせてもらうって事で、ここのアパートを寝床にさせてもらってんだよ」
「本当にお節介な奴だな、お前は」
だが、意識を失くしてる間に何故だか懐かしい感じがした。
俺がまだガキで兄貴が生きていた頃、背中におぶさってもらった時に感じた暖かさと似ていた気がする。
そんな事考えてたら番長が俺にチャーハンを差し出した。
「ほら、これでも食え」
「・・・・いらねぇ」
そう言ったら空気を読まねぇ俺の腹が『ぐぅ〜』っと盛大な音を出した。
番長はぷっと吹き出しながら言った。
「無理しねぇで食えよ。毒なんざ入っちゃいねぇから」
「・・・・・・・」
俺は無言でチャーハンを受け取り、少しずつスプーンで掬い取り口に運んだ。
「どうだ?」
「ま・・・不味くはねぇな」
「そりゃあ良かった。本当はもっと手の込んだ物を出してやれば良かったんだが、炊いた米が結構余ってたからな。悪いなあり合わせの物しか出せなくて」
「あんたがこれを作ったのか?」
「まぁな。毎回コンビニ弁当とかじゃあ体に悪そうだから料理をやり始めたんだが、これが結構面白くてな」
俺はその話しを聞きながら、番長の作ったチャーハンを一気に平らげてしまい皿を床に置いた。
こんなに飯が美味い物なんだと久しく感じてなかった気がする。
何でこいつはこんなにお節介焼きなんだよと思う同時に、1人で意地張ってるみたいな自分が馬鹿らしくなってきた。
「・・・・ありがとな」
「お礼なんか言われる筋合いは無ぇよ。俺がやりたくてやった事だしな」
「何であんたはこんなに俺に構うんだ?最初に話した時だって俺はあんたにムカつく事言っただろうが」
「別に気にしちゃいねぇよ。そうだな・・・・、俺がお前を構うのは喧嘩っ早い所がほっとけないのと、1人で打ちのめそうとする根性が気に入ったからかもしれねぇな」
「俺を気に入るだなんて随分と物好きな奴だな」
「ほっとけよ。まぁ何だ、とりあえずこれからよろしく頼むわ」
番長は俺に手を差し出してきた。
「何だよ?」
「とりあえずダチ同士になろうぜ?キーナンとは何かと気が合いそうだしな」
ダチ・・・・か。
この番長とダチになるのも悪く無ぇかもな。
キーナンも手を差し出し互いにギュッと握手する形となった。
「俺からもよろしく頼むわ。アーダルベルト番長?」
「番長って言うなよ。俺は別に番長って名乗ってる訳じゃねぇし、廻りの奴が勝手に言ってるだけだ」
「良いじゃないですか。あんた程番長って言葉がピッタリな奴は他にいませんぜ?」
「だから、その番長っての止めろって言ってるだろうが!」
そんなやり取りをして、俺は久しぶりに腹を抱えて笑った。
何だかダチと言うより番長とその手下みたいになってる気もするが、こんな関係も悪く無ぇと思えるのは相手がアーダルベルト番長だからかもしれねぇな。
こうして俺は番長の傍にいる様になった。
その人柄と真っ直ぐな性根にどんどん惹かれていき、からかいとか冷やかしとかじゃなく本心からアーダルベルトの事を『番長』と慕う様になっていった。
「何してんだよ?キーナン」
放課後の教室で1人で物ふけていたら、いつの間にかアーダルベルト番長が来て俺に話しかけた。
「少し昔の事を思い出してたんですよ」
「そうか、たまには物思いにふけるのも良いがそろそろ帰ろうぜ?」
「そうですね、帰りましょう。マキシーンの奴はバイトがあるって先に帰ってしまいましたし。番長は今日、ジュリアさんと一緒じゃなくて良いんですか?」
「ば・・・・馬鹿野郎!///何で俺がいつもジュリアと一緒にいなくちゃなんねぇんだ!大体、今日はあの坊主の所行くってさっさと帰ったぞ」
「そうですか、残念でしたね」
「何が残念なんだよ!人をからかう奴なんかもう知らん。そんな奴はさっさと置いて行くのが1番だな」
そう言って番長は踵を返して、教室から出て行こうとした。
「待ってくださいよ、番長。俺も今行きますから」
懐が大きくて心から慕える存在であっても、ジュリア関連の事ならまだまだからかうネタはありそうだなと1人ほくそ笑むキーナンであった。
END
アーダルベルト番長とキーナンの出会い編でした。
原作ではキーナンはどうやら兄がいた様で、それを活用させていただきました。
キーナンの話し方が滅茶苦茶曖昧なので、ヨシの文章力も無いせいかぶっちゃけマキシーンよりネタにしにくいし書きにくかったです(爆)
ですがせっかくキーナンも何らかの事情を見てみたいとのお声もいただいた事があるので、ヨシなりに頑張ってみました。
原作マニメ共アーダルベルトは貴族設定なので番長の実家は実は金持ちでしたーってネタもいつか書いてみたいかもです。
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