訪れた気持ちの変化?素直になれない2人のValentine's Day
ここはアーダルベルト番長と愉快な仲間達が通う学校。
本日はいつもと違う空気が流れている。
何故なら、本日はValentine's Day。
好きな子や気になる子からチョコレートが貰えるか貰えないかで、世の男性達が一喜一憂する日でもある。
朝から男子女子共どこか落ち着かなくてそわそわしている様だ。
そんな中、『Valentine's Day』という事も全く気にせず、いつも通り過ごしている人物が約2名・・・・
「「何で今日の合同授業は男子と女子が別々なんだ(なの)?」」
口を揃えてまったく同じ事を言うアーダルベルト番長とジュリア。
本日は隣のクラスも一緒に授業する合同授業の日でもあった。
本日行われる授業内容は男子が外で体育、女子が家庭科室でお菓子作りの調理実習である。
「どうせだったら私も、アーダルベルト達と外で体育の授業が良かったわ。中で大人しく調理実習するより外で思い切り体を動かす方が楽しいもの」
「そうか?料理も覚えると中々楽しい物だと俺は思うけどな」
「アーダルベルトは料理が上手だから良いわよね。どうせだったら私と授業変わらない?」
「無茶言うなよ。周りが女子だけの中に混ぜれるかってんだ!」
言い合うアーダルベルト番長とジュリアの2人をコンラッドが宥める。
「まぁまぁ、2人共。今日は確かValentine's Dayだから男子と女子の合同授業が別々なんじゃないか?」
「「Valentine's Day?」」
アーダルベルト番長とジュリアはまた声を揃えながら、キョトンとした感じで言った。
そんな2人を見てコンラッドはこう思った。
この様子だとすっかり忘れてるな。
まぁ、その方が2人らしいと言えば2人らしいですけどね。
「そういえば、世間ではそんなイベントもあったわね。今までは無縁だったからすっかり忘れてたわ。どうりで調理実習に持参してくる材料の中にチョコレートがあるはずだわ」
「俺も別に興味が無かったからすっかり忘れてたぜ。言われてみれば確かに今日だったな」
2人がそんな返事をするものだから、コンラッドはやれやれと言った感じに苦笑した。
「今日の家庭科の授業はきっとチョコレートのお菓子作りですよ、ジュリア。他の女子達が絶対そうだと騒いでましたよ?」
「そうなの、それじゃあ完成したお菓子は男子達に渡す子が多いでしょうね。あなた達も誰かに貰えると良いわね、ふふっ」
「ジュリアは誰かに上げるのか?」
「そうね、上手に作れたらユーリちゃんに上げようかしら?失敗したら勿体無いけど処分するわ」
ユーリ・・・か。
俺もユーリからチョコレートを貰えたら凄く幸せな気分になれるんだろうなぁ。
コンラッドは溜息を吐きながらそう思った。
その時、ジュリアが何らかの不穏な空気を察知した。
「コンラッド、あなた今不埒な事を考えなかった?例えば、ユーリちゃんの事とか」
ギクリ・・・・(汗)
「そ、そんな訳無いじゃないですか。俺がユーリに対して不埒な事を考えるなんてありえませんよ。・・・あっ、そろそろ次の授業の準備をしなくては。アーダルベルトもジュリアも急いだ方が良いですよ?それでは俺はお先に失礼しますね」
コンラッドはそそくさと退場する。
「どうしんたんだ?コンラッドの奴」
「ほっといても大丈夫よ。どうせユーリちゃんからチョコレートが欲しいとか思ったんでしょう。そろそろ私も調理実習の準備をしたいから行くわ。それじゃあまた後でね、アーダルベルト」
「あぁ、またな」
さて、俺も行くか。
こうして、それぞれの授業に取り組みに行く3人だった。
・・・・合同授業後・・・・
男子は体育の授業、女子は家庭科の調理実習。
それぞれの授業が終わり教室へと戻った時だった。
体操着から学ランへと着替え終えた男子一同の前に、女子一同が調理実習で作ったチョコレート菓子を持って現れた。
これは一体何なんだ?と質問してみると、貰えない人が出ない様にと男子達平等にチョコレート菓子を女子一同が贈るそうだ。
女子達がそれぞれ作ったチョコレート菓子は纏められており、男子が好きな物を1つだけ取るとの事だった。
あらかじめ誰が何を作ったかは発表しないので、誰が作った物を取るかはランダムである。
「どうやら大分予定外な事が起きてるみたいだな、ジュリア」
「多数決で決まった事だから仕方無いわ。貰えない男子が出ない様にと女子一同からの施しみたいよ」
「そうか。でっ、お前が作ったチョコレート菓子の・・・・・・」
出来はどうだったんだ?と聞こうとしながらアーダルベルトはジュリアの顔を見る。
そしたらジュリアはいつもの明るい表情とは裏腹に、浮かない表情をしていた。
その様子だと、上手くいかなかったみたいだな。
失敗したら処分するとか言っても、こいつは馬鹿正直に自分の作ったお菓子も回収時に差し出したんだろうな。
そういう所は相変わらず律儀だよな、ジュリアは。
まぁ、そういう所は嫌いじゃ無ぇけどな。
アーダルベルト番長が並べてあるチョコレート菓子に目をやると、個人差はある物のほとんどのお菓子が中々良い出来具合であった。
その中に、1つだけ歪な形のチョコレート菓子があった。
よく見るとそのお菓子は所々焦げている。
アーダルベルト番長がそのお菓子を見ると、ジュリアはバツが悪そうな顔をした。
なるほど、ジュリアが作った菓子はあれみたいだな。
アーダルベルト番長はチョコレート菓子の前に群がってる男子達を悪いと言いながら掻き分けてチョコレート菓子が並べられた場所へ行き、ジュリアが作ったであろう歪な形をした菓子を迷わず取った。
それを見たジュリアは思わず囁いた。
「あっ、それは・・・・」
「俺はこれを貰う事にする。じゃあな」
そう言ってアーダルベルト番長はその場を去った。
他の生徒達がどのお菓子を貰うか決めかねてる中、ジュリアは少しだけ驚いた様な表情をして遠ざかるアーダルベルト番長の後ろ姿を見ていた。
放課後、ジュリアはアーダルベルト番長の元へと行った。
「アーダルベルト、良かったら今日一緒に帰らない?」
「別に構わねぇが、急に改まってどうしたんだ?」
「何でも無いわ。ただ、少し話しながらあなたと帰りたいと思っただけよ」
クラスメートが未だに残っている教室内、ここでは話しにくいだろうと悟ったアーダルベルト番長はジュリアを連れ出す。
「そうか、だったらさっさと行くぞ」
「え・・・えぇ」
帰路の途中、ジュリアの様子はいつもと違った。
今のジュリアにはいつものはつらつさは感じられない。
歩くアーダルベルト番長の後をただ付いて来るだけであった。
ジュリアはふとアーダルベルト番長に問い掛けた。
「ねぇ、アーダルベルト。今日あなたが選んだチョコレートのお菓子、誰が作った物なのか分かった?」
アーダルベルト番長は歩くのを止め、ジュリアに振り返りながら言った。
「さぁな。何でそんな事聞くんだ?」
ジュリアも止まり、アーダルベルト番長の顔をじっと見ながら言った。
「だって、綺麗に出来上がったお菓子は他にたくさんあったのに、あなたは迷わずいかにも失敗作といった物を取った。それが、何でだか気になったのよ」
「別に深い意味は無ぇよ。ただの甘ったるい菓子を食うより、少し焦げ目の付いた香ばしい物を食いたいと思っただけだ」
「そう・・・」
アーダルベルト番長は少しジュリアから顔を逸らし、頬をぽりぽりと掻きながら言った。
「まぁ、見た目は確かにあれだったが、味は悪く無かったぜ」
「えっ?本当にあんな物が美味しかったの?」
「あのなぁ、『あんな物』なんて言ったら作った奴に失礼だろ。そいつだってきっと一生懸命作ったんだろう?大体、料理だって何だって見た目よりまずは気持ちが大事だろ。違うか?」
ジュリアはふるふると首を横に振りながら言った。
「そうね、確かにあなたの言うとおりだわ。料理だって買ってきた物よりも、誰かの為に一生懸命作った料理の方がよっぽど美味しいもの」
アーダルベルト番長はジュリアの頭に手をぽんっと置いた。
「だろ?だから俺が食った菓子もちゃんと気持ちの篭っていて美味い物だったぜ」
ジュリアの頭から手をそっと離し、アーダルベルト番長はまた歩き出した。
アーダルベルト番長の後をジュリアも駆け足で付いて行った。
その時、ジュリアはぽつり小さい声で言った。
「・・・・ありがとう」
「んっ?何か言ったか?ジュリア」
ジュリアは笑いながらアーダルベルト番長を追い越しながら言った。
「何でも無いわよ。さぁ、もたもたしてると置いてくわよ?アーダルベルト」
そう言ってジュリアは走り出した。
「おいっ、ちょっと待てよ」
ジュリアに次いでアーダルベルト番長も走り出した。
そんな中、ジュリアはいつもより胸の中が暖かくなる感じがしたと同時に、自分の心が乱される様な感じがした。
でも、まったく嫌とは思わない。
むしろ今はこの気持ちが心地良い様な気がした。
初めて感じるこの気持ち、その気持ちの正体にジュリアが気づくのはもう少し先の事?
<オマケ>
放課後、一方のコンラッドはユーリの元へと行った。
今日は草野球の日だと聞いてたので、終わる頃を見計らって行き、ユーリと一緒に帰ろうと計画を立てていた。
「草野球お疲れ様、ユーリ」
「あっ、コンラッド。丁度良い所に来てくれたな。あんた甘い物は嫌い?」
コンラッドはドキン胸が高まり、期待してしまった。
もしかしたら、ユーリからチョコレートが貰えるかもしれないと。
「いいえ、そんな事はありませんよ。どうしてですか?」
「いや、ちょっとな。もし良かったら、チョコを受け取ってほしかったんだ」
ユーリはそう言って、鞄の中から綺麗に包装されたチョコレートを取り出した。
「もちろん、喜んでいただきます」
表向きは平然を装うコンラッドだが、心の中では有頂天となっていた。
まさに、天にも昇る気持ちと言うのはコンラッドにとって今の事だろう。
「それ、手作りなんだ・・・・お袋の」
「はい?」
「いやーお袋がな、調子に乗ってチョコレートを作りすぎちゃって処分に困ってたんだ。俺と家族だけでは食べ切れそうに無いし捨てるのも勿体無いしな。だから草野球の皆に配ったんだけど、丁度1個余ちゃったんだ」
「そ・・・そうですか」
コンラッドは一気に現実へと引き戻された様な感じだった。
彼の恋が成就するのは、まだ当分先の様である。
ちなみに、僕も渋谷からチョコを貰ったよ。 by村田 健
END