第8話 魔王の正体
コンラッドは実にたらし全快の笑顔をミツエモンに振りまいた。
そしてミツエモンの自分よりも小さく可愛らしい手をそっと握りながら話し始めた。
「ありがとうございます、優しく素敵な方。そういえば、申し遅れましたね。俺の名はコンラート・ウェラー。気の知れた相手にはコンラッドと呼ばれてます。どうぞあなたも気兼ねなくコンラッドとお呼びください」
「分かった、コンラッドな。俺の名はしぶ・・・・・じゃなかった、ミツエモンって言うんだ。よろしくな」
「ミツエモン・・・・ではミツエモンさんと呼ばせていただきます。何故でしょう・・・あまり聞いた事の無い珍しい名でも、あなたの名だというだけでとても素晴らしい名だと思えてきます」
「そ、そうかな・・・?」
ミツエモンはコンラッドの歯の浮く様な台詞を聞いて苦笑いしか浮かばなかった。
「えいっ!」
ヒュッ・・・・・
ジュリア姫の回し蹴りがコンラッドに炸裂しそうになった・・・・・。
「・・・・はっ!」
身の危険を察知したコンラッドは寸での所で蹴り交わした。
コンラッドはいきなり蹴りを喰らわされそうになった拍子で、今度は別の意味で心臓をドキドキさせた。
「な・・・な・・・いきなり何するんですか、ジュリア姫!!それに、ミツエモンさんにあなたの蹴りが当たったらどうするんですか!?」
「失礼ね、私がそんなへまする訳無いでしょう?大体ね、あなたから不穏なオーラを察知したから邪念を振り払ってあげようと思ったのよ」
「不穏って何ですか!?まるで俺が変質者みたいな言い方じゃないですか!!」
「変わりないわよ(キッパリ)今正に、いたいけなミツエモン君に手を出さんばかりの勢いだったじゃない。相手が男の子でも目が合っただけで相手を妊娠させそうなんだもの、コンラッドって」
「そんな器用な事出来る訳無いじゃないですか!!」
ジュリア姫とコンラッドの言い合いはそんなこんなで続いた。
「「「・・・・・・・・・・」」」
ミツエモン、スケさん、ミレーユは呆然と2人のやり取りを見ていた。
「・・・・っぷ」
3人の沈黙を先に破ったのがミツエモンであり、思わずぷっと噴出していた。
「ふふっ・・・あははは、ジュリアさんとコンラッドって面白いな」
ミツエモンは腹を抱えて笑い出した。
「ミツエモン様、そんなに笑っては2人に失礼ですよ?」
ミレーユもそう言いながら、何だかんだで楽しそうだ。
呑気なミツエモンにこの場にいる者はすっかりと毒気を抜かれた様に皆笑い出す。
そんな中、スケさんだけが何も言わずジュリア姫をじっと見つめた。
スケさんはジュリア姫の目の前に行った。
「・・・・・・・・」
「どうしたの?スケさん」
自分を見つめるスケさんに、ジュリア姫は不思議そうな顔して話し掛けた。
「悪いな、少し失礼するぞ」
「キャッ・・・!?」
暫らく無言だったスケさんはジュリア姫を地面に座らせた。
「ジュリア姫!貴様、何のつもりだ!?」
一応コンラッドはジュリア姫の従者である為、万が一彼女に危害を加えないかと身構えた。
「ちょっとスケさん、いきなりどうしたんだよ?」
ミツエモンはオロオロしだした。
その正反対にミレーユはいつもと見慣れない光景に若干わくわくしている様だ。
「う〜ん、あのスケさんが女性に積極的な行為をするなんて始めて見ますね」
「そんな呑気な事言ってないでスケさんを止めてあげて、ミレーユさん!」
ミツエモンが慌てるも束の間、スケさんはジュリア姫の右つま先を少し力を加えてぐいっと引っ張った。
「痛っ・・・・」
「・・・・やっぱりな」
「もしかして・・・・あなた気づいてたの?」
「気づいたのは途中からだけどな」
ジュリア姫とスケさんの話しの意味が分からず、コンラッドはスケさんに理由を聞いた。
「気づいたとはどういう事だ?」
「姫さん、足怪我しただろう?」
「怪我?!怪我とはどういう事ですか、ジュリア姫!?」
「落ち着いて、コンラッド。怪我と言ってもそんな大げさな事では無いわ」
「あぁ、腫れが目立たない所を見ると軽い捻挫って所だな。さっきの巨大猪を回し蹴りした時だろう?」
「よく気づいたわね。あの猪も思ったより肉体が強靭だったみたいね、油断したわ。私もまだまだ修行が足りないわね」
「当たり前だろう、あれはこの森最強の主だ。むしろこれ位で済んで、かなり運が良いぞ」
「運が良いんじゃなくて、私の実力よ。そんな事より、いつから足の事を気づいたの?」
「姫さんがコンラッドって奴に回し蹴りをした時だよ。猪にした時は右足だったのに、あいつにした時は左足だった。それを見てもしかして・・・って思ってな」
「そう、大した事じゃ無いから気にしなくても良かったのに」
「そういう訳にもいかないだろう。治療してやるから、動くなよ?」
スケさんは懐から何かの葉を取り出し、ジュリア姫の右足首に葉を当て自分のマントを破って包帯代わりにその上に巻いた。
そして最後にそっと手を当てて治癒術を施した。
「あなたも魔術が使えるの?」
「まぁな、俺はそれなりに魔力が高いと言われたからな。使える様な魔術は一通り勉強して覚えた」
「そうだったの。私も魔力はそれなりにあるし治癒術は使えるのよ」
「だったら何で自分で治癒しなかったんだ?」
「なるべく自然の治癒力で治る傷ならそれで治したかったの。あまり魔術に頼ってばかりじゃあ、自然治癒力の力が衰えそうじゃない?」
「そうだな。なら本当に応急処置程度にしてやるよ」
「そうしてくれると助かるわ。悪いわね、せっかくの厚意で治そうとしてくれたのに」
「気にするな、俺は姫さんみたいな考えは嫌いじゃ無ぇからな」
「そ・・・そう///」
普段この様な行為にあまりしなれてないジュリア姫は胸がドキンとした。
お転婆で破天荒な彼女は決して人に弱みを見せない主義だ。
自分の失敗で軽い怪我を負った時なんかは、皆に心配掛けまいと毎度内緒にしていた。
今回もそうだったのだ。
しかし、そんなジュリア姫のちょっとした異変に気づいたスケさんを、ジュリア姫は不覚にもトキめいてしまったのだった。
「そ・・・それより、先程私に使った葉は薬草にも使える葉でしょう?」
「よく知ってるな。この森に生えてる葉なんだぜ。ミツエモン坊主を捜索してる途中に見掛けたから何かの役に立つと思って少し摘んできてな、摘んで正解だったな」
応急処置が終わってスケさんジュリア姫の足から手を離した。
「よし、これで応急処置は終わりだ」
「ありがとう、スケさん」
応急処置の終えたジュリア姫を心配してミツエモンも近寄って来た。
「ジュリアさん怪我してたの?!ごめん、俺全然気づけなくて・・・・」
ミツエモンはしょぼんとした顔をした。
「そんな、ミツエモン君は悪くないんだから気にしないで」
「でも・・・・」
「大丈夫よ、軽い捻挫なんだから少し休めば直ぐに治るわ」
「ジュリア姫、これを機にお転婆は少々控えて大人しくしてくださいね」
「ドサクサに紛れて何を言うのよ、コンラッドったら。私の性格ならいつまでもじっとしてるなんて無理な話しに決まってるでしょう」
「ちっ・・・」
コンラッドは軽い舌打ちをしたのは言うまでも無かったのだった。
「・・・・べぇ〜い〜かぁ〜!!」
「「「「「・・・・んっ?」」」」」
何処からともなく、またもや別の声が遠くから響き渡ってきたような気がした。
「今なんか聞き覚えのある声が聴こえてきませんでした?」
「ミレーユさんも聴こえた?実は俺も・・・・」
「あぁ、俺も聴こえたぜ。何か嫌な予感がしてきたぜ・・・・」
「ミツエモン君を捜索しに別の護衛でも来たのかしら?」
「そ・・・そう、もしかしたらそうかもしれない」
ミツエモンは苦笑いを浮かべた。
「確か『べいか』とか聴こえた気が・・・・」
コンラッドがそうぽつりと言うと、ミツエモン達3人はギクリとした。
「き・・・気のせいじゃないか?ここには『べいか』なんて奴はいないぜ?」
スケさんはそう言うが、コンラッドは何か納得してない様な顔しながら言った。
「そうか?でも確かにそう聴こえたんだが」
「だからコンラッドの気のせいだよ、きっと」
「そうですね。あなたがそう言うなら、きっと気のせいですね」
ミツエモンに言われるとあっさりと納得するコンラッドであった。
コンラッドが恋をするとここまで廻りが見えないと言うか、アホになるのか・・・・・。
「べぇ〜い〜かぁ〜!!」
そうこう言ってる内に声はどんどんと近付いて来る。
「わわっ、この声はきっとギュンターだ!ミレーユさん、どうしよう?」
「そうですね・・・いっそ一思いに弓矢で射抜きます?」
「そういう物騒なのは絶対駄目!」
「ですがミツエモン様、このままギュンターがこちらに来ると・・・・」
ギュンターはあっという間にこの場に到着し、ミツエモンにガバーっと抱きついた。
「べぇいかぁ〜!よくぞご無事で!!このギュンター、べいかがいなくなっただけで身を引き裂かれる思いでしたぁ〜!(泣)」
ギュンターはギュン汁大放出しながらミツエモンに抱きついたまま離さない。
「悪かったって、ギュンター。だからギュン汁拭いて、とりあえず落ち着こう?なっ?」
ミツエモンはギュンターを引き剥がし宥めた。
「あぁ・・・陛下・・・。こんな私如きになんともお優しいお言葉を・・・」
ギュンターは異常なまでにミツエモンを崇拝している様だ。
そんな事より、ギュンターの『陛下』という台詞にジュリア姫とコンラッドは反応した。
「ミツエモンさんが・・・・陛下?」
「ミツエモン君、陛下ってどういう事?」
「え・・・えっと、その〜・・・」
ジュリア姫とコンラッドはじっとミツエモンを見つめてた。
「ここまでバレたらもう本当の事を話すしかないか・・・・」
「「本当の事?」」
ミツエモンは『はぁ・・・』と一息吐いて話し出した。
「ジュリアさんにコンラッド、騙してごめん。俺、ミツエモンって名じゃ無いんだ。俺の本当の名は渋谷有利。一応、魔族を統べる魔王陛下という役職になってるらしいんだ」
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