コンラッドの医療部隊1日体験談
本日のコンラッドの任務は医療部隊の警備である。
この場にいるコンラッドの存在に気づいたジュリアは彼の方へと歩み寄って行った。
「今日はコンラッドが医療部隊の警備に着いてくれるのね」
「あぁ、医療の事はあまり詳しくは無いがその分しっかりと警備させてもらうよ」
「そんな畏まらなくてもいいわ、医療部隊の警備と言っても何も無ければゆっくりしてもらってもいいのよ」
その代わり忙しくなった時は覚悟しといてね?
「それじゃ何も無い事を祈ってるよ」
笑いながら会話するコンラッドとジュリアだった。
眞魔国3大魔女の一人と称される白のジュリアとコンラッドの出会いは、十貴族の一員であるフォングランツ卿アーダルベルトとの結婚目前に控えた花嫁衣裳選びの日であった。
2人は出会って以来、同じ平和を願う者同士として親密になった。
あまりに仲睦まじいので、周囲からは恋人同士の関係なのではないだろうか?と噂されるくらいであった。
コンラッドはジュリアの事を何より大切でずっと守っていきたい思っている。
しかし、ジュリアには惹かれる何かはあったとしても恋人関係になりたいとは思っていない。
むしろアーダルベルトと結婚して彼女は誰よりも幸せになってほしいと願っていた。
「それにしても今日は良い天気ね」
ジュリアは身体を伸ばしながら外の日差しを浴びて気持ち良さそうだ。
眞魔国はつい先日まで雨続きだった為、久しぶりに晴れに恵まれたのだった。
「ジュリアは晴れの日が一番好きなのか?」
「そうね、晴れた日が一番好きかしら外に出られるもの。でも雨の日も嫌いじゃないわ、汚れた空気を洗い流してくれて次に晴れた日は空気がとっても美味しいわ」
コンラッドも晴れの日が一番好き?
「そうだな、俺も晴れた日が一番好きかな」
「なら私と一緒ね」
2人で仲睦まじく会話を交わしていた時・・・。
「ジュリア様、大変です!!」
兵士がジュリアの元に慌てながら駆け寄って来た。
「何かあったの?」
「前日までの雨続きにより地盤が緩んでたらしく、軍の登山訓練中に土砂災害が起こり怪我人が多発しております」
報せに来た兵士は相変わらずに慌てながら報告した。
「落ち着いて、現状はどうなってるの?」
「ただ今こちらに負傷した者達を搬送するところであります。ミレーユ様とギーゼラ様が既に現場に到着し、応急処置を行っております」
「分かったわ、あなたも負傷した人達の搬送の手伝いに向かってくれる?」
「はっ、かしこまりました」
報せに来た兵士がいなくなってからその場の空気が変わった。
コンラッドはジュリアに目を向けて見ると何やら様子が変で、いつもの彼女の雰囲気とは違ったような気がした。
その時、言いようのない緊張感が漂ってきた。
何故だかコンラッドにも回りの緊張感がひしひしと伝わってきた。
そう・・・・・
これが俗に言うジュリアの軍曹モードスイッチオンの瞬間であった。
「皆のもの現状は聞いてのとおりだ、これから怪我人がこちらに送られてくる。それぞれの持ち場に着いて自分達の役割を遂行せよ!」
「「「「「はい!ジュリア軍曹殿」」」」」
医療部隊の人達がジュリアの言葉と共に速やかにそれぞれの持ち場に着いて行動を起こしたのだった。
一方コンラッドはジュリアの変化と医療部隊の皆が『ジュリア軍曹殿』と言った言葉の意味が分からず軽く混乱していた。
それはそうだろう、普段なら彼女の事を『ジュリア様』とか『閣下』と呼ぶのにこの時だけ軍曹殿と読んでるのだから。
「コンラッド、魔力は無くても雑用ぐらいは出来るだろう。今すぐ医療具の準備をしている者達を手伝って来い!」
「あ・・・あぁ、分かった」
「返事は『はい』だろう馬鹿者!!」
「は、はい!ジュリア軍曹殿」
コンラッドは何故だか自分も『ジュリア軍曹殿』と呼ばなければいけないような気がして彼女の豹変に混乱しつつも素直に命令に従った。
「コンラッド、次は傷薬の原料となる薬草を持って来い!」
「はっ、ジュリア軍曹殿」
コンラッドはいびられながらもジュリアの命令に従い薬草を持って来た。
「これは火傷に効く薬草だろう、土砂災害で火傷を負う者が何処にいる?!分からなければ聞くなり何なりせぬかボケ!!」
「申し訳ありませんでした、ジュリア軍曹殿」
「コン・・・いや貴様のまどろっこしい名などこの際どうでもよい。貴様の呼び名は今から『子分その1』で十分だ、分かったな?」
「はい!自分は今から子分その1であります」
ここまで言われれば普通は誰だって怒るだろう。
しかし、今のジュリアには絶対に逆らってはいけないとコンラッドの本能が告げているのであった。
「よしっ、ならもう一度薬草を取り直して来い。今度は間違えるなよ子分その1」
「了解しました」
ジュリアに怒鳴られながらではあるが、着々と治療の準備は整っていった。
「子分その1、ここはもういいからお前も負傷者を搬送する手伝いをして来い」
「かしこまりました、ジュリア軍曹殿」
コンラッドはジュリアの命により、搬送の手伝いに向かった。
負傷者を医療部隊が待機しているところまで搬送したコンラッドは、つい足元がぐらついてしまい負傷者を転ばせてしまった。
すぐさまコンラッドはすまないと謝罪し抱き起こそうとしたのだが・・・・
「怪我人はもっと丁重に扱わぬかドアホ!!」
怒鳴られながらジュリアの鉄拳をもろにくらった。
彼女の拳は女性とは思えぬ程重く、不覚にも伸びてしまったコンラッドだった。
そんなコンラッドに追い討ちを掛けるように、ジュリアはオケに汲んだ水をぶっ掛けて叩き起こした。
「貴様が伸びてしまうとは何事か?!そんな腑抜けた根性は私が今日ここで鍛え直してやるから感謝しろ!」
「申し訳ありません、自分はジュリア軍曹殿に鍛えられていただける身で幸せであります」
こうしてジュリアに怒鳴られ、殴られながらコンラッドの1日は過ぎていった。
最後の方はコンラッドも立派?な怪我人の一員で医療部隊の人に治療してもらったのだった。
・・・・数日後・・・・
あの騒動からようやく落ち着きを取り戻してきたコンラッドにアーダルベルトが声掛けてきた。
「よぉ久しぶりだなコンラッド、この前はジュリアに散々いびられたそうだな」
「あぁ久しぶりアーダルベルト、ジュリアは仕事の時はいつもああなのか?」
「まぁな、あまりの豹変っぷりに俺も最初はド肝を抜かれたぜ。お前もあの豹変っぷりには驚いただろう?」
それはもうコンラッドにとっては驚いたの一言では済まされない体験だった。
ははは、と笑うアーダルベルトだがコンラッドからしたら笑い事では無い。
今思い出すだけでも身震いが止まらない・・・・
そんなジュリアの婚約者でいられるアーダルベルトは大物だなと思いまじまじと見つめてしまった。
「んっ、どうした?」
「いや、ジュリアの婚約者でいるお前は大物だと思ってな」
「ジュリアは見た目に騙される奴が多いからな、今でも優しくて純粋な女性と思って疑わない奴が多いだろう。俺も結婚の条件が急所に鉄拳をくらってから1分以内に立ち上がる事だったからな」
「あのジュリアの鉄拳をくらって1分以内に立ち上がれたのか?」
「あぁ、確かジュリアも・・・・」
『私の拳をくらって1分以内に立ち上がれた人はあなたが初めてよ・・・何て頑丈な方、気に入ったわ結婚しましょう!アーダルベルト』
「・・・・と言ってたな」
「流石だな;」
アーダルベルトの言葉に苦笑したコンラッドだった。
やはりジュリアの相手はアーダルベルトにしか務まらないとしみじみ思う。
何せ、自分はジュリアの鉄拳をくらって立ち上がるどころか伸びてしまったあげくに水をぶっ掛けられ叩き起こされたのだから。
ジュリアに惹かれるのは平和を願う美しい心が原因だろうと思ってたが、今では色んな意味での尊敬に値する憧れから来るのだろうと再認識した。
他の皆は恋人同士と傍迷惑な噂を流しているが、実際のコンラッドにとって今のジュリアとの関係は姉・・・いや姉御のような感じであった。
「そういやジュリアがあの時は手伝ってくれて助かったと言ってたぜ」
あれでも一応感謝されてたのか。
『また手伝いに来てくれると嬉しいわ(にっこり)』
「・・・とも言ってたな」
そんなアーダルベルトの発言に・・・
(ジュリアの元で働くのは二度とごめんだ!!)
そう心の中で思ったのはコンラッドだけの秘密である。
END