一目惚れは突然に
「ジュリア、俺は何年何組の子を護衛すればいいのかそろそろ教えてくれないか?相手の顔が分からなければ護衛のしようがない」
ジュリアはキョトンとした顔で答えた。
「あら、コンラッドに言って無かったかしら?護衛してほしい子はこの町に住んでても、この学校の子じゃ無いわよ」
聞いてません!だったらジュリアは何でここの学校に転校して来たんだ?
まぁ聞いた所で、ジュリアの返答は大体予想出来るが。
「ここじゃないって言っても、私の親戚が通ってる学校はここと同じ町中にある学校だから直ぐ近くよ。同じ学校に転校しても良かったんだけど、手近に使える者がいないと何かと
不便だからこの学校を選んだのよ」
ジュリア・・・・その『使える者』って、間違いなく俺の事ですよね?
予想通りの転校理由で内心溜め息のついているコンラッドだった。
放課後の帰り道、コンラッドは長年腐れ縁であり同じ剣道部である幼馴染にジュリアの事で愚痴っていた。
勿論、ジュリアはその場にはいない時を見計らっていてなのだが。
そうでなければコンラッドは、今頃確実にジュリアからボコされているであろう。
一通りの愚痴の内容を聞き終えた幼馴染のヨザックは、腹を抱えて笑い転げていた。
「ぶははは、ジュリア嬢最高」
「五月蝿い!笑いすぎだヨザ」
「まぁそう怒るなよ、コンラッド。ジュリア嬢はそれだけお前さんを頼りにしてるって事なんだろ?」
「頼りと言うか、ジュリアは完全に俺の事を『子分』とか『パシリ』としてしか見ていない」
・・・・確かに。
「俺の方も手近に憂さ晴らし要員がいるからストレス解消を出来て良かったよ、ヨザ」
コンラッドの奴、きっとジュリア嬢のせいで溜まったストレスを、今まで俺に憂さ晴らししてたに違い無い。
だってコンラッドったら、グリ江の扱いがもの凄く酷い時があるんだもの。
もう、我が部の部長ったら本当に腹黒なんだからグリ江の身が持たないわよ。
ドコォ!!
コンラッドは、いきなりヨザックの頭を殴った。
「痛てて、何するんだよ!?コンラッド」
「誰が腹黒だって?」
コンラッドはヨザックに、ギロリと一睨みした。
「やっ・・・やーね部長ったら。グリ江はそんな事を一言も言って無いじゃなーい」
恐ぇー、こいつ絶対に人の心の中を読んでるよ。
「まぁいい、今回は見逃してやる」
た・・・・助かった、今の内に別の話題に逸らさなければ。
「そ・・・・そういや、ジュリア嬢に頼まれた護衛する子ってどんな子だったんだ?ジュリア嬢が力説する程のカワイコちゃんなんだろう?」
「知らん、俺はまだその子に会っていない」
その内に紹介するとジュリアは言っていたが、いつになるかは分からない。
「ジュリアが言うには、護衛の件はその子には悟られ無い様隠密に行うそうだ」
「影ながらその子を守るって訳だ。まぁ、ジュリア嬢らしいと言うか何と言うか・・・・」
「そういえば、お前にも協力を要請しておけとジュリアが言ってたぞ?」
「はっ?俺も協力するんすか?」
「あぁ、ジュリアが言うには『使える者は何でも使え!』らしい。だからお前も協力しろ」
あのジュリアなら、使える者だったらそれが例え不審者でも使うだろう。
コンラッドの中での彼女はそういう性格の女性となっていた。
「何で俺まで・・・・でも、護衛する子が俺好みのカワイコちゃんだったら喜んで協力したいけどな」
「どんな子だかは知らんが手を出さない方が身の為だぞ?ジュリアが大層気に入ってる子みたいだからな、手を出したらジュリアから容赦無くボコされるぞ?」
コンラッドはマジな顔してジュリアからボコされる事を、ヨザックに伝えた。
それが冗談などでは無いと悟ったヨザックは、俄かに恐怖で顔を引きつらせていた。
「ははっ、そりゃ恐えぇな」
ヨザックにとってコンラッドだけでも怒らすと恐いのだ。
そのコンラッドが唯一逆らえない相手を怒らすとなると、どんな恐ろしい事が待ち受けているかなどヨザックには想像したくも無かったのだった。
帰路の途中、グランドで草野球をしている少年達をコンラッドとヨザックは見掛けた。
その少年達を見た2人は、あの子達は平和そうでいいなぁっと思っていた。
「あの少年達には悩みが無さそうでいいねぇ。全く、何で俺までお前の事で巻き込まれなきゃいけないんだか」
「それがお前の運命だ、諦めろ・・・・」
ヨザックとの会話の最中、背後から突然誰かの声が聞えてきた。
「危ない、避けて!」
ドカ!!
野球のボールがコンラッドの後頭部にクリーンヒット。
草野球をしていた少年達のボールが飛んできてコンラッドの後頭部に当たった様だ。
「あ・・・・あの部長!?大丈夫っすか?」
ヨザックは恐る恐る聞いてみた。
今はあまり機嫌のよろしくないコンラッドの反応が非常に恐くて、この場から逃げ出したい気分でいっぱいになった。
一方コンラッドは、(誰だ!?俺にボールぶつけたのは。しばくぞ、こらぁ!!)など物騒な事を思っていた。
「すいませーん、大丈夫ですか?」
背後から聞こえてきた声の少年に、文句を言って憂さ晴らししてやろうと思いながらコンラッドは振り返った。
また、ヨザックもこっちに来た少年に逃げた方がいい事を知らせようと思い、慌てながら振り返った。
しかし、次の瞬間にはコンラッドとヨザックの2人は、ボールを拾いに来た少年を見て固まってしまった。
ボールを拾いにきた少年は小柄で可愛らしく、双黒の髪の毛と大きな瞳をした少年だった。
髪の毛は野球帽で隠れているが、さらさらと風になびいて手触りが良さそうだ。
その姿を見たコンラッドは少年に見惚れていた。
(こんな可憐で愛らしい人は今まで見た事が無い!)っと。
ヨザックも少年に見惚れたが、コンラッドより復活したのが早かった。
コンラッドの方をちらりと様子を覗って、少年に危害をあたえそうにないのを見て一安心した。
「本当にごめんなさい!怪我はありませんか?」
少年は、反応の無いのを見て心配になった。
ぶつけた所が悪くて、変になってしまったのではないかと。
「あの〜、もしもし?」
「あぁ、心配しなくても大丈夫っすよ。この人は色々と鍛えられて打たれ強いですから」
コンラッドがこの程度で倒れてたら、ジュリア嬢の鉄拳を1発でもくらったら間違いなくあの世に行ってるよな。
「本当に大丈夫ですか?」
少年はコンラッドの顔を覗き込む。
コンラッドと少年の身長差はかなりある為、少年がコンラッドを覗き込む時は自然に上目遣いになってしまう。
その少年の仕草に、コンラッドのハートにさらにズキューンっと来た。
コンラッドはその少年を今すぐ押し倒したい衝動を必死に抑え、笑顔で少年に話しかけた。
「そんなに気にしないでください、俺なら大丈夫ですよ」
「そうですか、良かった〜」
他の女性だったら間違いなく見惚れる笑顔だが、少年には効果が無い様だ。
しかし、コンラッドは負けじと少年にアブローチしようとする。
「あの、あなたの・・・・」
「おーい、渋谷。早く来ないと置いてくよー」
少年の名を尋ねようとしたら遠方から少年を呼ぶ声に邪魔されてしまった。
「今行くからちょっと待ってー」
草野球をしていた少年達は道具を片付け終えて帰る所だった。
「友達が呼んでるので俺は行きますね。ボールぶつけちゃって本当にごめんなさい、それじゃあ」
『渋谷』と呼ばれた少年はコンラッドとヨザックにお辞儀をして、その場を去って行った。
「おい、ヨザック」
「何すか?部長」
「どうやら俺はあの『渋谷』という少年に一目惚れしたらしい」
「そんなの見てて一目瞭然です。だって部長とあの子が話してる時、俺の事眼中に無かったでしょう?」
「あぁ、お前の存在など本っ気で忘れてた」
キッパリと言い放つコンラッドに、ヨザックは涙を流しながら(やっぱり)っと思った。
「お前の事などどうでもいい。俺は必ずあの少年を見つけ出し、いつかは恋人同士の関係になってみせる!」
「はぁ、頑張ってくださいね」
ヨザックはコンラッドにエールを送りつつ、厄介な人に好かれたもんだと少年に同情していた。
所変わってコンラッド達とは別の場所。
何故かアーダルベルト番長と一緒にいるジュリアは、ぞくりと嫌な悪寒を感じていた。
「どうした?ジュリア」
「何だかとてつもなく嫌な予感がするわ」
「そうか、そりゃあ不吉だな」
「あっ、今どうでもいいと思ったでしょう?アーダルベルト。私の勘はよく当たるんだから」
「そんな事より、どうしてお前が俺の後を付いてくる?」
「面白そうだからよ」
END
コンラッドは『ユ』の付くあの子に一目惚れちゃいました(笑)
しかし、話しが相変わらず進まずにすいません。
しかもこのシリーズは番長が主役なはずなのに、今回は出番がめちゃくちゃ少ない(汗)
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