軍曹殿の内緒の秘め事
深夜になり、今日の任務を終えた私は自室へと戻って来た。
さぁ、ここから私の毎晩の日課の始まりだ。
誰にも・・・ましてやお義父様にも言えない、私だけが知ってる内緒の秘め事。
ベット脇に大事に飾ってある編みぐるみに、私はそっと話し掛ける。
「ただいま、ジュリア」
『お帰りなさい、ギーゼラ。今日もお勤めご苦労様』
ふと、そんな声が編みぐるみから聴こえてきた様な気がした。
フォン・ヴォルテール卿閣下から頂いた編みぐるみに何気なくジュリアと名付け、私はずっと大事にしてきた。
今は亡き尊敬する上司であり、大切な親友の名。
もう2度と会う事の叶わない人だが、ジュリアと名付けた編みぐるみを傍に置くだけで彼女が近くにいる様な気がした。
そして、いつからか編みぐるみのジュリアからジュリアの声が聴こえてくる様な気がして、いつの間にか編みぐるみに話し掛けるのが毎晩の日課になっていた。
ギーゼラはジュリアを抱っこしながら、ベットにごろんと横になった。
「ねぇ、ジュリア。今日も私の話しを聞いてくれる?悪いけど、今日の話しも昨夜と同じ内容よ?」
『やーね、あなたと私の仲じゃない。そんなの気にしないで、惚け話しだろうが何だろうが遠慮せずドーンと話してちょうだい』
ふふっ、またあなたの声が聴こえた。
他の人がこの光景を見たらその声は幻聴だと笑われるかもしれない。
でも、何となくでも私には聴こえてくる彼女の声。
ジュリアが言った言葉に私は思わず苦笑してしまった。
あなたが生きていた頃はいつもそんな感じだったものね。
「惚け話しをしていたのはジュリアの事でしょう?あなたが生きてた頃は婚約者の惚気話しを散々聞かされたんだから」
ギーゼラはそう言いながら編みぐるみのジュリアをギュッと抱きしめる。
「最近、妙に男前になってきて何だか悔しいのよね。信じられる?あの我が侭プーがよ?」
私より少し年下で、幼馴染みのヴォルフラム閣下。
本人の前では決して言えないけど、最近の閣下はちょっとだけカッコよく見えてしまう。
いつまでも頼り無い弟みたいな存在だったのに、いつのまにか私より大きい存在になったみたい。
「これも、ユーリ陛下の御力なのね・・・・」
その事実が誇りに思えるのと同時に、少しだけ悔しいと思うのは何故かしら?
ヴォルフラム閣下が成長なさるのは喜ばしい事の筈なのに、そんな思いを抱くなんて不謹慎よね。
「私・・・、自分の気持ちがよく分からない。ヴォルフラム閣下の事も、ユーリ陛下の事も凄くお慕いしているのに、何故か御2人が一緒にいると心がざわつくの。閣下と陛下は婚約者同士だから一緒にいる事なんて不思議な事じゃ無いのに」
あれ・・・?心がズキンとして痛い。
「ジュリア、これって私がヴォルフラム閣下に恋してるって事になるのかしら?」
思わずぽつりと囁いた言葉。
ギーゼラは一瞬思考が停止して、室内がシーンと静まり返った。
「えええ〜〜〜???!!!///ちょ・・・ちょっと待ってよ!確かに、ヴォルフラム閣下の事は嫌いじゃないけど、閣下は既に陛下と婚約してる身で私なんか入る余地も無いって言うか・・・・大体、私はそんな風に閣下を見た事なんて1度も無い訳で・・・・///」
『落ち着いて、ギーゼラ。あなたもやっと恋する乙女になったのね。大切な妹分が手を離れたみたいで、お姉さん少し寂しい気もするけど応援するわ』
「だから違うってば!!///確かに、最近はカッコよく見える時もあるけどまだまだ我が侭プーには変わりないんだから!」
『ふふっ、照れる事無いじゃない。私もアーダルベルトに恋してるから、今のギーゼラの気持ちはよーく分かるわ』
「私は別に我が侭プーなんかに恋なんか、し・て・い・ま・せ・ん!」
トントン・・・・。
いきなりのノック音に、ギーゼラの体がビクリと強張った。
ギーゼラは恐る恐る扉の方へ振り返り、どうぞと返事をした。
そこへ入室して来たのがギーゼラの義父であるギュンターであった。
「ギーゼラ、大声なんか出してどうしました?我が侭プーがどうとか聴こえてきましたが」
「お義父様、何でもありません。夜分に騒がしくしてしまってすみません」
「何も無ければ別に構いませんよ。明日も医療部隊の仕事があるのですから、早く休むのですよ?ギーゼラ」
「はい、お休みなさい。お義父様」
ギュンターも微笑みながらお休みなさいとギーゼラに返し、部屋を退室した。
ギュンターの退室後、ギーゼラはふぅと一呼吸した。
今夜はもう編みぐるみのジュリアに話し掛けるのは止めた方が良さそうね。
「その話しは今夜はもうおしまい。また明日の晩ゆっくりと話しましょう、ジュリア」
『そうね、そうしましょう。ギーゼラも少しは自分の気持ちに素直になってね』
編みぐるみのジュリアはその言葉を最後に、何も喋らなくなった。
今夜はもう話し掛けても応えてはくれないだろう。
「まったく、相変わらずおせっかいなんですから」
白状すると、今のヴォルフラム閣下に私は惹かれかけているのかもしれない。
ユーリ陛下の隣に仕えて、日々成長なさる閣下が・・・・・
だから、この想いがもし恋だったとしても決して打ち明ける訳にはいかない。
ヴォルフラム閣下が大切に想ってらっしゃるのはユーリ陛下ただ1人なのだから。
今はこうしてジュリアに話しをするだけで満足よ。
さぁ、今晩の日課は終わりにしよう。
また明日になれば情けない一兵卒共を鍛え上げなければいけないのだから。
「お休みなさい、ジュリア」
ギーゼラは編みぐるみのジュリアを抱きしめたまま眠りについたのだった。
END
実はヴォルギーも大好きなんですよvvvv
でも今回はヴォル×ギーと言うよりヴォル←ギーですな(汗)
どうかギーゼラの想い人がヴォルフであります様に(><)
return