打たれ強くなる兵士達
ユーリが眞魔国に来てから早数ヶ月。
召喚された当初からユーリの愛らしい容姿と優しい心で眞魔国の皆から暖かく迎え入れられた。
俺もめでたく愛しいユーリの護衛の任につけて一安心といきたい所だが、ユーリは我が天敵である3大魔女の1人と称される白のジュリアに大層気に入られている。
何故だか俺がユーリに対して恋心抱くのを良く思ってないようである。
決まって俺とユーリの2人きりでいるいい雰囲気の時は何処からともなく現れては雰囲気をぶち壊される日々を送っていたのだった。
「おしっ、今日の執務終わったー」
「お疲れ様です陛下」
「陛下なんて呼ぶなよ名付け親」
「そうでしたユーリvv」
「それより今日はやけに機嫌がいいね、何かあったの?」
「内緒ですよ♪」
「ケチー!」
今のコンラッドは今からスキップして駆け出しそうな程機嫌が良さそうだ。
それもそのはず、今日はジュリアの邪魔が入らないという確信があるからだった。
今日のジュリアは医療部隊の部下を医療術の稽古をつけるという仕事があるので2人の邪魔は出来ないのであった。
「しかし今日の医療部隊の稽古はジュリアが見るそうですから付き合う一般兵士達は気の毒ですね」
「なんでジュリアさんが見ると気の毒なの?そりゃ負いたくもない怪我をわざと負わなくちゃいけないのは気の毒だけど、すぐ治療してもらうんだし」
「ジュリアが見る日は特別だからですよ」
「ふーん?」
ユーリはよく意味が分かってないようだが、分からない方が幸せだろう。
何故なら医療部隊の稽古にはユーリの言うとおり一般兵士達が自ら怪我を負って治療してもらうのだが、ジュリアが稽古つける日は彼女が直々に兵士達に怪我を負わせるのであった。
何を隠そうこのウェラー卿コンラートも20年前の戦争で腸をはみ出す程の大怪我を負っても無事でいられたのは、医療部隊の稽古がある度に付き合わされジュリアから無残な程ぼこぼこにされていた賜物と言えよう。
・・・その頃ジュリアはすでに鬼軍曹化していた・・・・
「いいか?貴様等よく聞け、戦争なので大怪我を負った者は1分1秒を争うので行動は常に速やかに行わなければいけない・・・・、そこの者!今から5分以内に傷薬と消毒液と包帯を持って来い」
「はっ、自分でありますか?」
ジュリアが指名したのは医療部隊の訓練に付き合わされている一般兵の1人だった。
「そうだお前だ、人手が足りない時は医療部隊以外の者でも動いてもらう。これはその時の訓練も兼ねているのだからな。5分以内に持ってこなければ貴様をミンチにしてゾモサゴリ竜の餌にするからそのつもりでいろ。分かったらさっさと動け亀!!」
「は、はい!!」
ジュリアの鬼気ごとくの睨みと脅しで一目散に行動に移したのだった。
「それから医療部隊の者達は医療術の訓練を行う」
ジュリアの言葉に残った一般兵達は凍りついた。
医療術の訓練を行うことは、即ち自分達がジュリアから怪我を負わせられなくてはいけないからだった。
「医療部隊以外の兵は私の前へ来い!」
本来ならこの場から逃げ出したい一般兵達だが、逃げたら後が余計に恐いので大人しくジュリアの言葉に従うしかなかったのだった。
「よし、覚悟はいいな?」
これがジュリアからの最終宣告の言葉だった・・・・
この時のジュリアは既に殴る気満々で腕をぼきぼき鳴らして準備万全だった。
そして・・・・・
ドコォ、バキィッ、ボコォ、グシャッ!!
・・・・・・・・グシャッ?
「・・・・ねぇ、コンラッド。今トマトが潰れた様な音が何処からか聞こえなかった?」
「・・・・さぁ?メイドがトマトでも落としたんですかね?」
コンラッドは顔を引くつかせながらはははと笑いジュリアに殺られているであろう兵士達に心の中で合掌した。
「でもその前には何か殴られてるような音が聞こえたし、もしかして喧嘩?行ってみようコンラッド!」
「あっ、ちょっと待ってくださいユーリ!」
コンラッドの制止も聞かず音のあった方へ駆け出してしまったユーリだった。
ユーリが向かう先にはジュリアがいるはずなのであまり行きたくはないコンラッドだった。
しかしユーリを1人で行かせるわけにはいかないのでコンラッドもユーリの後を追って行った。
「ジュリアさん!」
ユーリが向かった先には案の定すっきりした表情のジュリアが立っていた。
「あら陛下どうなさいました?」
ユーリが現れた途端にさっきの鬼気ごとくの表情はあっさりと消え優しい表情のジュリアになった。
しかし、ジュリアの背後には無残な姿になっている兵士達の残骸が転がっていた。
よく見るとジュリアにも返り血であろうか軍服に血液が飛び散っていた。
「いっ・・・今凄い音が聞こえたから来てみれば兵士さん達は凄い事になってるし、ジュリアさんにも血がついてるし何かあったの?喧嘩?」
「違いますよ、医療術の訓練に付き合ってくれている兵士達に怪我を負ってもらってたんです。私もこれから部下の見本として治癒術を掛けようとしてたところですよ」
「そうだったんだぁ、トマトが潰れた様な音が聞こえた時は何かあったんじゃないかってびっくりしたよ。付き合ってる兵士さん達も凄いね、医療部隊の人達の為とはいえあそこまで自ら大怪我を負えるんだから」
(それは違いますユーリ、その怪我は兵士が自ら負ったのではなくてジュリアが直々に負わせた物です!)
と、後から来たコンラッドが顔面蒼白になりながら心の中で突っ込んでいた。
「あらコンラッドも来てくれたのね。もしかして私達の訓練に付き合ってくれるの?」
コンラッドの存在に気づいたジュリアが何かを期待している眼差しで見てきた。
「いえ、俺は今陛下の護衛中だからね残念ながら付き合うことはできないんだ。すまない」
コンラッドは必死に動揺を抑えながらジュリアのお誘いを丁重にお断りした。
「そう、残念ね」
そう言った時のジュリアの表情は本当に心底から残念そうだった。
この時コンラッドはこの場にユーリがいて本当によかったと心の底から思った。
もしユーリがいなければ脅されて無理矢理付き合わされていたことだろう。
「ユーリ、そろそろお茶の時間なので部屋に戻りましょう」
これ以上この場にいるのはユーリの教育上良くないと判断したコンラッドはユーリを連れて早々にこの場を離れようとした。
「そうだな、それじゃジュリアさん訓練頑張ってね。兵士さん達も付き合うのはいいけど怪我を負う時は程々にね」
有難い魔王陛下のお言葉にも既に虫の息の状態だった兵士達は言葉を返す事は出来なかった。
「それではジュリア失礼します」
「あっ、ちょっと待ってコンラッド」
コンラッドを呼び止めたジュリアは。
(余計な事陛下に喋ったらぶちのめす(黒笑))
と唇だけを動かしてコンラッドを脅していった。
その時のコンラッドは体中の血の気がいっきに無くなった様に真っ青になった。
コンラッドは読唇術も身に着けていたのでジュリアの脅しは声に出さなくとも伝わったのだ。
地球へ行った時学んだ言葉、『触らぬ神に祟りなし』ならぬ『触らぬジュリアに祟りなし』という言葉がコンラッドの頭の中で思い浮かんだのだった。
首が振り切れるのでは?と思うくらい首をぶんぶんと縦に振って肯定の合図をジュリアに送ってその場を後にした。
ユーリがいなくなった後のジュリアは鬼軍曹に切り替えてびしばしと訓練の続きを行っていた。
こうしてジュリアのお陰?で打たれ強くなっていく兵士達だったとさ。
話しが段々と訳が分からない方向へ進んでしまって申し訳ないです。
ジュリアのキャラがどんどん壊れていきますが、鬼軍曹のジュリアは書いていて本当に楽しいです。(←おい)