最凶同士のご対面
アーダルベルト番長の元に可愛い女の子のお客さんが来てると知ったジュリアは、何故か不機嫌でいた。
それはもう、もっっっっっっの凄く不機嫌そうで不穏なオーラを惜しむこと無くジュリア自信から垂れ流していた。
その不穏なオーラに当てられた被害者第1号(コンラッド)と第2号(ヨザック)は、この場は早々に退散した方が得策だと判断してさっさとトンズラしたのでした。
周囲の生徒達が恐怖のどん底で縮まってる中、1人の勇敢なる女子生徒がいてジュリアに話し掛けた。
「どうしたの?ジュリア。あなたが不機嫌そうにしているせいで周りの生徒達が怯えてるわ」
その女子生徒の名はギーゼラ、ジュリアの後輩である。
ちなみに、この学校で学園長の補佐をする教員の娘だったりする。
ギーゼラは転校して来たジュリアと知り合ってから何かと馬が合う様で、直ぐに親友同士の間からとなったのだった。
そんなギーゼラにジュリアはにっこりと微笑んで言った。
「何でも無いのよ、ギーゼラ。アーダルベルトの元へ可愛い女の子のお客さんが1人や2人来ていようが私には、全っっっ然関係無いんだから」
「・・・・別にアーダルベルトの事なんて聞いて無いわ」
ギーゼラは内心溜息をしながらアーダルベルト番長に悪態を吐いた。
ジュリアの不機嫌の理由はやはりアーダルベルトですか。
男子生徒達には番長とか呼ばれて慕われてるみたいですけど、女心を分かっていない辺りはまだまだですね。
「あなたらしく無いわ、ジュリア。アーダルベルトに言いたい事があるなら面と向かってハッキリと言うべきだわ!いつものあなただったら、迷うこと無くそうしてる筈よ」
「だから、私は別にアーダルベルトに用は・・・・」
「用件は無くとも、話したい事とか何かあるでしょう?良いからさっさと行ってください」
ギーゼラはジュリアの背中をぐいぐい押し出した。
そしてジュリアに微笑みながら言った。
「たまには素直になるのも良いものですよ?ジュリア」
そう言ってギーゼラはジュリアを送り出した。
「もう、ギーゼラったら。アーダルベルトが何をしようが、私には関係無いって言ってるのに・・・・」
ジュリアは独り言の様にぽつりと囁いてから、暫し何か考え込んだ。
「・・・・でも、そうね。アーダルベルトに特定の女性が出来ても私には全く関係無いけど、2人の女性と付き合おうだなんて最低な行為よね。もしアーダルベルトが来る者拒まず去る者追わず状態みたいになったら、あのへたれと変わらなくなるわ。ここは一発、アーダルベルトに渇を入れるべきよね!」
ジュリアが握り拳をしながら雄々しく語った直後の事だった・・・・。
「はっくしょい!!」
「どうした?コンラッド、くしゃみなんかして」
「いや、何でも無い。誰か俺の噂でもしてるのか?もしかしたら、ユーリが俺の事を想って何か言ってるのかもな」
コンラッドは何やら幸せな誤解をして、1人悦に入っていた。
そんなコンラッドを見てヨザックは呆れ果てていた。
さて、話しをジュリアの方へと戻そう。
アーダルベルトに一発渇を入れると決意したジュリアは、アーダルベルトのクラスへと向かっていた。
そしたら・・・・・
ドン!
ジュリアが真っ直ぐ前を向いて歩いていると、急に足元に何かぶつかって来た。
足元に目を向けたジュリアが見たものは、小学生くらいの女の子がいた。
「痛たた・・・ごめんなさい、お姉さん」
ぶつかった事を謝罪した女の子に、ジュリアは視線を合わせて顔を覗き込みながら言った。
「私は大丈夫よ。お嬢ちゃんこそ大丈夫?怪我は無い?」
「うん、平気」
「そう、良かったわ。それより、小学生くらいのお嬢ちゃんがどうしてこんな所にいるの?ここは小学校じゃなくて高校よ?」
「うん、知ってるよ。マチョに会いに来たの」
「マチョ?」
「うん」
マチョって誰の事かしら?っとジュリアが思ってたら、また1人小学生くらいの女の子が駆け寄って来た。
「何してるの?フレディ」
「あっ、ジェイソン。フレディね、今このお姉さんとお話ししていたの」
「そうなんだ。ポニとマチョがね、勝手にうろうろ出歩くなって言ってるよ」
小学生くらいの女の子2人の顔を見ると、とてもよく似ている容姿をしていた。
「お嬢ちゃん達、とてもよく似ているわね。双子なのかしら?」
「うん、ジェイソンとフレディは双子だよ」
「そだったの。さっき私にぶつかった方がフレディちゃんって名前で、今来た方がジェイソンちゃんって名前で良いの?」
「うん、そうだよ。お姉さんは何て名前なの?」
「私?私の名前はジュリアよ。よろしくね、ジェイソンちゃん、フレディちゃん。こんな可愛い双子ちゃんと知り合えて光栄ね」
ジュリアはにっこりと笑って、双子に手を差し出しながら挨拶した。
双子はその手を取って握手しながら言った。
「「こちらこそよろしく、ジュリアさん」」
挨拶を交わした後、双子はジュリアの顔をジーっと見た。
双子の視線に不思議に思ったジュリアは問い掛けてみた。
「どうしたの?ジェイソンちゃん、フレディちゃん。私の顔に何か付いてる?」
「うぅん、何も付いてないよ」
「ただね、ジュリアさんが綺麗だなと思って見てただけなの」
双子の素直で率直な感想に、ジュリアは思わず苦笑してしまう。
「あら、お上手ね。お褒めのお言葉ありがとう、ジェイソンちゃん、フレディちゃん。あなた達もとても可愛くて十分魅力的な女性よ」
ジュリアがそう言ったら双子は頬を赤くして、恥ずかしそうにありがとうと言いながら笑った。
女3人でのほほんと戯れていると、アーダルベルト番長までもが双子を迎えに駆け寄って来た。
「何だ双子達、ジュリアと一緒だったのか。お前達知り合いだったのか?」
ジュリアはアーダルベルト番長の方を見ると、番長に1発渇を入れる当初の目的を思い出した。
俊足の速さでアーダルベルト番長の懐へとジュリアは入り込み、ひゅっと回し蹴りをお見舞いしようとした。
その蹴りをアーダルベルト番長は鍛え抜かれた、筋肉質の立派な腕でガードして受け止める。
「・・・・っと、何だよ?ジュリア。いきなり蹴りを撃ってくるとは随分とご挨拶じゃねぇか」
「私の回し蹴りを受け止めるとは・・・。私の見込んだとおり、やるわねアーダルベルト。でも・・・・」
ドコォ!!
アーダルベルト番長の割れ顎に強力なジュリアのアッパーが入った。
宙に舞ったアーダルベルト番長の巨体な肉体はぐしゃと廊下の床に倒れる。
「まだまだ詰めが甘いわね。回し蹴りはフェイントよ」
「「ジュリアさん・・・・カッコイイ〜///」」
自分の体より何倍も大きい巨体を持つ男を難なく殴り飛ばすジュリアに、双子達は惚れ惚れと見惚れていた。
「痛てて・・・」
アーダルベルト番長は殴られた顎をさすりながらむくりと起き上がった。
「あら、私の拳を直撃しても直ぐに起き上がれるなんて・・・流石ね、アーダルベルト」
「おいおい、どうしたんだよ?ジュリア。俺はお前を怒らせるような事でもしたか?」
「いいえ、私自身には何もして無いわ。でも、あなたのその割れ顎の線をもう1本増やしてあげたいくらいに腹が立ってるの」
ジュリアを怒らせる様な事をした覚えの無いアーダルベルト番長は、訳が分からない状態であった。
「・・・・覚えの無い顔をしているわね。良いわ、私が何で怒ってるか教えてあげるわ」
アーダルベルト番長へと歩み寄ったジュリアは、番長の学ランの襟はしを掴んで話しだした。
「アーダルベルト・・・・あなたが特定の女性との付き合いは私に口出す権利は無いわ。でもね、2人の女性と同時に付き合おうだなんて男として最低な行為なんじゃないかしら?私そういう事をする人って、大っっっっっ嫌いなのよね」
「はぁ?」
いきなり素っ頓狂な声を上げたアーダルベルト番長であった。
こいつは何を言ってるんだ?と若干混乱している様だ。
「おい、ちょっと待てよジュリア。俺が2人の女と同時に付き合うだなんて、何を馬鹿な事言ってるんだ?」
「言い逃れしようだなんて見苦しいわね。私はヨザックからしっかりと聞いてるのよ?今日はあなたの元に『可愛い女の子のお客さんが2人も来てる』ってね」
訳を知ったアーダルベルト番長は思った。
(ジュリアの奴・・・完璧に誤解してやがる)
「あのな、ジュリア。よーく聞けよ?ヨザックが言ってた可愛い客がと言うのは多分、お前とさっきまで話してたあの双子達の事だ」
「えっ?」
今度はジュリアが素っ頓狂な声を上げた。
「・・・・そうなの?」
「そうだ、疑うなら双子達に聞いてみろ」
ジュリアはアーダルベルト番長を離して双子達の方へと戻って話し掛けた。
「ねぇ、ジェイソンちゃん、フレディちゃん。あなた達が言ってた『マチョに会いに来た』ってのは、アーダルベルトの事?」
「うん、そうだよ」
「ジュリアさんもマチョと知り合いだったんだね」
呑気に笑いながら答える双子達に、ジュリアもアーダルベルト番長もがくりと脱力した。
そして誤解の解けたジュリアの顔がみるみる赤くなった。
「や・・・やだ、私ったら///ごめんなさい、アーダルベルト。誤解してたとは言え、いきなり殴り飛ばしてしまって・・・・」
アーダルベルト番長はやれやれと言った感じで溜息を吐いて、ジュリアに近付いて話した。
「別に怒っちゃい無ぇよ。誤解が解けたんならそれで良いんだ。それより、お前は俺をどんな風に見てるんだ?俺が2人の女と同時に付き合うだなんて、そんな馬鹿な事をする様な軟弱者にでも見えたのか?」
俺にとっては殴られた事より、ジュリアにそう思われてた方がよっぽど痛いぜ・・・・。
「それは、その・・・・ごめんなさい。アーダルベルトだからこそ、余計にそういう事をしてほしく無いって思っただけで・・・・。普段からそういう風に見てる訳では無いのよ?」
「本当か?」
「本当よ。アーダルベルトがそんな最低な奴だったら、こんな風に近付いて知り合いになろうだなんて思わないわ」
「そ・・・そうかよ。なら、別に良い・・・///」
アーダルベルト番長はジュリアからふいと顔を逸らす。
逸らした顔は俄かに赤くなってるのを双子達は見ていた。
「ねぇ、フレディ。ジェイソン達、先にポニの所に戻ってようか?」
「そうだね、おあつい2人の邪魔して馬に蹴られたくないしね」
万丈一致のませた事を言う双子達は、無自覚に2人きりの世界に入ってるアーダルベルト番長とジュリアをそっとしてマキシーンの元へと戻る事にした。
「マチョー。ジェイソン達、先にポニの所に戻ってるね」
一瞬双子達の存在を忘れかけてたアーダルベルト番長だった。
「お・・・おぅ、分かった。俺も直ぐにマキシーン達の所に戻る」
「分かった、先に行ってるね」
そう言って双子達はマキシーンの所へ戻って行った。
「俺もあいつ等の所に戻るとするか。じゃあな、ジュリア」
「待って、アーダルベルト」
ジュリアは行こうとするアーダルベルト番長の学ランを掴んで静止させた。
「んっ、どうした?」
「・・・・私が殴った所、赤くなってるわ。ちょっと待ってて」
そう言ったジュリアは廊下にある水道でハンカチを冷やして、アーダルベルト番長の顎に当てた。
「痛てて・・・」
「顎、後で腫れるかもしれないわ。良かったら、このハンカチを使って暫らく冷やして」
「悪いな、ジュリア」
「いいえ、私の方こそ本当にごめんなさい」
「怒って無ぇって言っただろ?そんな気にするな。元はと言えば、誤解を招く様な言い方をしたヨザックにも責任があるんだしな」
ヨザックの野郎・・・後で覚えてろよ。
「お言葉に甘えて、このハンカチは借りるな。じゃあな、ジュリア」
「えぇ、じゃあねアーダルベルト」
アーダルベルト番長に特定の女性が出来ていなかった事に、何故かジュリアの心の内は何故かほっと安心していた。
ジュリアがアーダルベルト番長に対して抱く芽生え始めた不思議な感情は、少しずつだけど確実に成長している様だった。
この感情が完全に芽生えるのと彼女自信が気づくのは・・・・・もう少し先?
後日、アーダルベルト番長とジュリアからしっかりと報復を受けたヨザックの姿を目にしたとかしないとか・・・・。
END
脅威を振りまく最凶同士がご対面しました!
今回はジュリアと双子が手を組んで脅威を振りまくシーンは書けませんでしたが、その内書きたいと思います!
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