強化合宿?いいえ、ただのキャンプです(笑)
人というのは、不思議と1人になりたいと思う時があるものだ
今の俺は何故だか暫く1人になりたいと思い、こうして1人旅を満喫している。
俺の愛馬『ノーカンティ』に跨り草原を駆け抜け山奥に来た。
あまり人が訪れない山なのだろうか人の気配は感じられず、その代わりに豊かな自然の恵みを感じられる。
澄んだ空気や木々や草花の数々、そして野生の動物達。
この山は本当に美しい・・・。
このまま人があまり訪れなければ、人の手によってこの美しい自然が荒らされる事は無いだろう。
もっとも俺は人と話す事が苦手な性分か、気の知れた奴以外とはほとんど会話というものをしない。
この場の事を話す機会などまず無いだろう。
そうだ、ずっと走り通しだったノーカンティーもそろそろ喉が渇いてるだろうから水分を補給させてあげたい。
近くに川か湖があるだろうか?
こうしてコンラッドはノーカンティーの喉を潤してあげる為に水を探したのだった。
コンラッドが水を探し始めてから見つけるまではそう時間が掛らなかった。
川のせせらぎがコンラッドの耳に届き、せせらぎ音を頼りに川の方向へとノーカンティーと共に向かった。
そして・・・・・
バシャッ、バシャッ
熊が鮭を素手で捕まえるかの如く、何故かこの場にいるアーダルベルトが膝丈くらいまでの川の深さに入り素手で魚を何匹も救い上げていた。
コンラッドはその光景を見てズッコケそうになった。
と言うより、本当に熊がいるのだと一瞬錯覚してしまったではないか。
そんなコンラッドの心情など知る由も無く、アーダルベルトは背後に現れたコンラッドの存在に気が付いた。
「よぉ、コンラッドじゃねぇか。何でこんな場にいるんだ?」
「それはこっちの台詞だ、アーダルベルト。何でお前がここにいる?しかも釣り道具も使わずに熊みたいに素手で魚を捕まえて」
「あのな、いくら俺でも水の中で素早く逃げ回る魚をそう簡単に素手で捕まえられる訳ないだろうが。向かってくる鮫とか巨大イカは別だけどな」
「たった今、素手で魚をいとも簡単に救い上げてたじゃないか」
「あぁ、それはな・・・・」
「見て、アーダルベルト。この川には魚がたくさんいそうだわ」
「そうだな、ジュリア。今晩の夕食に何匹か釣っておくか」
「待って、釣りをするよりもっと手っ取り早い方法で魚を捕れるかもしれないわ。私に良い考えがあるの」
そう言ってジュリアはせせらぎ音を頼りに進んで川に入る直前で止まり、すうっと一息吸った。
(この一撃・・・・我が拳に全身全霊の力を集中させて)
「せいっ!」
ずしーん!!
ジュリアの拳が地面を打つ。
重い一撃により地響きと振動がなる。
そして川の魚達は振動の凄まじい衝撃が川の水の中にまで伝わったのが原因で気絶し、水上へとぷかりと浮いてきたのでした。
「・・・・という訳だ」
「という訳って・・・・やはり、ジュリアも来てるのか」
「あぁ、俺とジュリアはキャンプの真っ最中だ」
「なるほど・・・。俺は1人旅の途中でここに立ち寄ったが、道中で全く出会う事も無かったな。別の経路から来たのか?」
「あぁ、俺とジュリアはロッククライミングで絶壁を上ってきたからな。道中会わなくて当然かもな」
「ロッ・・・・」
アーダルベルトの言葉にコンラッドはぐらりと眩暈がした。
ジュリアは盲目のくせに行動力は人1倍どころか100倍はある。
そして他人にも自分にも妥協を許さない負けず嫌いな性格で鍛錬は日々怠らない。
絶壁という過酷な経路をジュリアが先に上り、その後ろから手を掛けられそうな部分の位置をアーダルベルトが見つけジュリアに『ジュリア、もう少し右手を右側に動かせ!手が掛けられそうな出っ張りがあるぞ!』とか指示を出してたに違いない。
そんな息ぴったりな夫婦二人三脚の光景を、コンラッドを眩暈を感じながらも容易に想像してしまった。
「あのな、アーダルベルト。ジュリアの亭主ならもう少しジュリアの無茶ぶりを止めてくれ(溜息)」
「なっ、何言ってんだよ!まだ亭主じゃ無ぇよ///」
いずれはなるけどな、と少し照れくさそうにアーダルベルトは言った。
2人がそんなやり取りをしていたら・・・・。
「アーダルベルト以外にも別の気配を感じると思ったら、この気配はコンラッドね?」
背後からジュリアが現れた。
絶壁をロッククライミングしたくせに全く披露を感じさせない、とてもにこやかな笑顔でジュリアはそこに立っていた。
「お久しぶりです、ジュリア。2人の逢引きを邪魔してしまって申し訳ない」
「やーね、コンラッドったら。そんな事今更気にしなくても良いわよ。それよりアーダルベルト、魚はたくさん捕れかしら?」
「あぁ、ジュリアのお陰でたくさん捕れたぞ」
「そう、良かったわ。私が魚達を気絶させといて言うのも変だけど、魚は何匹か逃がしてあげてね?ここの魚達を絶滅させる訳にはいかないから」
「あぁ、分かってるぜ。お前がそう言うと思って、最初から魚は俺達が食べる分だけ捕ろうと思っていた」
「ありがとう、アーダルベルト。私の方も狼を仕留めてきたから今夜の夕食は困らなそうね」
「お・・・・」
狼を仕留めてきたと言うジュリアにコンラッドはまたもや眩暈がした。
そういえばジュリアは1人でも獰猛な熊をなぎ倒せたから、狼の1匹や2匹は仕留める事など朝飯前だろうなとコンラッドは思った。
「全く、また無茶をしてきたのか?お前は」
「何言ってるの、アーダルベルト。狼の1匹仕留めたくらいじゃ無茶の内に入らないわ。帰りも絶壁から行くんだから、しっかりとスタミナを蓄えておかないとよ。貴方の今晩の料理、とても楽しみにしてるんだから」
「そうだな、ジュリアの為にスタミナたっぷりの料理を作ってやるよ。コンラッドも一緒にどうだ?」
「いや・・・、俺はノーカンティーがいるから今回は遠慮させてもらうよ。2人の逢引きをこれ以上邪魔したくないから、もう行くよ。それでは2人共、また眞魔国で」
そう言ってコンラッドはそそくさと退散してしまった。
ぶっちゃけるとジュリアとアーダルベルトの強化合宿兼体を張ったサバイバルキャンプに付き合いたくなかっただけだったと言う事は、コンラッドの心の中だけに閉まっておこう。
END
何年かぶりの更新です(遠い目)
本当に皆様、お待たせしてすみませんです(土下座)
とりあえず、我が家の最強夫婦は通常運転のつもりです(苦笑)
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