貰えるかな?ドキドキバレンタインデー
ここは眞魔国、『第27代魔王 渋谷有利』が治める時代であった。
そして巨大な魔力を誇る3大魔女の1人、白のジュリアがどういう訳だかこの世に生き続けてる次元でもある。
事の成り行きは眞王廟で言賜巫女として仕えるウルリーケに、偉大なる眞王陛下の御言葉が下された事から始まった。
それは3大魔女の1人であるジュリアの魔力の源の1部分を具現化し、それをコンラッドが地球に運ぶ事だった。
そして、その魔力の力を得て魔王を誕生させたらしいのだが・・・・。
どういう仕組みでそうなったかは細かく明確にはされて無く、張本人達も細かい事は気にしてないのでその事はとりあえず置いておこう。
とにかく、何かと問題が起こる時代に変わりは無いが、皆が楽しそうに過ごしながら生活していたのは間違いなかった。
そんなある日の事・・・・・。
「ユーリ、2月ですね」
「そうだな、コンラッド。2月だな」
「2月と言えばもう過ぐですね」
「あぁ、もうそんな時期になったんだ。時の流れは早いよな」
「はい、俺はこの時期になるのがどんなに待ち遠しかったか・・・・」
「コンラッド、そんなに楽しみにしてたんだ」
「勿論ですよ!早く来ないかと、それはもうどんなに心待ちにしていた事か!!」
「そっか、コンラッドはそんなに楽しみにしてたんだ。春が来るのを。そうだよな、2月となればもう春は目前だもんな。やっぱり寒い時期より暖かい時期の方が良いよな〜」
コンラッドはずるっと滑った。
「いえ・・・ユーリ、そうでは無くて」
「んっ、違うの?」
「確かに春は好きですが、そうでは無いんです。2月と言えばあれじゃないですか!」
「あれ?」
ユーリは首を傾けて考え込む。
「ほら、地球では2月になれば毎年行われるイベントですよ!」
「あぁ、あれか!」
「そうです!あれです!!」
「そうそう、2月と言えばあれも目前だよな。節分なんて小学生以来だったからすっかり忘れてたよ」
呑気に笑いながら言ったユーリだが、コンラッドはガタンっと転んだ。
コンラッドは起き上がってユーリの肩をがっしりと掴み、これでもかって位に顔を近づけながら叫んだ。
「違います!!」
「ひっ・・・・コンラッド、ちょっと恐いって」
コンラッドの超真剣な表情がユーリの目には恐ろしく映った様で、若干引き気味であった。
スコーン!
「痛っ!」
コンラッドの後頭部を何者かがこついた。
「コンラッド、真昼間から堂々とユーリ陛下にセクシャルハラスメントは良く無いわね」
(注)コンラッド視点の訳・・・私のユーリ陛下に真昼間から堂々と不埒な行為するとは良い度胸ね。
「ジュ・・・ジュリア・・・」
「そうそう、後でコンラッドに用事があるのよ。付き合ってくれるわよね?(にっこりvv)」
(注)コンラッド視点の訳・・・2度と不埒な真似を起こそうなどと思わない様に、後でたっぷりと扱いてあげるから覚悟しておいてね?(にっこりvv)
コンラッドはジュリアの天使の様な笑顔に恐怖しか感じられず、無言でガタガタぶるぶると体を震わせるしかなかった。
「あっ、ジュリアさん」
「陛下、大丈夫ですか?コンラッドに何かされませんでした?」
「うん、大丈夫。それより、コンラッド一体どうしたんだ?さっきから何か煮え切らない態度だし」
「・・・・何でもありません(しくしく・・・(涙))」
コンラッドはマジ泣きしながら部屋の隅っこで膝を抱えてしまった。
そんなコンラッドの様子に全く気づかないユーリはある事を思い出した。
「そういえば、2月と言えばバレンタインもあるよな。すっかり忘れてたよ」
「バレンタイン・・・ですか?」
ユーリの発言にコンラッドはピクリと反応し、耳ダンボにしながら聞いた。
そして期待に満ち溢れた様な表情でユーリの方をちらりと見た。
そうです・・・・俺はそれが言いたかったんですよ、ユーリ・・・・(感涙)
悦に入り始めたコンラッドの様子に相変わらずユーリは気づかず、ジュリアと話しを続けていた。
「陛下、『バレンタイン』とは何ですか?」
「そっか、ここはバレンタインなんて風習は無いんですね。バレンタインと言うのは女性が好きな人や気になる人に本命を。他にはお世話になってる人とかには義理でチョコレートと言うお菓子を渡す日なんですよ」
「地球にはそんな風習があるんですか。この事を他の人にも教えたら、きっと女性の間で大盛り上がりになりそうですね」
「そうですね、地球でもバレンタインの時期になると大抵の女の子は張り切ってますし。でも、俺は相変わらずお袋からの義理チョコしか貰えないんですけどね。ジュリアさんはアーダルベルトにチョコ渡すんですか?」
「今までその様な風習は眞魔国では習慣にされてないので、アーダルベルトに渡すとかはまだ考えて無いです」
「渡した方が良いと思いますよ。アーダルベルトもいきなりジュリアさんからチョコを貰ったらびっくりするかも」
「ふふっ、そうかもしれませんね。せっかく陛下にバレンタインと言うイベントの内容を教えてもらった事ですし、今回はアーダルベルトを驚かすのも兼ねて渡してみるのも良いですね」
「ジュリアさんみたいな女性から本命チョコを貰えるアーダルベルトが羨ましいですよ」
「陛下さえご迷惑で無かったらチョコレートを陛下にも御送りしたいんですが、よろしいですか?」
「気持ちは嬉しいですけど、今回はアーダルベルトだけに渡してあげてください。ジュリアさんからの初めてのバレンタインチョコを俺も貰ったなんてアーダルベルトに知れたら、何だか嫉妬されそうな気もしますし」
「まぁ、陛下ったら」
ユーリとジュリアはくすくすと笑った。
「分かりました、今回はアーダルベルトだけに本命チョコを渡します。早速準備しようと思うので、私はこれで失礼しますね」
「待ってジュリアさん、送って行きますよ」
ユーリは盲目であるジュリアを気にして送って行こうとした。
「いえ、送ってくださらなくても大丈夫です。もう何年もこの足で歩いた場所なので多少は見えなくても無事に帰る事は出来ますから。お気遣いありがとうございます」
「そっか、気をつけてね、ジュリアさん」
「あっ、忘れる所だったわ」
ジュリアが去ろうとする前に、コンラッドの方へと振り向いてこう言い残した。
「コンラッド、用がある時にまた後程呼びに来るから忘れないでね(にっこりvv)」
(注)コンラッド視点の訳・・・後で呼びに来るから逃げずに待っててね(にっこりvv)
「は・・・はい・・・・(滝汗)」
そして漸くジュリアはユーリとコンラッドの元から去って行った。
「バレンタインデー・・・懐かしいですね。俺も地球に行ってた頃、あなたの父親である勝馬からバレンタインデーやホワイトデーの事を教わったんですよ」
「えっ、そうなの?」
「はい、美子さんから毎年本命チョコを貰ってると惚気話しを散々聞かされました」
「親父・・・恥ずかしいな、ったく。そういえばさ、コンラッドがさっき言いたかった事ってもしかしてバレンタインの事だった?」
「ユーリ、やっと気づいてくれたんですね・・・・」
コンラッドはそっとユーリの手を握った。
(あなたからのチョコレート、心よりお待ちしています)・・・っと目で訴えながら。
しかし、肝心のユーリが気づくかどうかは別である。
「心配しなくても、コンラッドなら絶対チョコ貰えるって。俺が保障するから」
ユーリはコンラッドが今年はチョコレートが貰えないのではないかと心配してると見当違いな勘違いをしたのだった。
・・・・そんなこんなでバレンタインデー当日・・・・
あっという間にバレンタインデーの事が知れ渡った眞魔国は、女性達はうきうきと浮かれながらチョコレートを用意していた。
ジュリアも婚約者であるアーダルベルトに本命チョコレートを手作りにしようと考えたが、当のアーダルベルトに手作りチョコの事がバレて1人で料理など猛反対された。
その代わり、2人でチョコレート菓子を作る事にして一緒に食べる事になったのだった。
何だかんだで眞魔国中がピンク1色になってる気のするバレンタインデーだった。
一方、1番この日を楽しみにしていたであろうコンラッドはと言うと・・・・
「コンラッド、これチョコなんだけど・・・・」
コンラッドは綺麗に包装されたチョコレートをユーリから手渡された。
「ユ・・・ユーリ、ありがとございます!(感涙)」
ユーリからチョコレートを貰ってコンラッドは昇天する思いだった。
しかし・・・・・
「後、これとこれとこれもチョコレート。そうそう、このチョコもあんたに渡さなきゃな」
「あ、あの・・・ユーリ?」
次々にチョコレートの入った箱をユーリから手渡され、コンラッドの手にはチョコレートでいっぱいになった。
「やっぱりコンラッドってモテモテだよな。ここに来るまでに、たくさんのメイドさんからあんたにチョコを渡してくれって頼まれてさ。本当に羨ましいなー」
つまり、ユーリにお願いすれば確実にコンラッドにチョコレート行き渡ると思ったメイド達は、コンラッドに自分達のチョコレートを渡してくれとユーリに懇願したのだった。
お人よしであるユーリはメイド達のお願いを快く引き受け、お願い通りにコンラッドにチョコレートを渡したに過ぎなかった。
ユーリからのチョコレートだと勘違いしたコンラッドは、一気に現実へと引き戻された。
「そ・・・・そうですか・・・・(がっくり)」
コンラッドは心底ガッカリした。
やはりユーリからチョコレートは貰えそうに無いのだった。
そこで、コンラッドはある事を思いついた。
・・・・そうか、ユーリがチョコを用意してないのなら俺が用意すれば良いだけの事。
最近では『逆チョコ』というのも流行している様だし、ここは実践してみるのも一つの手だな。
「すみません、ユーリ。今日は調子が悪いので御前を少し離れますが、よろしいですか?」
「コンラッド調子悪いの?だったら無理しないで休んでよ。俺の事は気にしなくて良いからさ」
「ありがとうございます。直ぐに別の護衛を就かせますので、少々お待ちを」
一兵卒にユーリの護衛に就かせ、コンラッドは何としてでも今日中にユーリにチョコレートを渡す為に早々に準備に入った。
まずは菓子作りの得意なヨザックを拘束し、そして奴に材料を買いに行ってもらってる間に俺は菓子作りの準備をする。
そしてヨザックにレシピを教わりながら、ユーリが好きそうで無難そうなチョコレート菓子を用意してユーリに手渡す・・・・完璧だ。
そうと決まれば早速ヨザックを探さなければ!
こうして、コンラッドの『逆チョコ作戦』が始まったのであった。
ユーリに無事に手渡されたかどうかは・・・・皆様のご想像にお任せします。
END
フリーにするべきかどうか悩みましたが、別にフリーにするまでも無いかという考えに至りました(笑)
もう直ぐバレンタインですが、チョコを渡す相手がいないのも何だか虚しく感じる今日この頃です(ふっ・・・・(哀愁))