妖しいお薬にご用心
拝啓
母上、先立つ不幸をどうぞお許しください。
この世に生を受けさせた事、ここまで立派に育てて下さった事、真に感謝しております。
勝手な事ながら自分は今この時より、あの世へと旅立ちたいと思います。
急な突拍子も無い行動に出てしまい申し訳ありません。
願わくば、これからも皆が健やかに幸福である事を心から祈っています。
・・・・さようなら。
byコンラート・ウェラー
「早まるんじゃありません!コンラート」
「そうだ!コンラート。だから首を吊って自害しようなどと馬鹿な真似は止せ!!」
「五月蝿い、離してくれ!俺は・・・俺は・・・ユーリに嫌われたのなら、未練や思い残す事なんて何も無い!!」
「だから早まるなっての!隊長。坊ちゃんが隊長を嫌うなんて、きっと何かあったに違いませんって」
今この瞬間に自害を図ろうとするコンラッドに、ギュンター、グウェンダル、ヨザックが必死に止めていた。
いきなりコンラッドは『ユーリが・・・・俺のユーリが・・・・』と呟きながら、あの世へと旅立つ準備をもくもくと始めたのでした。
それを見かけた兵士達が『閣下のご乱心だー!!』と叫びながら、ギュンター達を呼びに行ったのである。
大の男3人がかりであってもコンラッドは一向に止まる気配の無いので、グウェンダルは最終手段を取ってヨザックに命じた。
「えぇい、このままでは拉致があかん!グリエ、ユーリを呼んで来い!!」
「はっ、はいぃっ!只今」
グウェンダルの命令と同時に颯爽と掛けて行ったヨザックだった。
一方、ユーリはヴォルフとグレタの3人で午後のティータイムを満喫していた。
「坊ちゃん!」
呑気にお茶を飲みながら茶菓子を頬張るユーリが、いつもと変わらない様子で聞いてきた。
「あれ?ヨザックじゃん。急にどうしたんだ?」
「まったく、相変わらず落ち着きの無い。少しは静かに出来ないのか?グリエ。せっかく親子3人での有意義なお茶の時間を過ごしてるのが台無しではないか」
「でも、ヴォルフラム。グレタは賑やかな方が楽しいよ」
ヴォルフラムは微笑みながら、優しい手つきでグレタの頭を撫でながら言った。
「そうか、グレタは寛大だな。流石、僕とユーリの子だ」
「えへへvv」
今の周辺は仲良し親子モードの空気が垂れ流し状態だった。
「・・・・って、和やかな親子モードは後回しにして坊ちゃん、早く一緒に来て下さい!坊ちゃんじゃないと手に負えない一大事なんっすよ!!」
「えっ、そうなのか?分かった、今行く。グレタ、ヴォルフ、ごめんな?なるべく早く戻って来るから」
「行ってらっしゃい、ユーリ。気をつけてね」
「仕方無い。グレタ、ユーリが戻って来るまで毒女シリーズでも僕と一緒に読むか?」
「うん」
グレタはヴォルフラムに任せて、ユーリはヨザックと共にコンラッドのいる方へと向かったのでした。
「閣下!坊ちゃんお連れしました」
「うむ、ユーリ早くこいつを止めてくれ」
「コンラート、陛下が来てくださいましたよ?ほら、いつもと変わらぬ愛らしい様子で。やはり嫌われたと言うのはあなたの気のせいですよ」
「グウェンにギュンターも何やってんの?」
ユーリの声に反応して、コンラッドはユーリの方へと振り返る。
「ユーリ・・・・」
するとコンラッドと目が合った瞬間、ユーリの様子がみるみる可笑しくなった。
「・・・・何だ、あんたもいたんだ。へたれ野郎」
ピシィッ・・・・・・・・
辺りの空気が凍りついた瞬間であった。
まるで汚らわしい物を見る様な眼差しでコンラッドを見て、ユーリの表情は何処か黒さを含んでいた。
「あ・・・あの、坊ちゃん?」
「なぁ、ヨザック。もしかして一大事ってのは、あのどうしようもないへたれ野郎が原因なの?」
そのへたれ野郎と言うのは間違いなくコンラッドを指してる事なので、ヨザックは何も言えずただ肯定するしか出来なかった。
「は・・・はい」
「そっか、分かった」
コンラッドに対しては何処か冷たい態度なのに、ヨザック達にはいつもと態度が変わらないユーリであった。
放心状態のコンラッドにユーリが近付いて行って、声を掛けた。
「おい、この似非腹黒へたれ野郎。どうしようもない理由でグウェン達の手を煩わせるんじゃ無ぇよ!唯一の取り得の剣術指南でもして少しは役に立て!」
コンラッドの背景にガガーン!と効果音が付きそうな程、ショックを受けコンラッドはへたりと倒れこんだ。
「あっ、悪い。剣術だけが唯一の取り得じゃ無いよな。さりげなーく俺の尻や腰に手を廻す仕草なんかは、痴漢常習者顔負けの才能だよな」
立ち去ろうとするユーリに、コンラッドは縋る様に手を差し伸べた。
「ユ・・・・ユーリ・・・・」
ユーリは自分の名を呼ぶコンラッドに振り向き、睨みつけながら言い放った。
「うっせぇ!!へたれ変態野郎が気安く呼ぶんじゃ無ぇ!!上様化して超特大強力な水魔術を喰らわすぞ!?」
「す・・・すみません」
ユーリは何事も無かった様にヴォルフ達の元へと戻って行った。
いつものユーリなら有り得ない発言を尽く受けたコンラッドは、ショックのあまりもはや口から魂が出掛かっている状態だ。
「・・・・やはり俺はユーリに嫌われた・・・・死のう・・・・」
コンラッドはそう呟いたら再び天井から吊り上げた縄に手を掛けた。
「止めなさい、コンラート!あれは何かの間違いです!!」
「そ・・・そうっすよ、隊長。坊ちゃん、きっと何か悪いもんでも食って可笑しくなってるんっすよ」
「うわーん!ユーリに嫌われたー!!(大泣き)」
ギュンターやヨザックのフォローなどコンラッドの耳には入らず、ただ泣き叫ぶだけのコンラッドであった。
「全く、何ですか?騒々しい。あなた方が騒がしいせいで、私の素晴らしい魔導実験に集中出来ないでは無いですか!」
「「「アニシナ(ちゃん)!?」」」
赤い魔女様ことアニシナの登場で、一同は彼女へと振り返る。
アニシナは大の男集4人の元へと近付いて、天井からぶら下がってる縄に手を掛けてるコンラッドの姿が目に入った。
「おや、何をしてるのですか?コンラート。無駄に命を絶とうと言うのなら止めはしませんが、亡骸は邪魔になるだけなので断つ場所はもっと考慮なさい」
「アニシナちゃん、言い方相変わらずキツ〜・・・・」
アニシナの言い分にグウェンダルは怒鳴った。
「アニシナ!ふざけた事言ってないで、この馬鹿を止めるのに手伝え!!」
「それが人に物を頼む態度ですか?グウェンダル。もしそうだと言うなら、失笑物ですね。あまりの非常識さに、哀れすぎて見るに耐えないと言うのは正にこの事ですね」
普段の自分の行いは棚に上げ、キッパリとグウェンダルを指摘するアニシナだった。
「・・・ぐっ、分かった。後で私とギュンターがもにたあでも何でも付き合うから、コンラートを止めるのを手伝ってくれ」
「ちょっ、グウェンダル?!あなたがもにたあになる事は止めはしませんが、何故私まで巻き込まれなくてはいけないのですか!?」
「許せ、ギュンター。死なば諸共と言うではないか」
「そんな嫌な言葉、今ここで使わないでください!」
ギュンターの反論はあっさりとスルーされ話しは進んだ。
「よろしい、男に二言はありませんね?グウェンダル、ギュンター」
「ですから、私は・・・・」
「あぁ、約束しよう」
言い掛けたギュンターを押しのけて、グウェンダルとアニシナの取引はあっさりと承諾してしまった。
「では、少々お待ちを・・・」
アニシナは懐から何かのスプレーみたいなのを取り出し、コンラッドの顔にプシューっと噴きかけた。
「ふにゃ・・・・」
スプレーを掛けられたコンラッドは床に倒れこみ、深い眠りに入ってしまった。
「アニシナちゃん、今コンラッドに何を掛けたんだ?」
「よくぞ聞いてくださいました、グリエ。今コンラートに掛けたスプレーは私が開発した魔導具。これさえあればどんなに鍛え上げられた軍人だろうが、大人のゾモサゴリ竜や桃色毒兎も何のその。名付けて『下手すると永眠1歩手前まで陥れちゃうぞ君 2号』です」
「うわー・・・なんつぅ嫌なネーミング。しかも2号って事は1号は失敗作っすか、アニシナちゃん」
「失敗を恐れていては、新たな魔導具は生み出せません。しかし、この2号はどうやら成功した様です。良かったですね、グウェンダル。私の日々の素晴らしい研究と身を挺してもにたあへとあなた自身を捧げてくれたお陰で、漸く新たな魔導具完成へと結果が実を結びましたね」
アニシナはグウェンダルに向けて、にっこりと微笑みながら言った。
その笑顔を見た約2名は『この、悪魔が・・・』と心の中でぼそりと呟いた。
「それはそうと、何を呆けているのです?せっかく私が貴重な時間を割いてコンラート暴走を止めたのですから、縄なり鎖なりさっさと拘束させて何も出来ない様になさい」
「あ・・・あぁ、感謝する」
アニシナの言われた通り、深い眠りの入ったコンラッドを馬鹿な真似は出来ない様に鎖で拘束した。
「これで良いですね。まったく、コンラートも陛下の事となると人が変わりますね」
「本当っすね。また暴走する様ならミレーユ嬢かギーゼラ嬢でも呼んで何とかしてもらいましょう」
「そんな事よりユーリの様子がいつもと違ってたのは気になるな。普段のあいつならコンラートにあの様な事は決して言わないだろう」
「陛下の様子がいつもと違っていた?どんな風に違ったのです?」
「何て言うか、普段の坊ちゃんは絶対に有り得ない言葉を尽く連発してましたね。それもコンラッドに対してのみ」
「なるほど、どうやら私の新たな研究実験も良い方向へ行ってる様ですね。実に喜ばしい事です」
「って、アニシナちゃん?!まさか坊ちゃんの様子が違っていたのって・・・・まさか」
「えぇ、まだ開発段階の薬の効能を調べる為に陛下が直々にもにたあになってくださいました」
「アニシナ!陛下に得体の知れない物を口にさせないでください!!陛下の身に何かあってからでは遅いのですよ?!」
「私も見くびられたものですね。この私が陛下を危険に冒すような薬を飲ませると思ってるのですか?」
「お前ならやりかねんがな・・・」
「何か言いまして?グウェンダル」
「・・・・いや、何でもない」
「まぁ、良いでしょう。陛下に飲ませたのは内気な人も積極的になれる薬です。ちゃんと効能が出てるか他の人がもにたあになってもらい結果のデータが取れなければ、成功とは言えませんからね」
「いや・・・あの坊ちゃんは積極的と言うか、黒いと言うか・・・」
「積極的とは大分違う様な感じでしたけどね。やはりいつもの陛下が1番魅力的で素敵です」
「ふむ、あの薬に関してはまだまだ研究と実験が必要みたいですね。これが完成すれば、内気な人が意中の相手にもっと自分をアピール出来る様になるのですが」
という事は、坊ちゃんの意中の相手=コンラッドって事か。
あぁ、だからコンラッドにだけ態度がいつもと180度違ったんっすね・・・・。
「そんな事より、その得体の知れない薬をお前はユーリに無理やり飲ませたのか!?」
「人聞きの悪い事を言われたくありませんね、グウェンダル。あれはちゃんと合意の上で、陛下に飲んでいただいたのですよ。あなた方がもにたあに中々捕まらなかった時、私が困っていたら心優しい陛下が困ってる事があるなら何でも強力すると暖かい言葉を掛けてくださったのです」
つまり、アニシナが困っていた原因がもにたあに関する事とは思わなかったユーリだった。
大方『男に二言はありませんね?ではこの薬を飲んでください』、とでもアニシナの口車に乗せられたのだろう。
「私は魔導研究に忙しいので、あなた方ばかりに構っていられません。グウェンダル、ギュンター、もにたあが必要になった際また呼びに行くので、それまで魔力を万全にして待機している様に。では、私はこれで」
アニシナは3人と未だ深い眠りに入ってるコンラッドの元から去って行った。
人騒がせな赤い魔女様に、『頼むから騒ぎになる実験だけはもう少し控えてくれ』っとその場の約2名が思ったのでした。
深夜となり、漸く薬の効能が切れたユーリがコンラッドの元へと謝りに行った。
「コンラッド、本当にごめん!昼間の事はあまり覚えてないけど、コンラッドに酷い事をいっぱい言ったのはなんとなく覚えてる。だからごめん、あれは俺の本心じゃ無い!!」
・・・ってか、何でコンラッドは鎖で拘束されてんの?
あれから鎖で拘束されたコンラッドは、念の為に今夜一晩はと拘束されたまま部屋で放置されていた。
何時間も深い眠りに入っていたコンラッドも、今はしっかりと覚醒していた。
「・・・・本当ですか?俺の事は嫌ってませんか?ユーリ」
「当たり前だろ!俺がコンラッドを嫌うなんて絶対に無い!!」
ユーリはそう言った後、ぼそぼそと小声で囁いた。
「・・・・こんなに大好きなんだもん。嫌うなんて有り得ないよ///」
その言葉しっかりと耳に入ったコンラッドは、しっかりとユーリに聞きなおした。
「・・・・えっ?ユーリ、今何て言ったんですか?」
「だー!!だから俺はあんたの事が大好きだから、嫌いになるなんて有り得ないって言ったの///そんな恥ずかしい事を聞き返すなよ!」
顔を真っ赤にさせながら恥ずかしそうに叫ぶユーリの可愛らしい姿に、コンラッドの理性はあっけなくぷちっと切れ、ついでに拘束されていた鎖までも火事場の馬鹿力とやらで引き千切ってユーリにがばりと抱きついた。
「ユ・・・・ユーリー!!!!」
「・・・って、コンラッド!?あんた何処触って・・・・。ちょっ・・・・ぎゃー!!///」
断末魔の様なユーリの叫び声が血盟城に響いた。
ユーリの身に何が起こったのかは、当人達のみ知る。
END
久々の更新出来ました♪
次はコンユにしようと思ってましたが、コンユファンの方々こんなんですみません(土下座)
しかもコンユと言えるのか何とも微妙な物に・・・・(滝汗)
題して、コンラッドをいじめるユーリ編でした。
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